3ヶ月間の嫁 | ナノ


それはちょうど昼を少し過ぎたころだった。ゆきは夕飯の買い出しにと、近くのスーパーへ向かっていた。
今日は万事屋にも珍しく仕事が入ったようで、銀時たち3人は意気揚々と仕事に向かっていった。
仕事を終えて戻ってきた銀時たち――主に神楽だが――の食欲はとてつもない。今ある冷蔵庫の食材だけではまったくと言っていいほど足りない。だからこうして昼から大量の買い出しに出ているのだ。

両手に大きな買い物袋を下げて歩いていると、不意に背後から肩を叩かれた。
びっくりして振り返ったその先には、前に見た少年。少年は首を傾げる。蜂蜜色の髪の毛がさらりと揺れた。

「やっぱり。ゆきさんじゃないですかィ」
「あ……えっと、沖田さん」
「へぇ、俺の名前覚えててくれてたんですかィ」
「ええ、一応」

少し驚いたような表情を浮かべる少年――沖田総悟に頷いてみせる。

父親の仕事柄、人の名前を覚えるのは割と得意だが、彼女自身どうしてもそれが気にくわない。父の仕事のために養われた特技だなんて、それ自体がいやなのだ。
顔をしかめて考えていると、不思議そうな声が頭上から降ってきた。

「どうしやした?もしかして気分でも悪いとか」
「あ、いえ……平気です」
「でも顔色あんまり良くないですぜ。――その荷物、持ちまさァ」
「そんな、悪いですよ!それに沖田さんだってお仕事中ですし……」
「昼休みだから大丈夫ー」
「えぇぇ…」

慌てて断るも、抵抗虚しくあっさりと手元の荷物を奪われてしまい、思わずため息をついてしまう。
さっさと歩き出す彼の後ろを慌てて追うと、忍び笑いが聞こえてきた。

「……やっぱりお嬢様って感じしねえや、アンタ」
「それ、銀さんにも言われました」
「へえ。旦那が言ったってんなら、俺の目は間違ってねぇってこった」

そう言ってまたくすくすと笑う彼にゆきはどう反応していいのか分からず、ただひたすら俯いてその場をやり過ごすしかなかった。

「俺の想像じゃ、お嬢様ってのは高い着物着て馬鹿みたいに厚化粧して高飛車で……って感じだったんだけどねィ。ま、そっちの方が調教し易いけど」
「……え?」
「ゆきさんは見たところそんな感じには見えませんねィ」

調教、という物騒な単語が聞こえた気がするのだが、沖田は何事もなかったかのように続けるのでつい首を傾げる。聞き間違いだったのだろうか。

「え、あ……まあ、小さいころは近所の公園で遊んでたくらいですし……。それより今……調教って……」
「なに、まさかアンタそっちの気でもあるんですかィ?それを先に言って下せェよ。もっと早く調教してやったのに」
「……え……?」
「ぷぷっ、冗談でさァ」

やはり聞き間違いではなかった。
驚きで固まるゆきを見てにやりと笑ってみせた沖田に、鳥肌が立つのを止められなかった。







(この人なんか危ない気がする…!)

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