クレイジー・ハイジンクス | ナノ



『はあ!?アンタ馬鹿じゃないの!?』

この旅館で働くからしばらくは帰らない、と母に連絡した時の第一声がこれだった。馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。携帯の電話越しに母の深いため息が聞こえる。

『だいたいねえ、アンタはすぐ気分でそういうことするんだから……』
「オカンが働くか結婚しろってしつこいから仕事を探しただけですぅ」
『誰も今すぐなんて言ってないでしょうがこの馬鹿!どうせ二日、三日したら仕事なんて止めるんだから』
「ところがどっこい。そうは問屋が卸さねぇよ!」
『アンタそれ使い方間違ってない?』

私は見えない相手に胸を張ってみせると、ふふんと鼻息を荒くした。今の私はこれまでと違うのだ。

「私、一ヶ月間は絶対に帰らないから」
『はいはい、一ヶ月ね。一週間の間違いじゃないわね?』
「マカセロー!」
『それはいいけどアンタ、アパートやらはいいの?』
「なんとかなる」
『一度その根性叩き直してもらった方がいいわよ』
「マカセロー!」
『あ、それより平田さんのことなんだけどね、』
「それじゃ私は忙しいので!さようなら!」

母の話を打ち切って通話終了ボタンを押す。アパートのことは大家さんに連絡を入れて話をつければ大丈夫だろう。この楽天的な性格だって、今までの暮らしを乗り超えて来れたのだ。平田は知らん。
とりあえず、女将さんに許可が取れたことを報告しよう。そう思い部屋を出ると、ちょうど梅吉さんと出くわした。梅吉さんは荷物を持ちながら私に駆けよって来る。

「ゆきちゃん、ここで働くんだって?おめでとう!」
「ありがとう梅吉さん!」
「梅木よ」
「すいません」
「ここは大してお客様も来ないし、結構いいところよ〜。忙しいけど」
「頑張ります!」
「それじゃ、私は仕事があるから」
「頑張って下さいねー」

梅木さんと別れてから私も女将さんのところへ向かう。女将さんも母もすぐに承諾してくれて助かった。全てトントン拍子に事が運べて、かなりラッキーだ。そこまで考えて、私は首を傾げた。
――上手く運び過ぎてやしないか。いや、上手く運べて嬉しいっちゃ嬉しいのだが、なんだかとてつもなく怪しい気がする。誰かが裏で何か企んでるんじゃないだろうか。

「……気にしすぎかな」

うーんと唸って女将さんのいる部屋に向かう。女将さんは机に向かって書をしたためていた。……うお、今のなんか格好いい。

「女将さん、」
「あら」

女将さんはふわりと笑うと、書きかけの手紙を自然に、素早くしまった。

「そこに座ってね。これからいろいろと説明するから」
「はい」
「本格的なお仕事は明日からにしましょう」

それに頷くと、私は女将さんの前に正座をした。――待っててね、高杉さん!あっ、間違った。私の未来!


(110102)
一向に話が進まない…

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