「……んで、話って?」
銀時が新八を思う存分殴り倒し、一段落ついたところで銀時がゆきに切り出す。ここではちょっと、というゆきの要望により寝室へ向かった。その道中、ゆきの顔が少し強張っているのに銀時は気づいた。
寝室に入りぴったりと襖を閉めたゆきは、小さく息を吐いてからメモ帳を取り出した。それに何やら書き込んでいく。
「えっと、今日の晩ご飯のことで」
その一言に、銀時は一気に脱力した。わざわざ居間から移動したのだから、それ相応の話があるのだと思ったのだ。
しかし、不満を言おうとした銀時は慌てて口を噤んだ。ゆきが、そっと人差し指を唇に立てて『静かに』と合図したからだ。
銀時が黙るのを見ると、ゆきはメモ帳を見せる。そこには、綺麗な字でこう書かれてあった。
『これから紙で会話していきます。私が適当に話していくので、銀さんも話を合わせて下さい。』
銀時はそれを読み終わると、こくりと頷いた。それを確認するとゆきが再びメモ帳にペンを走らせる。
「今日は何が食べたいですか?」
「あー……、そうだな……」
『声に出さずにいて下さい。
私たちは、昨日からずっと監視されています。』
「かっ!?……あー……カ、カツ、とか」
つい監視、と言いかけて、慌てて誤魔化す。ゆきからメモ帳を渡されると、急いで書いていく。
『監視ってどういうこと』
「そうですね……。じゃあ今日はカツでいいですか?」
『私の衣類や荷物全てに、盗聴器がつけられているんです。』
『いつ気づいた?』
「神楽もいるからたくさん作らないとだな」
「お肉、安売りだといいんですが」
『今朝です。たぶん昨日私が家を出る前に隙をみて、父がつけたんだと思います。』
「……ああ、そうだな」
ふう、と息をつくと、ゆきが疲れた腕を休ませる。そしてしばらくしてから、また紙に何か書き始めた。
『なので、バレないように依頼とかのことは喋らないようにして欲しいんですけど……』
銀時はちらりと顔を上げ、ゆきに向かって頷いた。ゆきはそれを見ると、ほっと安堵の息を漏らした。
そして開いていたメモ帳を閉じるとそれを傍らに置く。どうやらもう必要ないらしい。
「それじゃあそうしますね」
ゆきはそう言って立ち上がると、襖を開けて出て行った。その時、ゆきは何かを思い出したように銀時の方へ振り返り、呟くように言う。
「あの……このことは神楽ちゃんや新八くんには言わないで下さいね。お楽しみにとっておきたいので……カツ」
最後の『カツ』の部分を強調させるように言ったゆきの言葉に銀時は彼女が何を言いたいのかを悟り、もう一度頷いてみせる。ゆきはそれを見ると、ペコリと頭を下げて部屋を出た。
襖が閉じられると、銀時は胡座をかいて大きく息をついた。
「まさかねえ」
ぽつりと出た言葉は、彼の部屋にいやに響いて消えていった。
「さて、どうしたもんか……」
銀時はそう呟くと、腕を組んでじっと考え事を始めた。――結局は、何も思い浮かばなかったのだが。
それから銀時が部屋を出たのは、皿のぶつかり合う音(食器を洗っている音だろう)がしてすぐのことだった。
(あのクソジジイ、面倒なことしやがって……)
***