3ヶ月間の嫁 | ナノ


茶屋で桂と別れて、銀時は特に行くあてもなくぷらぷらと街を歩く。夕暮れが近く、ちょうどかぶき町はこれから賑わいを見せる時間だった。
先ほど桂が言っていた言葉を思い出す。



「簡潔に言うと、我々は先の事件には関係していない」

そうか、とだけこぼす。期待していなかったぶん、さして落胆することもなかった。

「真選組の方もやけにはっきりと否定するから、お前が絡んでる可能性は低いと思ってたんだけどよォ」
「当たり前だ。なんせその日、俺たちは事件とは違う場所でやり合っていたのだからな」
「んだよ、まーた潜伏先でも割れたのか?」
「いや、昼間から焚き火をする輩に火の恐ろしさがなんたるかを分からせるためにな、爆竹を投げ込んでやった」
「思ったよりも過激じゃねーか!!爆竹って。危なっ!すげー危なっ!」

思わず立ち上がって叫んでしまう。当の本人はいたって涼しそうに茶をすすっていた。団子は銀時がほとんど平らげてしまっていた。
桂の後ろで控えていたエリザベスがぎゃあぎゃあと喚く銀時に対し、自前のプラカードで思いきり彼の頭を殴る。ぐえっ、と蛙の潰れたような声で呻いて、どうにか静かになった。

「……しかもそこには運悪く鬼の副長土方十四郎もいてな。撒くのに一苦労だった。――まさかそれがアリバイになるとは思わなんだ」

皮肉なものだ、と感慨深げに頷く。その隣で、痛みにうずくまっていた銀時が涙を浮かべながらエリザベスを睨みつけた。

「痛ってー……角で殴りやがったなコノヤロー」
「叫ぶほうが悪い!もしここが真選組にばれたらどうするつもりだ貴様ァァァ」
「お前の方こそうるせーわァ!だいたいテメーが」
「うるさい!」
「むごっ!」

銀時がさらに大声を出そうとしたところで、桂がまだ皿に残っていた団子をすかさず彼の口に押し込む。団子が喉の奥まで突っ込まれたのと、それが銀時の好きなものだったのとで、すぐ大人しくなった。

「高杉に関しても、似たようなものらしい。同時期に京で騒いでいたようだと噂があった」
「ほんとにあの野郎、なに考えてんのかさっぱりだ」
「中二病とは恐ろしいものだな」
「……」
「……」
「……ちょっと違くね?」

銀時が静かにツッコミを漏らす。何も言わない桂のおかげで、ふたりの間に微妙な空気が流れた。


あのあとの微妙な空気に耐えられなかった銀時は、逃げるようにその場から去った。後ろからお茶代を請求する声が聞こえたような気がしたが、それは聞こえなかったことにした。

なんとなく辺りを見渡す。賑わいだすかぶき町はいつも通りだ。
ただ、見たところ中心地はそうでもなさそうで、少し空気が張っているように感じる。特に大手会社では警備員の数が多くなっていた。見回りをする真選組もちらほら見えた。例のテロを警戒してのものだというのは、誰もが察していた。

物騒になってきやがったな、とひとりごちる。ちょうどそのとき、前方から自分を呼ぶ聞き慣れた声がした。神楽と新八だ。その後ろには控えめに手を振るゆきもいる。
3人は買い出しの帰りらしく、その手には大きな買い物袋をいくつもぶら下げていた。
神楽が銀時の名前を呼び、早く来るよう促す。桂に会ったせいか異様に疲れていたのだが、ゆきを目にしてふっと身体が軽くなったような気がした。

「銀ちゃんなにしてるアルか!レディに荷物を持たせるなんて男失格ネ!」
「神楽ちゃんが言ってもあんまり説得力ないよ」
「あん?なんか言ったかメガネ。その両手使い物にならなくしてやろうか?」
「だっ、駄目だし!暴力は禁止だし!」
「銀さん早く来て!新八くんを……夕飯を助けてあげて!」
「え?ゆきさんそこなの?」
「はいはい、いま行くっての」

相変わらず騒がしい二人と、ずれた反応のゆきについ笑みが漏れる。

――気をつけろよ。

とうとう乱闘という名の神楽の一方的なリンチが始まったとき、銀時が桂と別れる前、彼がいつになく真面目な声音で忠告してきた言葉が頭に浮かんだ。

『水野殿の会社もまた有数の大手。奴らに狙われるのも時間の問題だろう。だが、――気をつけろよ。彼奴らが狙うのは何も会長ら要人だけではない。ゆき殿に危険が及ぶ可能性も高い』

あのとき、銀時は分かってるよ、と返した。
テロだなんだと騒がれ始めたときからそんなことは予想していたのだ。依頼とはいえ、こちらに居る以上はなにがなんでも守らなければいけない。その準備はできている。
非情にも新八ではなく彼の持っている食材が心配なゆきが、早く早くと銀時を急かす。いつものように気だるそうに手を上げて、やはりまったりした足並みで3人のところに向かった。

――そんなこと分かってるっての。
未だに頭のなかで忠告を促す桂に言い放ち、銀時は少しだけ口元を釣り上げた。







(やってやろうじゃねーか)

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