ううむ、と唸ってからポッキーとプリッツの2つを見比べる。私としてはポッキーの極細が食べたいんだけど、プリッツのトマト味も外せない。って、チロルチョコに新しい味が出てるじゃないか。くっそう、選択肢が増えたぞ。 とりあえず消え失せたみかんゼリーは必須だから、この3つの中から1つだけ選ばなければ。世知辛いお小遣いで今月をやりくりしていくには、迷っているものの2つを切り捨てる必要がある。志望校に受かったらお小遣い増やしてもらえないかな。
うんうん悩んでいる間に新しい客が入ってきたらしい。自動ドアの開閉音と、店員のやっぱり眠そうな声が聞こえた。たかがお菓子でこんなに悩んでいる姿なんて見られたくない。早く決めて早く帰ろう。 そう思って今回はポッキーの極細にすることにした。こんな時間にお客さんと顔は合わせたくないなあと思いながらポッキーに手を伸ばすと、私がそれに触れる前にポッキーが姿を消した。
「よォ」
え、え?と混乱していると、横から声が振ってきた。声が聞こえた途端に誰か分かってしまって、一瞬だけ体が強張る。
「た、高杉くん……」
私の思い人である高杉くんはにやりと笑うと、私から視線をお菓子へと逸らした。 さっきまで女の子と仲良くしていたはずだけど、と思い何気なーく「どうしたの」と尋ねると、高杉くんは別に、とだけ答えた。
「お前がコンビニ入って行くの見かけたから」
私はへえ、とだけ答えた。なるべく興味なさそうに。だって、そうじゃないと変に期待してしまいそうになる自分がいる。 まさかあの子とわざわざ別れてまでついてきたわけじゃないでしょう。彼女にきっと何かしらの用事ができて別れることになって、それで暇だったから暇潰しに知り合いである私のところにきたんだよきっと。 そう自分に言い聞かせて、震える心臓を必死になだめた。だって、そうでないと今までいた彼女はどうなるんだ。私を見かけたからさようなら、なんてことにはならないはずだ。
平静を装ってとりとめのない話をしていく。ポッキーは高杉くんに取られたので最後だったらしく、仕方なしにプリッツを選ぶことにした。デザートコーナーでみかんゼリーを手に入れたら、先に会計をしていた高杉くんに続いて私もお会計してもらう。 むにゃむにゃしすぎて何を言っているのかも分からない店員に見送られコンビニを出ると、冷たい風が頬を刺した。
「うおお……さむー」 「おらよ」 「え、なに――」
ぽい、と渡されたのは、高杉くんが買ったはずのポッキーだった。思わずなんで、とこぼす。 これは高杉くんが買ったものであって、私が持っているべきじゃない。なのになんで。なんで、そんなわけの分からない優しさを見せるんだ。そもそも彼女はどうした。 私はぐるぐると答えのない疑問に頭を悩ませながらポッキーの箱をぎゅっと握る。力を入れすぎて少し潰れてしまった。 ――もう、高杉くんは何を考えているか分からない。
「そ、それでは」
高杉くんの目を見ないように注意しながら言う。ポッキーは返したいところだが、彼の無言の圧力によって負けてしまった。 くるりと背を向けて歩き出そうとすると、高杉くんも続けて歩き出す。え、え?思わず2度見してしまった。
「……高杉くん、家の方向違うよね」 「送ってく」
ほら、またそんなことばっかり言って。高杉くんからすれば普通のことでも、私にとっては心臓を悪くするものだというのに。無駄に期待して絶望するのは私なんだから、こういうのはやめて欲しい。あっさり別れてしまえば、こんなにも泣きたくなることなんてなかったのだ。
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