3ヶ月間の嫁 | ナノ


銀時が居間に戻ると、神楽と新八がせっせとゆきの手伝いをしていた。少し前のあの汚れたテーブルは片づけられていて、床も綺麗になっている。

「あっ、銀さん。暇なら銀さんも手伝って下さいよ」

先ほどの銀時の報復により顔が腫れた新八が、大量の食器を持ちながら彼にそう声をかける。しかし、言われた本人はダルそうにソファに座っただけで動こうとしない。

「やだね」
「どうしてですか」
「家事全般は女……つまり女房がするもんだろ。旦那である俺は一切手を出しません」
「亭主関白!!」

新八が叫ぶと、横から神楽が顔を出した。

「新八ィ、銀ちゃんに何を言っても無駄アル。こいつの頭はとうの昔に使い物にならないネ」
「え?お前何言ってんの?お前より飯作れるぶん俺の方がマシだからね。お前のこそダメだろ。つーかダメにしてやろーか?あん?」

額に青筋を浮かべる銀時を新八はいつもの調子でなだめに入る。

「二人とも、少しは静かにしましょうよ。そんなに騒いでるとゆきさんからの報しゅぶふぉっ!」

報酬、と言い終わる前に銀時にもの凄い勢いで殴られた新八が、一直線に壁まで吹っ飛んだ。

「痛っ……何するんですか銀さん!いくら注意したからってそれはないでしょ!横暴だ!」
「うるせーんだよテメェはよ」

新八が殴られた頬を庇いながらそう言うと、銀時は彼の前に仁王立ちする。

「だいたいなァ、ゆきちゃんは昨日から銀さんの嫁なんだぞ?旦那である俺に文句なんか言うと思ってんのか?ん?」
「そうですけど、彼女は一応いら、むご!」
「まだ分からねぇのか?」

依頼で、と言いかけた新八の顔を踏みつけながら、銀時は彼にしゃがみ込む。新八の耳元まで近づくと、銀時は低い声で囁いた。

「……今は、ゆきの依頼のことは喋るな。理由はあとで説明すっから、とにかく言うんじゃねぇ」

銀時のその言葉で事の重大さに気づいた新八は、コクコクと頷く。それを確認した銀時は新八から離れると、踏みつけながらもう一番言った。

「分かったか?」
「わっ……わかりましゅた!らから足をどけてくらはい!」

もはや何を言っているのか分からない新八を鼻で笑いながら、銀時は彼の顔から足をどける。

「おら、分かったら家政婦はさっさと働け」
「誰が家事全般係ですか!」

銀時はソファに座ると、新八のツッコミを無視してテレビをつける。彼の好きな結野アナのニュースも、今の銀時の耳には全く入っていなかった。その理由はたった一つ。

「監視、ねぇ……」
「あれ、何か言いました?」
「なんも言ってねぇから働け」

意外と地獄耳な新八を適当にあしらうと、銀時はテーブルに置かれてあったコップに手を伸ばす。
その時、コップの近くにある紙切れに目が止まった。赤や黄色で書かれている文字や写真。いわゆるバーゲンセールのチラシである。

「へぇ……今日は肉と卵が半額なんだな」

ボソリと呟くと、台所から凄まじい音が聞こえた。奥からは新八や神楽の心配そうな声が聞こえる。どうやら、やらかしたのはゆきらしい。

「おーい、大丈夫かー」

銀時がチラシを見ながら気の抜けた声で呼びかけると、慌ただしい足音がして、ゆきの焦ったような声が聞こえた。

「ぎっ、銀さん!」
「え、な……何!?」

ゆきのあまりの勢いにたじろぐと、ゆきはチラシを指差しながら口を開いた。

「半額って……何がですか!?」
「は……半額?いや、肉と卵だけど」
「時間は!?」
「え、ちょうどこれから」
「行きましょう!!」
「は!?」

突拍子もない言葉にぽかんとしていると、そんな銀時もお構いなしにゆきは準備を始める。

「バーゲンは女一人では厳しいので、銀さんにも手伝って欲しいんです!」
「いや、それは分かるけどよ」
「早くしないとお肉と卵、売り切れますよ!」

ゆきはそう言うと、驚きで未だ動がないでいる銀時の手を掴んで玄関へと向かった。戸を開けると、ゆきは思い出したように新八たちに向かって叫ぶ。

「新八くんと神楽ちゃん!片付けはお願いします!!」
「はあ……分かりました」

そうしてゆきは新八の返事も聞かず、銀時を連れてバーゲンへと向かったのだった。







(新八ィ…ゆき…あんなキャラだったアルカ)
(……記憶にないです……)
(私もアル)


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