「あんたそれ、好きなんじゃないの?」 「……えっ」
その一言に私は固まってしまった。今はちょうどお昼休みで、みんなでご飯を食べていた。箸で掴んでいたウインナーが再び弁当箱へとダイブした。その様子を見た友人たちが小さく笑って続ける。
「だって坂田くんと話すと緊張するんでしょ?」 「そんなことないってば。他の人のときもそうだよ」 「分かってないなあなまえは。他の人と坂田くんの時との緊張も区別できないなんて」 「そうそう。もし本当にただ単に緊張するなら、何かと理由でもつけて逃げればいいのに」 「そんなことしたら坂田くんに失礼でしょ」 「そこよ!」 「……えっ」
友人が指を差して指摘する。私はなんのことか分からなくてただぽかんとするばかりなのに、他の子たちはうんうんと頷いている。 未だに混乱する私を、友人が呆れつつも説明してくれた。
「いつもなら話しかけられても逃げるのに、坂田くんのときだとそんなことしないんでしょ」 「うん」 「それって、もうその時点で坂田くんのこと意識してるってことじゃん」 「……えっ」 「坂田くんとどもりながら話したあとに余計に落ち込むのも、坂田くんとちゃんと喋りたいとか、いいとこを見せたいとかあるんじゃないの?」 「う、うーん」
そうなのかな、私、坂田くんのこと好きなのかな。もんもんと考えていると、突然名前を呼ばれてびっくりした。しかも名前を呼んだのが今話題に出ていた坂田くんだったもんだから、なおさら驚いた。噂をすればなんとやらだ。 未だ跳ねる心臓を抱えながら返事をする。友人たちがくすくすと忍び笑いを漏らして、それが私をいたたまれなくさせる。
坂田くんは泣きまねをしながら私のところに近寄ると、購買部であったことを話し始めた。 どうやら購買部にいちご牛乳がなかったらしい。自販機もちょうど売り切れだったようで、泣きまねどころか本当に目に涙を浮かべていた。 その話を聞いて思わず「あ」と声をもらす。
ねえ、私、ちょうどいちご牛乳持ってるよ。さっき自販機で買ったんだけど、きっとそれが最後のいちご牛乳だったんだ。坂田くん、飲んでいいよ。まだ開けてないし、坂田くんが好きならあげるよ。だから、ねえ、坂田くん、
「えと、あの、」 「でも仕方ねえよなー、遅かった自分が悪いんだし」 「いや、ううん……ねえ」 「まあなまえにしてみれば知ったこっちゃねえよってなるよな。困らせて悪いな」 「ちが、う」
私が最後の「う」を言い終わるときには坂田くんはもう行ってしまっていた。 私はまたまともに話せなかったことといちご牛乳をあげられなかったことに罪悪感を覚えてうつむく。周りの友人の冷やかす声が私の心臓をぎゅっと握って、息苦しい。
――これが、恋なんだろう、か。
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