5万打フリリク! | ナノ


窓際のいちばん後ろ。今回の席替えで見事にこの位置を獲得した俺は、早速これ見よがしに寝ることにした。
後ろの席を取れなかったやつらが文句を言いながらダラダラと机を動かす。お前が隣かよー、というお馴染みの挨拶が交わされ、担任の静かにするよう注意する声が聞こえる。もちろん俺にも寝るなとの声がかかってしまった。

つまんねえ、と軽くむくれると、俺の空いていた横の席に人が机を移動させてきた。ちらりと盗み見ると女子みたいだ。まあ野郎よりは女の子の方が気分的にも盛り上がる。ゆっくりと顔を上げると、ちょうど視線がぶつかった。

「あ、となり、坂田くんなんだ」
「…ああ、」
「坂田くんが隣なら楽しくなりそうだね」

よろしく、と笑った女に、残念ながら覚えはない。もともと人の顔と名前を覚えるのは苦手だったし、何よりこの女と関わったことなんて皆無だった。俺は彼女の名前すら知らないのに、彼女は俺のことを知っているなんて、ちょっと変な感じだ。
せっかくいい席で隣は女子だというのに、その女子の名前も知らないなんて、悪い言い方をすればなんだか損した気分だ。
……まあ良い子なんだろうけどね。気立ても良さそうだし、他の友達といるときとかじゃ気も利いてる。ここで仲良くなってると、これから楽しくなるかな、なんて考えていると、また目が合う。なんとなく気まずくて目を逸らした。小さく笑う声が聞こえて、俺は机に突っ伏した。

休み時間に入ると辺りは一気に騒がしくなる。その喧騒の中でうとうとしていると、誰かに肩を叩かれた。眠気の抜けないままゆっくり顔を上げると、そこには彼女が立っていた。ぽかんとする俺に彼女が笑う。

「どうしたの?次、教室移動だよ」
「ん、……おお」

そう言って頷くと、なるほど彼女の腕には移動教室で使う教科書やノートがある。正直面倒だ。
普段の俺ならそのまま無視してさぼっているのだが、いかんせん彼女が友達の誘いを断ってまで俺を待っている。……これ、行くしか選択肢なくね?

「坂田くん、行こう」
「うん……」

俺は低い声で頷いて、重い腰を持ち上げた。

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