「あの……私、父に呼ばれているので帰りますね。詳しいことはまた電話します」
そう言い、ゆきは帰って行った。銀時と新八は玄関に立ち、ぼうっとゆきの後ろ姿を見送る。
「……綺麗な人でしたね、銀さん」
「そうか?微妙じゃね?」
「明日ですよ。どうするんですか、銀さん」
「どうにかなるだろ」
「ならないと思いますよ」
「…………」
「…………」
このあと二人は、定春の散歩に行っていた神楽にひっぱたかれるまでずっと玄関に立っていたという。
***
――ジリリリリン…
「銀ちゃん、電話アルよ」
「……」
「銀ちゃん」
「……」
「チッ。……新八ィ」
「……」
「どうしたアルか2人とも」
夕飯を終え、ぼんやりしていた銀時と新八は、かかってきた電話にも気づかないようだった。
見かねた神楽が受話器を取ると、くるりと振り返り、銀時を呼ぶ。
「銀ちゃん、銀ちゃんに電話アル」
その言葉に、更に死んだ目つきをした銀時が勢い良く立ち上がった。そして、神楽から受話器を受け取るとりそれを耳に当てる。
「……もしもし」
低い声でそう言うと、向こう側からゆきの声がした。
『もしもし、ゆきです。あの、声が小さいような気がするんですが……大丈夫ですか?』
平気だと言う銀時に、ゆきは心配しながらも続けていく。
『明日の挨拶なんですけど、始まる前にそちらに私が伺います。そのときに、言って欲しいことを書いた紙を渡すのでよろしくお願いします』
「分かった……」
次第に小さくなっていく銀時の声に、ゆきは本当に大丈夫か何度も聞く。その度に、銀時は更に小さい声で平気だと答えるのだった。
『――それでは、よろしくお願いします』
説明も終わり、銀時が電話を切ろうとしたときだった。
『……あのっ!』
急に、ゆきが銀時を呼び止めた。
どうしたんだろうと再び受話器を耳に当てると、彼女は少しためらいながら続ける。
『あ、あの……貴方のお名前は……』
銀時はそういえば自己紹介してなかったかな、と思い、ためらいながら自分の名前を訊いてくるゆきに少しばかり頬が緩む。
「坂田銀時。明日はよろしくな」
すると、向こうも少し嬉しそうな声で言い返してくる。それからしばらくして、銀時は受話器を下ろした。
「ゆきさん、なんですって?」
そう言う新八に、銀時はそうだな、と呟く。
「過ぎたことはもうどうにもならねし。……いっちょやってみるか」
銀時のその言葉に、新八も軽く微笑んだ。
「そうですね。銀さん、頑張って下さい」
「銀ちゃん頑張るネ!私も応援するアル!依頼が何か聞いてないけど」
「ワンッ」
銀時はふぅと大きく息をすると、明日に備えて寝室へと向かった。
(明日はとうとう挨拶当日です)
***