初めて先生に会ったのは入学式の時だ。廊下で先生とすれ違った瞬間、ひどく苦しくて懐かしいものが私の体を駆け巡ったのを覚えている。なんで、と考える間もなく今度は涙が溢れ出し、周りにいる友人に心配された。 その日から、妙な夢を見るようになった。時代劇のような格好をした人たちと、近代的な道具や建物。ちぐはぐな内容に最初こそ面白がっていたものの、やがてそう笑っていられなくなった。 夢の中に、着物を身に纏った先生が出てきたのだ。 夢の中の先生は眼帯ではなく包帯を、煙草の代わりに細長い煙管を吸っていて、いつも危ないことをしては楽しそうに笑っていた。
はじめは初対面のこともあって、現実世界で影響されたのだと思っていたが、先生が夢に出てくる頻度は日に日に増えていった。それに比例するように、私がうなされる頻度も増えた。
夢の内容は、刀を持ち異形の生物と戦う夢などがほとんどだった。そうでないこともあったが、たいていは人間に対象が変わるだけで夢見の悪さは変わらない。 そのどれもがいやにリアリティがあって、寝起きで吐き気を催すことも少なくなかった。
夢の中で私は先生と恋仲とまではいかなくとも、それに近い関係にあった。先生のそばにいてその背中を常に追いかけていた。必死で追いかける私に、先生もまんざらではない様子だった。 そんな夢を見る度に、現実での実情に頭を抱えたくなる。夢とは違い追いかけても追いかけても縮まらない差。それが私を苦しめた。
たかが夢で先生を好きになっただなんて言えないから、今日まで黙って過ごしてきた。たぶんこれから先も言えないだろう。 私は卒業してこの学校を離れてしまうし、何より怖かったのだ。夢のことを話して先生に嫌われたくなかった。 先生のことだから、言えばきっと頭でもおかしいのか、と返すに違いない。下手すれば今まで築き上げてきた関係が壊れそうだった。
だから一生、この夢のことは淡い恋心と一緒に私の胸に閉じ込めておくだけだ。 今日できっぱり先生からも卒業しよう。桜を眺めながらそう思った。
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