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彼は白かった。それはもちろん本当の意味で。
彼の髪の毛は綺麗な銀髪の、やや…というかかなりクセのある柔らかい髪の毛で、その髪を撫でるととても落ち着いた(本人は多少嫌がっていたが)。
彼は真っ白な着物を身に纏って、手には先生から貰った大切な刀を握っていた。


「俺、戦に出るわ」


そう言った彼の眼は本気で、真っ白なそれとは対照的な紅い瞳が鋭く私を捉えた。私は彼のその瞳を見つめ、開きかけた口を大人しく閉じた。
私にも行かせて。
そう言いたかったのに、彼の瞳が、彼の放つ空気がそれを赦さなかった。私はただ、頷くしかなかった。

本当は解っていたのだ。彼が、私の身を案じてそれを拒否したことくらい。解っていたのだ。戦場へ行っても意味がないことくらい。あんなところへ行って敵を倒しても、かつての師匠は戻ってくることはない。それでも私は、彼のそばにいたかった。好きだった。

彼や仲間がとうとう戦場へ行ってしまう日の前夜、彼が私にある物を差し出した。それは以前私が欲しいな、とこぼしていた有名なお店の匂い袋で、口を閉じてある紐の先には小さな水晶玉がついていた。


「俺の代わりに、持っとけ」
「代わりって…」
「すぐ戻ってくるからよ」


そう言って彼はニッと笑った。彼の紅い瞳が細められ、私の頭をくしゃりと乱暴に撫でた。私はそれに抵抗はせず、ふと思い出して自分の後ろ髪にあるそれを抜き取ると、それを彼へと渡した。それとはつまり簪で、ずっと昔、先生が私に誕生日の贈り物としてくれたものだった。
簪が差し出された途端に彼の眼が見開かれ、私とそれを何度も見比べている。それもそうだろう。だってこれは、私が肌身離さず持っていたものだったのだから。


「お前、これ…」
「匂い袋と、交換」


大事にしてね。
そう言って無理矢理彼に渡す。彼は一瞬対応に困っていたようだったが、やがてそれを大切そうに懐にしまった。彼はありがとうと、そう言った。声が、震えていた。彼の紅い瞳がまるで宝石みたいに潤んでいて、それを隠すかのように私を抱きしめた。


目が覚めると彼はもういなくて、残されたのは彼のくれた匂い袋だけだった。ふと、匂い袋の下に小さな紙切れを見つけた私は、期待と不安を抱えながらも急いでそれを広げ、かじりつくようにして彼の文字を追った。


「…なんて、」


そこまで呟いた私は、耐えきれなくなり涙を零した。最後の文が滲んでいる。きっとこれは、彼の涙だ。
あぁ、なんて優しい人なんだろう。
私はそれを握りしめると、声をあげて泣いた。手の中の匂い袋からは、彼の匂いが優しく香っていた。






永遠の別れ

なぁ頼むから、
こんな俺のことは忘れてくれよ。


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