3ヶ月間の嫁 | ナノ


「――もしもし、お母さん?……うん、私」

夕方、銀時たちが腹を空かせて万事屋に帰ると、既に夕食が用意されていた。
さっそく夕飯に飛びつこうとする神楽の首根っこを掴んで手を洗わせに洗面所に投げ込むと、あとのことは新八に任せて銀時はゆったりとソファに腰かける。

ちらりとゆきに目をやると、親に電話をしていた。一瞬自分との間に何かあり、愚痴でも話しているのかと肝を冷やしたが、どうやら違うようだった。

「こっちは平気。なんだか最近物騒だから心配で……。お母さんの方は?……うん」

聞き耳を立てると、心配そうに両親の様子を尋ねている。とりあえず自分に問題がないことが分かり、こっそり安堵のため息をついた。
そこへ、手を洗い終わった神楽たちが戻ってくる。ゆきの方はまだ会話を続けていたので、仕方なく先に夕飯を食べることにした。

相変わらず美味い夕飯にどんどん箸が進む。
いい嫁になるなこいつは。あれ、今は俺の嫁か。なんてぼんやり考えていると、ようやくゆきが受話器を置いて戻ってきた。

浮かない顔でソファに座る彼女に、銀時はきんぴらごぼうをぽりぽりとやりながら首を傾げた。

「どうしたよ」
「ええ、ちょっと両親が心配になって……」
「ああ、そういえば最近は攘夷浪士の活動が活発ですよね」

ゆきの言葉に新八が頷いた。神楽はあまりこの話題に興味がないらしい。自分の器に盛られた飯をかき込んでいた。

「この間なんか、大手企業会社の会長が誘拐されたとかでけっこう大きな話題になってましたけど」
「へえ」
「ニュースでも生中継で取り上げられてましたよね」
「犯人は捕まったんですかね」
「さあ……大半は検挙されたらしいですけど、主犯は逃げたって噂ですよ」

新八とゆきの会話を聞きながら、銀時は物騒だな、とこぼして飯を頬張る。そう言われてみればそんな話もあった気がするなとひとりごちていると、ゆきが不安そうに窓の向こうを見やった。
親が心配なのだろう。未だ夕飯に箸をつけない彼女に、銀時はへらりと笑ってみせた。

「なァに、別に心配するほどのことでもねえよ。あのジジイの会社と家の警備情報はあんたが一番知ってんだろ?そんな心配しなさんな」
「……そう、ですよね」

まだ納得いってないようだったゆきも、やがて吹っ切れたようにぎこちなく笑った。

そのあとは特に問題なく終わった。
新八は夕飯のあとすぐに家へ帰って、神楽とゆきは一緒に風呂を済ませて寝床についた。

二人が寝静まり、万事屋は一気に静寂に包まれる。外から聞こえるのは下にいるお登伊のスナックの賑わいくらいで、それ以外に音はない。
デスクに置かれた新聞に目を通すと、夕食のときに新八が話題にしていた攘夷浪士による会長誘拐の見出しが一面を飾っていた。

――『これらの事件の裏で手を引いていると思われる浪士の存在を探るとともに、討伐の際に逃亡した主犯の行方を追っている。』――

そんな締めくくりをした新聞をデスクに置く。
銀時は、はあ、と重くため息をついて両手を頭の後ろで組んだ。

なんだか面倒なことになりそうだ。
ゆきの両親の周りの警備はそこそこ万全ではあるが、気にかけておく必要があるだろう。

「――ちょっくら確認してみるか」

天井をぼんやりと見つめながら、銀時がぼそりと呟いた。







(――事件について、攘夷浪士である桂小太郎や、過激派の攘夷浪士である高杉晋助が裏で関与している可能性があるとされているが、真選組をはじめ、その線は否定しているとのこと。)

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