坂田くん、坂田くん。ねえ坂田くん。
あれから毎日、俺はことあるごとに彼女に構われている。俺も俺で断ればいいのに、なぜか彼女と行動していた。どちらかと言えば、彼女が俺に構ってるだけなんだけど。 それは周りも同じのはず。なんせ、俺は彼女と一緒に何かをする時は必ずやる気のない態度をとるからだ。それはまあ一種の照れ隠しでもあるわけだけど。
俺も俺で、なんで彼女に誘われると断れないんだろう。普段ならのらりくらりとうまくかわして逃げるのに。彼女を見ると、どうしても断れることができなかった。
「ねえ坂田くん」 「んー」 「次、移動だよ。一緒に行こう」 「……いいけど」
ほらな。やっぱり「いやだ」なんて言えない。ちょっとむくれながら頷くのは、なんでまた断れなかったんだよという自分への不満と、やっぱりいつもの照れ隠しだ。
「あ、そのついでにちょっと購買部に寄っていい?」 「……うん」
ああもう自分の馬鹿!
***
ごめんね、と彼女が謝ってきたのは、席替えをして早くも月の半分を過ぎたあたりだった。 急に謝られてぽかんとする俺に、彼女は苦笑いを浮かべてまた謝る。
「ごめんね、坂田くん」 「いや、あの……何が?」 「席替えで隣になってからしつこいでしょ、私」 「え……いや、別にしつこいとか思ってねえけど」
俺がそう答えたのは本当で、そこには彼女への気遣いや遠慮なんて一切なかった。 始めはぶっちゃけよく俺に構うよなあとは思っていたものの、それがしつこいとか、うざったいと感じることは不思議なことになかった。ここまで粘り強く俺の後ろを歩くやつなんて隣のクラスの3馬鹿以外にいなかったから、正直言えば少し愉快でもあったのだ。
そのことをやや照れを交えながら説明してやると、彼女は嬉しそうに笑った。それを見て俺も少し気が楽になる。もう既に、彼女の表情一つで一喜一憂するほどになってしまっていた。
「良かった。私が話しかけると、坂田くんが面倒そうな顔になるからてっきり……」 「うん、まあそれは……アレだよね」
流石に照れ隠しで、とは言えなかった。いろいろとお茶を濁してごまかしていると、彼女が何かを思い出したようにポケットを探り始めた。 いきなりどうしたんだとその行動を見守っていれば、やがてポケットから出てきたのは丸くて小さいあめ玉。 呆気に取られながら彼女を見上げると、彼女がにっこり笑った。
「いつも私に付き合ってくれてるお礼に!」
ぽかんとしながらあめ玉を受け取り、ぽかんとしながらそれを舐める。 友人に呼ばれて行ってしまった彼女を見送りながら、俺はいちご味のあめ玉の包装紙をずっと握りしめていた。
席替えをして早くも月の半分を過ごした隣の席の彼女は、なまえというらしい。
END 柊さまへ!
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