3ヶ月間の嫁 | ナノ


ある日のことだ。

「……あ、忘れてた」
「あ?」

ふと何かを思い出してゆきが声を上げる。夕飯を頬張りながら銀時が顔を上げると、放心状態のゆきがいた。

「忘れてたって……何が?」

盛りつけられたサラダに箸を伸ばしながら尋ねると、ゆきが言いにくそうに口をつぐむ。そんな彼女を見つめながら、銀時は首を傾げた。

「なんかあったんなら銀さんに言ってみ?俺らは仮初めにも夫婦なんだから」
「ですよね……銀さんにも関係ありますし……」
「へ?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった銀時は、自分が彼女に何かしでかしてしまったかと考える。
しかし考えても考えても何も見つからず、とうとう銀時は降参の両手を上げた。

「悪ィ。なんにも思いつかねえ」
「ガキでも孕ませたアルカ」

横から割って入ってきた神楽の頭を思いきり叩き、銀時はゆきに向き直る。ゆきは未だに言いにくそうに口をもごもごさせていた。
伏し目がちになったゆきの長い睫毛がとても印象的で、意を決したように顔を上げたゆきの、不安げに揺れる瞳に思わず見入ってしまいそうになった。

しかし、そんなことまで考えて慌てて頭を振った。なんてふしだらなことを考えているんだ。相手は嫁とはいえ、依頼人である。そのような感情を持てはいけないのだ。
考えていたことを吹き飛ばすと、銀時は取り繕うように笑みを浮かべてゆきを見る。

「……で、何?」
「あの、明日でちょうど1ヶ月ですよね、私たちがその……結婚して」
「ああ、もうそんなになるのか」

そういえば、と頷く銀時。
確かに、明日でゆきと銀時が限定条件つきの夫婦になってからちょうど1ヶ月になる。
時間が過ぎんのは矢の如しだな、と銀時が物思いに耽っていると、それで、となんとも言いにくそうにゆきが続けた。

「その……月に一度、父と母に報告をしないといけないことになってまして……」
「へえ、そうなんだ。で、いつ?」
「それが、――明日、なんです」
「……え?」

銀時の持っていた箸が、するりと手から滑り落ちて、軽い音をたててテーブルに転がった。







(ええええ!?ちょっ、何それ聞いてないんですけどォオオ!?)
(ごめんなさいごめんなさい!だから忘れてたって……!)
(うそっ、心の用意がまだっ……)
(銀ちゃん行儀悪いアル!)
(それどころじゃねェエエエ!!)


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