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結局、攘夷戦争は負けという形で幕を下ろした。その呆気なさや幕府の行動に憤りを感じつつ、それでも時間は容赦なく過ぎていった。

私は戦渦に巻き込まれる前にあの場所から去り、今は違う土地で何とか働いていた。
私が住み込みで働いているところは小さなお店で、店長さんも良い人で生活はジリ貧だったけどそれでも充実した生活だった。


「え…解雇、ですか?」
「うーん…ほら、最近不景気でしょ?ウチもその影響でお客が来なくなって…お店畳むことになっちゃったんだよ。君はお客からも評判良かったし、とっても残念なんだけど…」


そう言って、店長さんは今月分の給料を私に手渡してくれた。今日限りでお店を止めなければいけないらしい。私は給料を受け取ると、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

***

行く先もなくぶらりぶらりとしていると、大きな通りに出た。巨大な鞄を持って通りをウロウロしている私はひどく滑稽だろう。あまりにも辺りをキョロキョロしすぎて人にぶつかってしまった。ぶつかった人は小さく舌打ちをしてから私を一瞥すると、小さくほくそ笑んだ。


「…何よ、そんなに私がおかしいっていうの?」


そう呟いて、おかしいんだろうなとため息が出た。
とにかく、今日泊まる宿を探さなければいけない。私は重いため息をつくと、鞄を持ち直して歩き出した。出そうと思った。


「……」


う、そ。言葉にならない言葉が頭のなかを駆け巡る。全身の血の気が引いていくのが分かった。


「なん、で…」


ここにいるの。あぁ、声が掠れてしまった。でも、なんで。
今私の目の前にいる男。遠くからでもよく分かる銀の髪の毛。なんで。


「なんで…」


そう呟いたのとほぼ同時に、彼と目が合った。心臓が高鳴り、頬に熱が集まるのがよく分かった。一瞬彼の紅い瞳が大きく開き、そして彼は何故かあたふたと周りを確認してから再び私を凝視する。
つかつかと歩み寄ってきた彼は次の瞬間、何をするかと思えば懐から古っぽい簪を取り出して私に差し出してきた。その簪には見覚えがあった。何故なら、私があの日あの時に渡した自分の簪なのだから。


「これに見覚えない…スよね…」


後半は呟きのようになった彼の質問に、今度は私が彼に訊く番だった。私は常に帯に忍ばせていた古い匂い袋を取り出し彼に見せる。


「これに見覚え、ありますよね?」


そう言った瞬間、彼の紅い瞳が一層大きく見開いた。そして次には私と同じように頬を紅潮させ、何度も私と見比べる。そして勢いよく何度も頷いた。あぁ、やっぱりそうだったんだ。
嬉しさから少しだけ目尻に涙を溜めると、彼が抱きしめてきた。懐かしい彼の匂いが肺のなかを満たしていって、私も彼の背中に両腕を回した。昔よりも大きくなった?と訊くと、お前こそ、と言って腕の力を更に込めて呟く。


「ずっと好きだった…」


その一言でまた泣きそうになってしまう。それを必死に我慢すると、私は何度も頷いて言い返した。


「私は、今も好きです」










さぁ、あのころの続きから始めよう

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