ag-short | ナノ



学校の屋上は風通しがいい。良すぎる。むしろ寒い。夏はちょうどいいのだろうが、冬は凍え死ぬんじゃないかってくらい寒い。そんなところでほぼ毎日授業をサボっている銀時がすごいと思った。尊敬はしないが。そんな私は今、銀時と一緒に屋上にきていた。
扉を開けた瞬間に吹き込んできた冬の風にびっくりすると、それを見た銀時がおかしそうに笑う。少しは頭にきたのだが、それくらいで怒るほど私は子供じゃない。彼を無視して私は屋上へ足を踏み入れた。

「……さむ」

やはり冬の屋上は寒かった。酸素を取り込む度にひやりとした空気が私の肺に入り込み、すぐに私の手先や鼻の頭は赤くなった。寒い。もう一度呟くと、私のすぐ後ろで寝転びながらジャンプを読んでいた銀時が反応した。

「寒いか?」
「いや?全然?」
「…本当かよ」

本当は全然とかそういうレベルじゃなかったけど、ちょっと見栄を張ってみた。しかし、いくら見栄を張ってみたところで寒いことは寒いのだ。おっさんくさいくしゃみをすると、銀時が呆れたようにため息をつく。

「お前……今のくしゃみ何だよ。おっさんだったんだけど」
「私に女の子らしさを求める時点で銀時は終わってる」

そう突っぱねると銀時は「あーそうですか」と感情の籠もっていない返事を返した。ヤツは私の後ろにいるので顔はよく分からないが、きっと呆れてジャンプでも読み出したのだろう。紙のこすれる音がした。

さて、先ほども言ったがかなり寒い。手足の感覚が感じられない。息を吐けば白いもやのようになり、座っているコンクリートの地面は容赦なく私の体温を奪っていく。ついさっき食べたほかほかの肉まんはもう胃の中に収まり、ホットココアも既にアイスになっていた。つまり、私を暖めてくれるものはもう何もないのだ。手先に吐息をかけてみるが効果は感じられない。

もうコイツだけ残して帰ってしまおうか。そんなことを考えていた矢先、肩に柔らかな重みを感じた。見てみると、そこには銀時のブレザーがかかっていた。びっくりして銀時を見る。銀時は何食わぬ顔をしてジャンプを読んでいた。あまりの驚きに口をパクパクしていると、銀時の紅い瞳と目が合った。

「寒いんだろ?」
「平気なのに…銀時こそ、寒そうだよ」
「俺こう見えて結構着込んでっから」
「でも、」
「いいからほっとけ。女が身体冷やしたらいけねぇだろ」

そう言われれば黙るしかない。私が頷くと、銀時は納得したように小さく笑った。そして、今度は私の両手を握る。
私とは違って骨っぽく、大きな掌が私の両手を包んだ。同じ状況下にいるのに、どうしてこんなに暖かいんだ。そんなことを考えていると銀時が呟くのが聞こえた。

「冷てぇ…」
「そう、かな」
「寒いだろ」
「まぁ…そうだねぇ」
「こんなに冷たくなるまで我慢しやがって…」

そう言った銀時は、私の両手に息を吹きかけた。さっきまで自分でやっても効果なんてなかったのに、今はじんわりとした暖かさが私の掌を包む。
断ってもきっと無視されるだろうから放っておいたのだが、やがて銀時は自分から立ち上がると私の手を掴んだ。戸惑っている私をよそに銀時はジャンプを拾い上げると、いつもの調子で言う。

「けーるか」
「え、あ、うん…。でも、いいの?」
「あ?何が」
「何がっていうか…」
「――…お前が、」
「え…?」

上手く聞き取れずもう一度聞き返すと、銀時はじれったそうに頭を掻いてから再び続けた。

「お前が寒そうにしてんのに、ジャンプなんて読んでられっかよ」
「…うん」

私は俯くと、銀時に手を引かれながら屋上を出た。体全体の暖かさは静まることなく、いつまでも暖かいままだった。








(とても、暖かいです)

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -