「なまえってさ、好きなやつとかいんの?」 「……えっ」
そんなことを訊かれたのは、友人と坂田くんについて話した3日後のことだった。 友人に、私が坂田くんのことを好きなんだということに気づかされてから(友人に無理やり意識させられた感が否めないが)早3日。 まさかそんなことを訊かれるなんて思いもよらなかった私は、その場で化石よろしく固まってしまった。
「なんで、そんなこと」 「いやだってよォ、なまえからあんまりそういう浮いた話とか聞かねえじゃん?気になるだろ」
そう言って唇を尖らせる坂田くんを見て、思わずかわいいと思う自分はもう重症な気がする。 前までそんなに意識していなかった坂田くんの仕草や言動が、あの日からよく目で追うようになっていた。その行動のひとつひとつであれこれ考えられる自分は、やっぱり重症だ。もちろん坂田くんにだって言えない。
「で、いんの?」 「いっ、いや……その」
まさか好きな人が坂田くん本人が好きだなんて、言ったら絶対に向こうは困るに決まってる。 ただの気まぐれで話しかけていた女が、自分のことを好きになっただなんて。絶対に迷惑だし、恥ずかしい。 そんな理由で言葉を濁していると、坂田くんは首を傾げた。
「黙ってるってことは、肯定ってことでいいんだよな」 「ちっ、ちが……っ」 「ふーん、いるのか。好きなやつ。ふーん」 「う、あ、その」
もちろん好きな人ならいる。きみだよ坂田くん。 もう少し私が素直で友好的な性格だったら、今ここで告白できただろうか。でも仮にもし私がフレンドリーな子だったとしても、坂田くんは女子に人気だからきっとふられるに決まってる。坂田くんからすれば今のだって、他愛もない会話のひとつなのだ。
そう考えながら俯いてると、坂田くんの「好きなやつ、いたんだ」という声に思わず顔を上げた。声音がいつもより低くて、不機嫌そうだった。 顔を上げれば、やっぱり不機嫌そうにしている坂田くんがいた。怒ってる。何かしただろうか。
「なまえはそんな話なんてしねェし、俺以外の男と話してるとこなんかもめったにねェから、いないもんだと思ってた」 「あの、」 「じゃあさ、そいつについて教えてくんね?」 「えっ」 「さすがに名前は教えてもらえねーだろうし、その男の特徴だけでも」
な?と笑う坂田くんだが、その目は笑っていない。いつもみたいな穏やかな目じゃなくて、どちらかといえばぎらぎらとした捕食者のような目だった。怖いです。
「……そ、その好きな人がもし分かったら、何をするおつもりで……」 「さあねえ」
怖い!笑ってない!目が据わってるよ坂田くん! ていうか私の好きな人って、坂田くんなんですけど。この状況どうすれば良いの。
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