いつかの君に優しい世界で | ナノ
まやかしの酸素


ドアをくぐり抜けた途端にひんやりとした空気が肌を撫でる。暑さでにじんでいた汗がさっと引いていくようだった。

隣町の大型図書館は地元の図書館よりも蔵書数が多く、何か調べものをするときには便利だった。ただ、少し遠いため利便性は低い。
これも地元と学校の図書館の工事が終わるまでと我慢しているが、ほぼ毎日通うのはやはりしんどい。いいダイエットだと自分を励まし、騙しながらの日々だ。

奥に進んでいくにつれて、図書館特有のあの匂いが鼻をかすめる。私はこの独特の匂いが好きで、図書館にいると気分が落ち着く。一番ゆったりできる空間だった。
直接冷房の当たるような場所を避けつついい席を探す。夏休みということもあって利用者は比較的多い。そのほとんどが勉強や調べもののようだった。友人と一緒にやっている人もいる。

なるべく一目のつかない、ひとりになれるような場所をなんとか見つけだし席を取ると、ようやく一息ついた。少しの間ぼんやりしてから鞄から課題のプリントを引っ張出し、のろのろと始める。数学は苦手だ。
参考書やノートを見比べ、睨み合いながら進めていくこと約1時間と半分。私は机に突っ伏した。この集中力でこれだけやれば上出来な方だろう。集中力は切れ、これ以上問題を解く気力も薄れた。少し休憩をとろう。
本でも読んで脳を休めようと思い席を立つ。何か良いものはないかと本棚を見上げるが、うまく頭が働かない。ぼんやりと本の背表紙を眺め歩いているうちに、他の利用者とぶつかってしまった。静かとは言い難い音が館内に響く。

「ごっ……ごめんなさい!ついぼーっとしてしまって」
「いいって。こっちもうっかりしてたし」

慌てて向こうが落とした本を広い集めた。周りの目が恥ずかしくて仕方ない。顔が一気に赤くなるのが分かった。集めた本を渡そうと顔を上げる。ごめんなさい、と言おうと思っていた私は思わず息を飲んだ。
癖の強い白い髪の毛がくしゃくしゃと揺れている。窓から差す光で綺麗に輝いていた。

「ん?何か用?」
「あっ……いえ!なんでも……」
「そ。ほんじゃ、気ィつけろよ」
「はい……すみません……」

その人はひらりと手を振ってどこかに行ってしまった。私の前を通ったときにかすかに匂った煙草の香りが、なんとなく高杉先生を彷彿とさせた。

しばらくうろうろしてようやく本を選ぶと、それだけでかなりの時間を費やしてしまったらしい。休憩を始めてから既に1時間が経つところだった。
時計の針はお昼を回ろうかというころで、本は机に置いてそのまま館内にある購買部に向かった。入り口付近にあって品物の種類も豊富、しかも奥には飲食スペースもあるため有り難い場所だった。
そこで適当に買って、奥で昼食をとる。本はある、時間を潰せるところもある、適度な空調、静かな空間。これだけ快適だと通いつめたくなるのも仕方ない。惜しむらくは、やはり遠いことだろうか。

時間もいい感じに過ぎていたので机に戻ることにした。またあの課題と格闘しなければならないのだと思うと少し面倒だ。
屑籠にゴミを捨てると小さくため息を吐いた。課題はまだ終わりそうにない。



14.01.10

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