銀時が居間に戻ると、神楽と新八がせっせとゆきの手伝いをしていた。少し前のあの汚れたテーブルは片づけられていて、床も綺麗になっている。
「あっ、銀さん。暇なら銀さんも手伝って下さいよ」
先ほどの銀時の報復により顔が腫れた新八が、大量の食器を持ちながら彼にそう声をかける。しかし、言われた本人はダルそうにソファに座っただけで動こうとしない。
「やだね」
「どうしてですか」
「家事全般は女……つまり女房がするもんだろ。旦那である俺は一切手を出しません」
「亭主関白!!」
新八が叫ぶと、横から神楽が顔を出した。
「新八ィ、銀ちゃんに何を言っても無駄アル。こいつの頭はとうの昔に使い物にならないネ」
「え?お前何言ってんの?お前より飯作れるぶん俺の方がマシだからね。お前のこそダメだろ。つーかダメにしてやろーか?あん?」
額に青筋を浮かべる銀時を新八はいつもの調子でなだめに入る。
「二人とも、少しは静かにしましょうよ。そんなに騒いでるとゆきさんからの報しゅぶふぉっ!」
報酬、と言い終わる前に銀時にもの凄い勢いで殴られた新八が、一直線に壁まで吹っ飛んだ。
「痛っ……何するんですか銀さん!いくら注意したからってそれはないでしょ!横暴だ!」
「うるせーんだよテメェはよ」
新八が殴られた頬を庇いながらそう言うと、銀時は彼の前に仁王立ちする。
「だいたいなァ、ゆきちゃんは昨日から銀さんの嫁なんだぞ?旦那である俺に文句なんか言うと思ってんのか?ん?」
「そうですけど、彼女は一応いら、むご!」
「まだ分からねぇのか?」
依頼で、と言いかけた新八の顔を踏みつけながら、銀時は彼にしゃがみ込む。新八の耳元まで近づくと、銀時は低い声で囁いた。
「……今は、ゆきの依頼のことは喋るな。理由はあとで説明すっから、とにかく言うんじゃねぇ」
銀時のその言葉で事の重大さに気づいた新八は、コクコクと頷く。それを確認した銀時は新八から離れると、踏みつけながらもう一番言った。
「分かったか?」
「わっ……わかりましゅた!らから足をどけてくらはい!」
もはや何を言っているのか分からない新八を鼻で笑いながら、銀時は彼の顔から足をどける。
「おら、分かったら家政婦はさっさと働け」
「誰が家事全般係ですか!」
銀時はソファに座ると、新八のツッコミを無視してテレビをつける。彼の好きな結野アナのニュースも、今の銀時の耳には全く入っていなかった。その理由はたった一つ。
「監視、ねぇ……」
「あれ、何か言いました?」
「なんも言ってねぇから働け」
意外と地獄耳な新八を適当にあしらうと、銀時はテーブルに置かれてあったコップに手を伸ばす。
その時、コップの近くにある紙切れに目が止まった。赤や黄色で書かれている文字や写真。いわゆるバーゲンセールのチラシである。
「へぇ……今日は肉と卵が半額なんだな」
ボソリと呟くと、台所から凄まじい音が聞こえた。奥からは新八や神楽の心配そうな声が聞こえる。どうやら、やらかしたのはゆきらしい。
「おーい、大丈夫かー」
銀時がチラシを見ながら気の抜けた声で呼びかけると、慌ただしい足音がして、ゆきの焦ったような声が聞こえた。
「ぎっ、銀さん!」
「え、な……何!?」
ゆきのあまりの勢いにたじろぐと、ゆきはチラシを指差しながら口を開いた。
「半額って……何がですか!?」
「は……半額?いや、肉と卵だけど」
「時間は!?」
「え、ちょうどこれから」
「行きましょう!!」
「は!?」
突拍子もない言葉にぽかんとしていると、そんな銀時もお構いなしにゆきは準備を始める。
「バーゲンは女一人では厳しいので、銀さんにも手伝って欲しいんです!」
「いや、それは分かるけどよ」
「早くしないとお肉と卵、売り切れますよ!」
ゆきはそう言うと、驚きで未だ動がないでいる銀時の手を掴んで玄関へと向かった。戸を開けると、ゆきは思い出したように新八たちに向かって叫ぶ。
「新八くんと神楽ちゃん!片付けはお願いします!!」
「はあ……分かりました」
そうしてゆきは新八の返事も聞かず、銀時を連れてバーゲンへと向かったのだった。
(新八ィ…ゆき…あんなキャラだったアルカ)
(……記憶にないです……)
(私もアル)
***