それぞれ頼んだ甘味を堪能すると、お会計をしてこれで今日は御開きだ。別の店に行くこともあるのだが、人通りの多い場所だし晋助が見つかってしまう可能性も高い。今日は断念することにした。 さあお会計をしようと席を立ってレジに向かう。もちろん割り勘である。ちらりと銀時を見ると、寂しそうに財布を覗いていた。
「……また金欠なの?」 「いや、多分、足りる……かも……」
語尾をごにょごにょさせて財布の中身を確かめる。……仕方ない、今回は私が払おう。そう思って財布の紐を緩めたときだった。 バン!と勢いよく御勘定台を叩きつける晋助。その手のひらには金銭。かなり露骨に喜ぶ銀時が視界の端に映った。
「晋助……いいの?」 「あの野郎の分もお前が払うくらいならまだマシだ」
そう吐き捨てる晋助に思わず苦笑する。ちなみにこのやりとりも毎回行われている。 お金の足りない銀時の分も私が払おうとしてすかさず晋助が支払いをしたのが始まりだ。銀時も晋助がいるとお金を出さずにすむので、一緒に来てもそこまで露骨に彼を鬱陶しがらない。晋助は完全な財布係となってしまった。
「今回も悪ィな高杉〜」 「悪ィと思うなら金くらい稼げや」 「お前みたいなボンボン育ちとは違うんだよなあ」 「……」 「あっ、ちょ、いててて!悪かったごめっ……ぎゃあああああ!」 「ちょっと晋助!」
にやにやとした笑いを隠そうともしない銀時の頬を強くつねる晋助の額には青筋が浮かんでいる。慌てて止めると、盛大に舌打ちをかましてからようやくやめた。不良の息子を持った親の気持ちで謝ると銀時は軽快に許してくれた。 それから店の前ですぐに銀時と別れ、晋助と二人で帰路に着く。
「今日のはちょっとやりすぎじゃない?」 「何が」 「あんみつ、勝手に横から食べたこと忘れたとは言わせない」 「……」 「謝っても遅いよ。欲しかったんなら素直に言ってくれればいくらでも分けたのに」 「……悪かった」 「あーあ、せっかくこのあと晋助とデートでもしようと思ってたのになあ」 「!」
わざとらしくそう言うと、晋助はあからさまに狼狽え始めた。さっきから挙動不審で目も泳いでいる。すぐに冗談だよ、とでも言えば良かったのだろうが、晋助のうろたえぶりが面白くて言うタイミングを逃してしまった。 そのまま歩いていくと、ちらちらと晋助の物言いたげな視線を感じる。この道の角を曲がれば港はすぐだ。次第に焦りを見せ始めた晋助に構うことなく進んでいく。 あと少しで港に着く、というところで、晋助が堪忍したようにため息をついた。
「……本当に悪かった。何すりゃあ許してくれんだ」 「うーん……とりあえず一週間は晋助との外出は取りやめかなあ」 「!」
嘘だろ、と言わんばかりの視線。あまりの衝撃に、その体は歩くという行為をやめてしまった。私も立ち止まり晋助を見やる。思いのほかこの言葉は攻撃力があったらしい。呆然とする晋助に、罪悪感が芽生えてきた。 思わず謝りそうになるのをぐっとこらえ、晋助の出方を見る。晋助は不機嫌そうに眉を寄せたまま動かない。かと思えば、俺と外出禁止の間もあの野郎と出かけるんだろ、と唸る。違うよ!と首を振るが晋助は疑わしげに目を細めた。
「船の中では一緒でしょ」 「……」 「約束守れたら、一緒にたくさんデートしようよ」 「……」 「ね!」 「……分かった」
しぶしぶ、といった感じでようやく頷く晋助に、ほっと安堵のため息をついた。帰る途中も謝罪の言葉を口にする晋助に思わず笑みがこぼれる。
実を言えば、あんみつのことなんてもう怒ってなかったりする。いつも晋助に主導権を握らされているから、ちょっといたずらしてみたかったのだ。いたずらはなかなか効くらしい。 これからどんないたずらをしようか考えながら、晋助の手を握る。一瞬驚いたように目を見開いた晋助は、照れくさそうに小さく鼻で笑うと優しく握り返してくれた。
一週間の外出禁止とは言ったけど、多分私もその一週間は外に出ないんだろうなあとひとりごちながら晋助と船に戻るのであった。
END 琥珀さまへ!
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