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今日は卒業式があった。当日はあいにくの雨で、なんとなくすっきりしない。ホームルームの終わった教室は騒がしい。みんなで記念写真を撮ったりアルバムに寄せ書きを書いたり、せわしなかった。
私はといえば、早々に教室を出て中庭の桜をひとり眺めていた。友達と離れてしまうことよりもこの学校と離れる方が寂しい。学校、という言葉には語弊があるだろうか。どちらかといえば、学校の先生の方が正しいのかもしれない。

「……こんなとこで何やってんだ」
「高杉先生」

振り返ると高杉先生がいた。ポケットに両手を突っ込んで煙草をふかしている。先生にあるまじき行為だ。
それに苦笑していると、先生がもう一度尋ねる。

「こんなとこで何やってんだ」
「感傷に浸ろうと思って」
「懐古趣味なんてガラじゃねェだろお前」
「今日はそんな気分なんですぅ」

唇を尖らせると先生は小馬鹿にしたように鼻で笑った。短くなった煙草をそこらへんに捨てずに携帯灰皿に押し込んだのは、行儀がよろしい。私の心を読んだかのように先生が「こうしねェと怒るだろうが」と不満げにこぼした。
はは、と小さく笑って再び桜の木を見上げる。桜は先ほど降った雨でしとどに濡れていて、幹に触れるとつるりとなめらかに滑った。

「……卒業したくないって顔だな」
「あ、分かります?」
「バレバレだ」

先生が静かにそう言って、新しい煙草に火をつけた。そしてゆっくりと煙をくゆらせて私に一言、寂しいか、と尋ねた。その問いに私の心臓がぎゅっと締めつけられる。
きっと先生は、地元や友達から離れることに対し寂しいかと訊いたのだろう。もちろん寂しい。しかし、それの大半を占めるのは高杉先生だ。

私は、先生に対して不毛ともとれる想いを抱いている。

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