「なあなまえ」 「うっ……」
また綺麗な顔で微笑む。このまま黙っていても坂田くんはきっと諦めない。私は小さくため息を吐くと、ちらりと坂田くんを見てからしぶしぶ口を開いた。
「……お喋りが、すごく楽しい」 「えぇ〜?外見の特徴は?」 「……白い」 「てことは色白か」
いや、すいません。真剣に考えてるとこ失礼ですけど、あなたですってば。
「あと、さりげないとこで優しくて、でもぶっきらぼう」 「それ正反対じゃね」 「甘いものが大好きで、いつもお菓子持参してて」 「甘党かあ」 「たまに私にくれるんだけど意地悪してきたり」 「素直に渡せねえのな」 「私と話さない時は違うクラスの人とはしゃいでて、なのに私と目が合うといつも手を振ってくれる」 「あ、へえ……」 「こないだはいちご牛乳がないって言って私に泣きついてきて、私なんにも慰めてあげられなかった」 「……」 「最近はジャンプの一番後ろの作者の一言欄を見るのが好きで、」 「あの、なまえちゃん」
坂田くんが呼ぶまでずっと話していたみたいで、いつものどもり具合はほとんど消えていた。好きな人の話って、緊張すらも消すのかな。 うーん、と考えていると、ふと坂田くんと目が合った。ぽかんとした顔で、少し悩ましそうに私を見ている。
「……どうしたの?」 「え、いや、うん」
おお、珍しく坂田くんが戸惑ってらっしゃる。物珍しさからじっと見ていると、私の視線を感じた坂田くんはほんのりと頬を染め始めた。おお、なんかすごいぞ。
「あのさ、お前の好きなやつって、まさかと思うけど……俺……じゃないですよねすいません自意識過剰でした」
そう言って頭を下げる坂田くんに、私は「そうだよ」と思わず頷いてしまった。 わあああ言ったそばから恥ずかしい!なんでこんなあっさりしてんの自分!もうちょっと甘い雰囲気になるもんじゃないの告白って! ぐわああああと頭を抱えかけたその時、ぽかんと私を見る坂田くんと目が合った。うわあ、私に負けず劣らず顔まっかだ。
「え、お、俺?俺なの?」 「う……あ、その、えと、ごめん」
困らせて。そう呟いてうつむいた。いきなり好きでもない女から告白されて、坂田くんはさぞ戸惑っているだろう。 なにやってんだろう、私。ばかみたいだ。頻繁に声をかけられるからって自惚れてたんだな。これで坂田くんは明日から私に話しかけてくれなくなるなあ。ちょっと、寂しい、な。
「――なまえ!」 「はい……」
ああ、怒られるかな。気持ち悪いんだよって。 そう思って顔を上げると、私の意に反する赤い顔の坂田くんがいた。
「あのさ、別に謝んなくていいから」 「うん」 「その、嬉しかったし」 「……えっ」
坂田くんの顔をまじまじと見る。いまこの人、なんて言った?え、それって、ええ?これはどう捉えればいいんだ。そういうこと?え、これ、どういうこと? 混乱する私に坂田くんは、さらなる爆弾を投下した。
「俺も、なまえのこと好きだったから」
――ずいぶん前から。 なあんだ、お互い両思いだったのね。そういえば坂田くんはもし私が違う人を好きになっていたら、どうしてたんだろうか。きっといじめただろうなあ。じゃあ今は?自分で自分をいじめるのかな。それはそれで面白いかも。 ああ、これからの学校生活が楽しみだなあ。 そこまで考えて、私の意識はぷつりと切れてしまった。
END なおさまへ!
back/next
|