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先日から梅雨に入り出かける用事もなく、ソファでぼけっと寝転んでいると玄関の開閉音がした。家主が帰ってきたらしい。じめじめしていて声をかける気にもならず、不快感に小さく唸って寝返りを打つと、ソファからずり落ちて見事に床に頭を強打した。

「……なにやってんの」

いつもの抜けた顔でひょっこり視界に現れた家主の、その銀の髪の毛は普段より元気に跳ねている。その髪の毛からぽたりと水滴が垂れた。軽く雨をかぶってきたらしい。

「……おかえり」
「ただいま。で、なにやってんの?」
「寝返り打ったら落ちた」
「おいおい、頭大丈夫かよ」
「銀時くん、その言い方ちょっと誤解を生むからやめようか」

そう言ってのそのそと起き上がると、彼が珍しいものを抱えているのに気がついた。緑と黒いしま模様の、丸い果実。はて、時期はまだ先のはずだが。

「それ、どうしたの」
「ババアが肥後の知り合いから貰ったんだってよ。こんなに食いきれないっつって、ひとつくれた」
「今の時期にスイカって……おかしくない?」
「ばっかお前、ここのスイカは梅雨前のやつが一番美味ェんだよ」
「へえ……」

スイカは夏、というイメージがあったから、この時期のスイカはなんだか不思議な感じだ。灰の空から雨が降るなか、テーブルの上の緑と黒いしま模様のスイカは妙に映えて新鮮だった。表皮が結露しているので、ついさっきまで冷蔵庫にでも入っていたのだろうか。

「梅雨にスイカなんて乙だねえ。食べる?」
「おう、食う食う」

さっそく台所からまな板と包丁を持ってきてスイカを切る。切った途端に瑞々しい香りがして、淀んでいた空気が爽やかになった気がした。

「てっぺんのとこの甘味が均等になるように、放射状に切っていくんだぞ」
「え?どういうこと?」
「だからァ、四等分に切るだろ?そしたらこれの真ん中を基準に、こうして切ってくんだよ」
「ああ、そっか。そしたら一番甘い真ん中のところが全部に行き渡るんだね」
「そういうこと」

切り分けたスイカをひとつ取って食べてみる。すごく甘かった。シャリシャリでジューシーである。しばらくの間、銀時と目を合わせたまま固まってしまった。

「美味いなこれ」
「一足先に夏を感じるねー」
「あーもう気分は夏だわ」

四分の一を食べ終わったところでお腹が膨れてきた。残りは夕飯のあとにみんなで食べよう。きっと喜ぶはずだ。
銀時は膨れたお腹をさすりながら横になると、満足そうな息を吐いた。見る限りただのおっさんだ。

「いやー食った食った」
「なんか贅沢した気分」
「ふぃー」

うむ、やはりおっさんだ。
そのおっさんの横に、私も寝転がる。至福の時だ。

「ババアもっとスイカくれねーかな」
「さすがに図々しいでしょ」
「神楽がなー、あいつ馬鹿みたいに食うからなー」
「ああ、神楽ちゃんかあ」
「……」
「……」
「……」
「お腹いっぱいで眠いね」
「眠いな」

そのやりとりにちょっと笑って、私は目を閉じた。銀時の暖かい手が私の頭を撫でて、それがさらに私を眠りへと誘う。
梅雨独特の湿気を含んだ空気のなかには、まだスイカの瑞々しい匂いが残っていた。



(130530)
この時期のスイカめちゃくちゃ美味しい。くま●ンさすがやでぇ…

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