「……何ですかコレは」
そう口にしたのは、朝食を食べ終え万事屋に出勤した新八だった。新八はテーブルを指差しながら銀時にそう尋ねた。
テーブルにはたくさんの皿とたくさんの食べかすが散らばっている。何かの骨や野菜、目玉焼きの黄身、そして得体の知れない赤い液体がテーブルにべっとりとついていた。
銀時は彼の質問に、ソファに寝転がってジャンプを読みながら言った。
「食いかす」
「いや、戦争でもしたんですか?もはやこれは食べかすと呼べるレベルじゃないですよ」
「だから食いかすだって」
「いやいや、この赤いのって血じゃないですか」
「ちげーよお前それあの……あれだよあれ、トマトジュース」
「んなわけあるかあ!」
新八はそう叫ぶと、銀時からジャンプを取り上げて引き裂いた。
「なにすんだテメェェェ!これ今週のジャンプだぞ!?まだ読んでないやつだぞ!?」
「アンタこそ朝からなんつーもん見せてんですか!こんな血みどろの……」
そう言いかけた瞬間、新八はゆきが見当たらないことに気づいた。
「あれ……ゆきさん?ゆきさ〜ん」
新八はゆきを呼んでみるが、ゆきからの返答はない。それどころか、彼女の気配すらなかった。
不安になった新八は全ての部屋を回ってみたが、やはりゆきは見当たらない。新八は最後の手段として、銀時のところへ訊きに行く。
「銀さん、ゆきさんはどこですか?」
「いない」
銀時のその返答に、新八はしばらく何を言っているのか分からずただポカンと突っ立っていた。
しばらくしてやっと頭の機能が正常に可動できるようになり、ゆっくりと口を開いた。
「いないって――」
すると銀時は呆れたように新八を見るともう一度言う。
「だから、ゆきはいないって言ってんの」
「いない?だって、ゆきさんは昨日からここに来て……そういえば神楽ちゃんも――まさか!」
新八はテーブルの残骸や血を見ると、再び銀時を見た。いない、血、残骸、骨――…。よく見れば、彼の服にも赤いものがべっとりとついている。
――まさか、そんな。
新八はわなわなと手が震えるのを止められず、気がつけば銀時に掴みかかっていた。
「銀さんんんんん!」
「うおっ!?えっ、なに新八いきなりどうしたの!?」
彼のあまりにも突然すぎる行動に慌てふためく銀時。新八は彼の胸ぐらを乱暴に揺さぶった。
「銀さん、アンタ食事の時に邪魔な神楽ちゃんを殺したな!そしてそれを非難したゆきさんも手にかけた……」
「はぁ!?ちょっとお前何言って」
「しらばっくれないで下さい!」
大きな声でそう言った新八は、テーブルを指差す。
「証拠だってあるんです……アンタにもついているこの血が!」
「だめだお前ちょっと変なドラマに影響されすぎ!どうやったらそんな推理に辿りつくんだよ!」
「なんてひどい人だ……警察に突き出します!さあ来て下さい!」
「聞けええええ!おいちょっとまじでお前離せって服破れる、」
「ただいま帰りましたー」
「銀ちゃ〜ん、こぼしたトマトジュース買ってきたアルヨ〜」
「……え?」
もう聞くことのできないはずの2つの声に、新八の動きが止まった。顔を上げると、そこにはゆきと神楽が並んで立っている。
「あれ、新八くん?どうしたんですか?」
「銀ちゃんの胸ぐら掴んで…喧嘩アルカ」
新八は胸ぐらを掴んでいる手をそっと離すと、買い物袋をさげている二人から目を逸らし、銀時を見た。彼の額から冷や汗がにじみ出る。
銀時は額に血管を浮かび上がらせながら新八を見ていた。
「新八ィ……てめぇ……」
「あ――あはははは……」
冷や汗を垂らしながら、新八は銀時からじりじりと遠ざかる。その差を埋めるように、銀時も彼に近づいていく。
「何勘違いしてんだ?あん?」
「ええとあの、その、……すいまっせーん!」
そう叫ぶや否や、新八が走り出した。
「待てやコラアアアア!!」
それを逃がすまいと銀時も追いかける。狭い部屋で新八が捕まるのは時間の問題だった。
「銀さん」
その時、ゆきが追いかける銀時を止めた。
「あの、お話があるんですけど……」
「……話?」
その時、銀時の中で、少しだけ嫌な予感がした。
(このバカをシメるまでちょっと待っててくんない?)
(あ、いいですよ)
(ちょっとゆきさん何言って……ぎゃああああ!!)
***