3ヶ月間の嫁 | ナノ


バーゲンセールが凄まじいものだというのは耳にしていた。
しかし、そんなババアたちの戦いに自分が負けるわけがないと高を括っていた。攘夷戦争で敵味方から恐れられるほど実力を持った自分が。負けるはずがないと。

「いや〜たくさん卵とお肉が手に入りましたね!」
「そうだな……」
「これも全部、銀さんのおかげですよ!」
「そうだな……」

実際、バーゲンセールという名の戦争は本当に凄まじいものだった。
セールを告げるチャイムが鳴ると同時に、主婦たちが群がる。銀時は自分も負けじとその群集の中に入っていったが、主婦たちの馬鹿強い力で呆気なく弾き飛ばされた。
信じられない出来事に一瞬たじろいだ銀時だが、ゆきの作る晩ご飯が無しになるのだけは避けたいと、再び主婦の中に入っていったのだった。
そして、冒頭に至るのである。

「今日はカツだけじゃなくて、もっと他のも作りましょう!」
「そうだな……」

ぼろぼろですっかり意気消沈した銀時は、ゆきの言葉も右から左だった。
一人の主婦にはビンタされ、またある主婦にはわき腹を肘で殴られる。神楽には劣るが、新八の鼻フック並みの威力に銀時は流石に驚いた。今も脇腹が痛む。

「銀さんは何が食べたいですか?」
「そうだな……」
「銀さん?」

ひょいと顔を覗き込まれ、慌てて大丈夫だと笑った。その時だ。

「――あれ、万事屋の旦那じゃあないですかィ」

前方から、聞いたことのあるダルそうな低い声。そちらを向くと、思った通り真選組の一番隊隊長、沖田総悟がこっちに向かって歩いてきていた。

「うげ」

沖田を見た瞬間、銀時はあからさまに顔をしかめた。しかしそこは自由奔放な一番隊隊長、空気も読まずにどんどん近づいてくる。

「何やってんですかィ、こんなところで。……おや、こちらは?」

ゆきの存在に気づいた沖田が、彼女を指差しながら銀時を見る。

「え?あ、ああ、つまりその」
「オイ、総悟。こんな奴の相手してねェで巡回するぞ」

銀時が言葉に詰まっていると、沖田の後ろから声がした。そこには同じく真選組の鬼の副長、土方十四郎がいる。
土方は沖田の肩を掴んで先を急ごうとする。しかし、それは土方を無視している沖田の声によって阻止された。

「……もしかして旦那、そこの女は旦那の彼女ですかィ?」

土方の眉が、ピクリと反応する。土方は銀時の方に向き直ると、隣のゆきに目をやった。

「おい万事屋ァ、てめぇまさかこんなとこで女遊びたァ、いい度胸じゃねェか」

ふぅ、と煙草の煙を銀時に向かって吐くと、額に青筋を浮かべた銀時が土方を睨む。

「あん?女遊びすらできねぇ芋侍に言われたくないんだけど。秘訣でも教えてやろうか?」
「やんのかコラ。公務執行妨害でしょっぴくぞ」
「上等だコラ」
「ちょっと、銀さん!」

土方が刀に手をかけたところで、慌ててゆきが止めに入った。

「銀さん!こんなところで喧嘩なんてしたらダメですって!」
「いーや、止めるんじゃねえゆき。こいつだけは殺さねえと気が済まねェ」
「銀さんってば!」

こんなところで暴れるなんて、と焦るゆき。しかし、銀時と土方はもう既に戦闘体制に入っている。緊迫した空気をぶち破ったのは、またしてもあの男だった。

「ゆき?へぇ、ゆきっていうんですかィ。俺は沖田総悟でさァ」
「あ……え……?」
「そんであっちの目つき悪そうないかにもチンピラ面したのが、マヨ方さん」
「はあ、マヨ方さん……。――あっ、水野ゆきです、よろしくお願いします……」
「おいこら総悟、テメェ嘘の名前教えるなよ」

沖田の発言によって一気に緊張感がなくなり、それに銀時と土方が大きなため息を吐いた。

「……こいつには構ってらんねえ。行くぞ」
「アンタはどこに住んでるんでィ」
「私ですか?えっと――」
「ねえ聞いてる?」
「ところでゆきは、旦那とは一体どういう関係で?」
「え」

ゆきはチラリと銀時を見ると、途端に頬を赤らめて俯く。そして次に発せられた言葉は、衝撃的なものだった。

「その、私は……妻です、一応……銀さんの」
「え」
「えええ!?」

沖田と土方の叫び声が、かぶき町じゅうに響き渡った。







(てめっ……何いたいけそうな一般人をたぶらかしてんだ!)
(たぶらかしてねーから!)


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