「ううっ、さっぶ」
ぶるりと武者震いをしてマフラーを巻き直す。なにこれ凍え死ぬ。
日付を跨いですでに2時間は経っているためか、外は私以下に誰もいなかった。幸いここの通りは街灯がたくさんあってそれなりに明るいため、夜道が暗くて怖いということはない。 iPodも持ってくれば良かったなーとひとりごちてぷらぷらと歩き始めた。
私の家からコンビニまでは歩いて10分くらいのところにある。結構勝手が良くて重宝しているのだが、運が悪いといろんなものに出くわすときがある。例えば、酔っ払った中年親父。脱走した躾のなってない犬、喧嘩中のカップル。街灯にうずくまって寝ているおっさんや、捨てられているお弁当の残りを食べ漁る野良猫。 別にこんなのは序の口で、私個人として一番勘弁して欲しいのが、
「……うわ」
例えば、ずっと向こうで塀に持たれかかりながら仲良くいちゃついているカップル。しかもその男が私の知り合いで思い人だというのが厄介だ。 この光景はほんの時たま見かけるだけなのだが、これがまたどんな模試の散々な結果よりも心にくる。心臓が鷲掴みにされたような息苦しさが体じゅうを蝕んでいくのだ。私が彼に恋をしているのだと自覚するまでは、本当に末期の病気じゃないかと疑ったこともあった。もはやその思考回路が末期である。
私は急いでポケットから携帯を取り出すと、いかにも携帯に夢中で周りなんて見えてませんよと言わんばかりの雰囲気を醸し出してその場を通り過ぎる。ここは一本道だし今更引き返しても不自然なのでこうするのが一番なのだ。このような状況に遭うようになってから私が編み出した、緊急対応である。頑張った、私!
***
個人的修羅場をくぐり抜け、ようやくコンビニにたどり着いた私はほっと安堵の息を漏らした。暖かい空調と店員の眠そうな声が私を迎える。 お菓子コーナーに向かってどれが良いか吟味しながら、さっきちらっと盗み見た女の子はこないだと違う子だな、なんてぼんやり考えていた。
私の思い人はやたら女癖が悪く、私が見かけるたびに隣にいる女の子が替わっている。何故そんな男を好きになったかなんて私自身分からない。あのとき何をどう間違ったんだろう。なんとなーく目立つ人だなーって思っててなんとなーく目で追っかけるようになって、いつの間にかなんとなーく好きになっていた。まじ自分の身に何があった。 でもまあ彼が相手にするのは派手な女の子ばかりなので、私のようなイモくて目立たない女なんてアウトオブ眼中だろう。そう悟った日は枕を濡らしたが、本当のことなのだから仕方ない。でもちらっと見かけたときくらい顔を拝んでもいいじゃないか。 ……さっきみたいなお楽しみ中は流石にごめんだが。
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