3ヶ月間の嫁 | ナノ


気がつけば既に一ヶ月経っていて、銀時は少なからず驚いていた。理由はそれだけではなかったのだが、とにかく驚いていた。
ゆき曰わく、一ヶ月ごとに彼女の両親に報告も兼ねた挨拶をしなければならないらしい。両親の心配性に軽く引きもしたがこれは依頼。割り切らなければ。

長期間の依頼にため息も出たくなるがしかし、何度も言うがこれは依頼なのだ。
例え自分の名前を『金時』と間違える父親でも、殴りかかったりしてはいけない。落ち着け自分。

「で、金時くん」
「銀時です」
「娘とはどうなのかね、金時くん」
「銀時です」

父親が彼を『金時』と呼ぶ度にあのモジャモジャが頭をよぎるのは気のせいではない。もはや悪意を込めて呼んでいるというのはすぐに分かった。

「えー、彼女とは良い付き合いをさせてもらって――」
「堅苦しい挨拶だな金時くん」
「……夫を立て、うちの従業員にも分け隔てなく接してくれる素晴らしい妻ですクソジジイ」
「まだ君の妻ではないけどね」
「テメェェェ!」
「はっはっはっ」

とうとう怒りが爆発し父親に掴みかかる。父親はといえば涼しそうな顔で高笑いをしていた。
この会話を聞いていると、どうやらゆきの父親は銀時をからかっているようだ。そんな様子を横で笑いながら見ているゆきと母。
母はにこにこと微笑みながら、更に楽しそうに笑うゆきに話しかけた。

「元気な子ねぇ」
「でしょう?家でもすごく楽しくて、良い人なのよ」
「きっと賑やかね」
「毎日が戦争よ。特にご飯のときは凄まじくって」
「ゆき」
「……なに?」

さっきまでにこにこと笑っていた母が、急に真面目な顔でこちらを見るのでゆきも表情を固くする。

「お父さんもね、大分丸くなったの」
「うん」
「銀時さんも良い人よ」
「うん」
「あなたは、これを割り切らないといけないのよ、期間限定の夫として」
「……うん」

表情を暗くして頷くゆきに、母が頭を撫でる。
銀時らが彼女たちの会話の真意を知る術はなく、その前に言い合いをしていたので気づくこともなかった。







(このクソジジイ!その残り少ない頭の希望を全て抜いてやろうか!)
(なんだと天パ!君こそその髪の毛をストレートにして何の特徴もない頭にしてくれる!)
(何それぜひお願いします!)
(……うるさいわねぇ)


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