「い、意味が分かんないです……。前世とか、先生そんなスピリチュアルなもの信じる人でしたっけ?」
その場をごまかすよう、とぼけて言う。しかしあまり効果はなさそうで、むしろ先生の勢いを加速させただけだった。
「とぼけんじゃねえ。お前だって夢に見たはずだ。時代錯誤な世界に、妙な化け物に、血生臭い戦争に、俺に」
着流しを着てたろう、俺は派手な行事が好きだったろう、その後ろにはいつだってお前がいただろう。 私だけしか知らないはずの夢の中のことを当てられ、私は固まるしかなかった。なんでそんなことまで知ってるの、と漏らしそうになるのをなんとかこらえるものの、口元が引きつる。血の気が引くのが自分でも分かった。
青ざめる私に先生が勝ち誇ったような表情を見せた。ああ、私はこの顔を知ってる。昔、企み事がうまくいったときによく見せていた。
「ずっと探してた。ようやく見つけたときはようやくかとも思ったが、肝心のお前が何も覚えてねえんだ。そらァ歯痒いに決まってる」
でも、と少し穏やかな声音で先生が続ける。
「……目が、変わってきた」 「目?」 「俺の後ろにいたとき、あのときとおんなじ目をするようになった」
咄嗟に先生から視線を外した。先生の笑う声が聞こえて、目を逸らすのは間違いだと悟った。けど、もう遅い。
「なまえ」
びく、と体が震える。懐かしさを孕んだ声に、思わず返事をしたくなった。泣きたくなった。
「これで終いにさせてたまるかよ。なまえ。やっと見つけたんだ、お前は俺のだ。そうだろうが」 「……っ」
ああ、もうだめだ。視界がぼやける。目頭が熱い。我慢できない。 先生が再度私の名を呼ぶころには、私は既に泣いていた。
「なあなまえ、」 「はい……」 「今日で終わりか?全部なかったことにするのか?」
首を横に振る。安堵したような表情を浮かべて、先生が笑った。
「……今からでも、間に合うかな」 「むしろこれからだろ。今日でくだらねェ教師と生徒の関係もおさらばすんだから」
うん、と頷いて先生を見据えた。先生もじっと私を見つめていた。
「また、やり直そう、晋助」 「当たり前ェだろ、なまえ」
互いに笑いあう。あの夢の続きを、今日から始めよう。
曇天だった空模様は、いつの間にか太陽が顔を出していた。
END 鈴さまへ!
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