3ヶ月間の嫁 | ナノ


「ゆきー、私お腹空いたアル。何か夜メシ作って欲しいネ」

銀時がお登勢にボコボコに殴り倒され日も暮れてきた頃、お腹を空かせた神楽が口を開いた。
お登勢の登場により自分も被害を被るだろうと悟った新八は早々に帰り、万事屋には銀時、ゆき、神楽、定春しかいない。

「ご飯?」

銀時の怪我の手当てをしていたゆきは神楽を見た。

「いいですよ。台所どこですか?」
「言っとくけど、ウチ、なんもねーよ」
「え?」

銀時は手当てされた手を見てため息をつきながら、ボソリと言った。

「だから、金も食うモンも無ぇって言ってんの」
「そういえば……万年金欠って言われてましたね」
「このバカがヘマさえ踏まなければ、今頃がっぽり金が入ってたアル」

ソファに腰掛けた神楽がそう言うと銀時をじとりと見やった。

「ねー銀ちゃん」

銀時は唇を尖らせ、ぷい、と子供のように神楽から目を逸らす。

「あれは手違いだも〜ん。それに、ゆきがいいって言ってるんだからもう忘れれば?」
「んまぁ!そうやって依頼主が許したからって調子に乗っちゃって……本当に餓鬼よね」
「お前誰?」

銀時と神楽のやりとりを見ながら、ゆきが小さく笑った。そしておもむろに立ち上がると銀時たちを見る。

「じゃあ買い物に行きますね。何か食べたいものあります?」
「俺パフェ!」
「私とにかく白飯が食べたいアル!もしくはうな重でも可ネ!ていうかなんでいの一番に銀ちゃんが言うアルカ!」

次々と言う二人に、ゆきは落ち着かせる。その姿はまるで母親で、なんだか微笑ましい。

「まあまあ、そう焦らずに。時間はたっぷりあるんですから」

ゆきは鞄からメモ帳を取り出すと、いろいろと書き込んでいく。どうやら二人の食べたいものを書いているらしい。小さく、パフェ、うな重、と呟いている。それに神楽や銀時が更に追加をして、メモ帳はあっという間に彼らの食べたいもので埋め尽くされた。
ゆきが楽しそうに笑いながら1ページまるまる埋まったメモ帳を閉じる。それを小さな鞄に入れてると、さっそく出かける準備を始めた。

「今日は腕によりをかけてご馳走作りますね。銀さんたちの食べたいものは明日作りますから」

そう言うと、ゆきは玄関へ向かう。すると、それを見た神楽が立ち上がり彼女のあとを走って行った。

「ゆき、待つアル!私も行くネ!」

それから少しして、玄関の開閉する音が聞こえた。下からは小さく神楽の笑い声がする。

「ったく……本当にまだまだ餓鬼だなアイツは」

銀時はそう言うと、窓から見える夕日をぼんやりと見送った。


***


「神楽ァアア!それ俺の!」
「なに言ってるアルカ!食べたモン勝ちアル!」
「じゃあ俺これ食べるからいいもんね〜」
「人の狙ってたヤツ食うんじゃねぇぞコルァアア!!」
「ぎゃあああ!!」
「ちょ、神楽ちゃん!ちゃんと座って食べなさい!」
「少し待つネゆき!今コイツを始末するアル!!」

いつも以上に騒がしい万事屋は、少しだけ暖かみも増していた。それは定春も神楽も、銀時も感じている。もちろんその理由も、しっかりと分かっていた。
歌舞伎町の夜空は、いつもより輝いて見える。ふと空を見上げた人々は皆、そう思うだろう。
しかし、その理由は誰も、空以外誰も知らない。






(あっ銀ちゃん流れ星ア)
(もらった!)
(テメェエエ!!)


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