「遅くなってごめん!」 「おー、なまえ……と、なんでお前もいんの」
待ち合わせ場所に既にいた銀時に詫びを入れると、銀時は私の後ろにいた晋助を見てあからさまに嫌そうな顔をした。始終不機嫌なのに、銀時の一言でさらに青筋を浮かべる晋助をなんとかなだめる。
「ごめん……負けた」 「ま、別にいーけどね。でもたまには二人きりで出かけたいよなァ」 「野郎……」 「落ち着こう晋助、はい深呼吸」
まるで暴れ馬をいなすかの如く晋助をなだめる。毎回のことでなれてはいるが、やっぱり疲れる。なんでこんなに仲が悪いのに同じ空間にいるのよこの二人は。
「はいはーい、もうそのへんにしてクダサーイ。時間がありませーん」
未だに銀時に対してメンチを切っている晋助の服を引っ張り、銀時にアイコンタクトで謝ってから、ようやく今回の目的地の甘味処へと向かうことになった。 この流れも毎回おなじみの恒例である。めんどくさいったらない。
***
「……!」 「な、美味いだろ?」 「……っ!」
銀時のしたり顔が憎たらしいが、ここのあんみつは非常に美味である。感動のあまり言葉を失う私を見て、銀時は嬉しそうに笑った。となりのブリザード並みの悪寒は少しだけ無視させてもらうことにする。晋助の睨みなど、あんみつの前では意味ないのだ。
「ここならぜってーなまえが喜ぶと思ってよ」 「ほんとに美味しいこれ。なにこの上品な甘み!」 「こだわりの黒蜜がたまんねえよな」 「果物とかもさり気なくいいもの使ってるよねこれ……」 「しかもオーダーすれば生クリームやその他のトッピングも可能!」 「きゃあああ素敵!」 「てことで店員さーん、お願いしまーす!」
意気揚々と店員に追加のトッピングを頼む銀時。そんなに頼んで金はあるのだろうか。私は万斉さんがくれるお小遣いがあるから平気だけど(ちなみになぜ万斉さんが私に多額のお小遣いをくれるのかは未だに不明である。過保護すぎやしないか)。
もう一口、とあんみつをスプーンで掬った瞬間、スプーンもろともあんみつが消えた。……えっ。 目をぱちくりさせて手元を見る。はっ、と嫌な予感がして隣を見ると、しれっと私のあんみつを食べる晋助がいた。
「なんてことを……」 「甘ェなこれ」 「あんみつなんだから当たり前でしょ。ああ、私のあんみつ……」 「まあまあなまえ、同じの頼むか?」
あんみつにたくさんのトッピングを乗せた銀時がそう慰める。そのあんみつが憎い。私は首を横に振ると、残りのあんみつを食べた。 隣からは「たった一口くらいで」とか「まだ残ってるんだから別にいいだろ」とか云々言ってる人がいたが、とりあえず無視しておいた。そうすれば少しテンションの下がった晋助が、顔色を窺うようにこちらを見るものだからさらに顔を背ける。
「なあ」 「……」 「おい」 「……」 「なまえ」 「……」 「悪かったって」 「つーん」
参った、というように晋助がため息をつく。目の前の銀時はくすくすと笑いながら私たちを眺めてはあんみつを頬張っていた。くっそ、生クリームキャラメルがけなんて羨ましいトッピングしちゃって……。 じと目で見ていたことがばれると、銀時は慌ててあんみつを庇った。そんなことしなくたって盗み食いなんてしません。隣の誰かさんとは違うのだ。
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