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むわっと紫煙が私にかかった。吹きかけたのは目の前にいる晋助で、ここは晋助の部屋だ。
部屋の主はベッドを背もたれにして床にどっかりと座り、まだ未成年であるはずなのにも関わらず煙草を吹かしている。一体いつになったら止めてくれるんだ。

「おい」

不意に晋助が口を開いた。私はかけられた言葉に返事はせず、目だけを晋助に寄越す。
毎度のことなので晋助も返事をしないだけで怒ることはなかった。晋助は再び紫煙を吐き出すと短くなった煙草を灰皿に押し潰す。

「今日が何の日か、知ってるよな?」

私と晋助は所謂恋仲というやつで、それ以前に幼なじみでもあった。家が隣同士だから晋助がちょくちょく私の家に不法侵入することだってよくあったし私もしたし、互いの家に寝泊まりすることだってあった。流石に私は中学に上がってからはしなくなったが。
そんなこんなでいつの間にか私たちは付き合うことになっていて、いつの間にか付き合って数年経っていた。

「8月10日、晋助の誕生日だね。おめでとう」
「ん」

私がお祝いの言葉をかけたのにも関わらず、晋助は短い返事だけすると新しい煙草を取り出し火を点けた。ぷはぁ、と煙を吐き出す。

「知ってる?煙草には主流煙と副流煙があって、他人が吸い込む副流煙の方が害があるんだって」
「それで?」
「つまり、私のためにも禁煙しようってこと」
「お前が俺に渡すモン渡したら考えてやるよ」
「晋助が禁煙してくれるなら、渡すモン渡してあげる」
「……」

晋助は面倒そうに舌打ちをすると煙草をくわえた。ぷかぷかと紫煙をくゆらせながら私を見るその姿は様になっていて、悔しくて脛を蹴っておいた。
晋助は口端を吊り上げると、勝ち誇ったような顔をしている。私が悔しさから顔を歪めたのが分かったのだろう。ああもう、悔しくて仕方ない。

「で?渡すモンは?」
「……」

私はニヤリと笑う晋助を睨みつけながら胸ポケットを探る。取り出したそれを放り投げるようにして晋助に渡した。
宙を舞ったそれは見事に晋助の手中に収まり、それを見た晋助は驚きから一つしかない目を見開く。

「……未成年は買えねぇはずだが?」
「安心して。お父さんの買いだめてたやつだから」

晋助は鼻で笑ってみせるとそれをひらひらさせて私を見た。あの顔は完全に私を馬鹿にしている顔だ。

「随分安っぽいじゃねぇか。お前の渡すモンはこれだけか?」

それ――封の切られていない真新しい煙草の箱をつまむ晋助に、今度は私が鼻で笑う番だった。

「お母さんがケーキとご馳走用意してるから、夕方には来なさいって」

私はそれだけ言うと扉へと向かう。晋助は止めない。

ドアノブを掴んで捻ると私はそうだ、と晋助を振り返った。相変わらず腹立つ顔をしている。

「私はちゃんと渡すモン渡したから、晋助も禁煙しなね。来年は携帯灰皿プレゼントしてあげるから」

そう言った途端また晋助の目が見開かれて、そしてすぐに肩を震わせて笑った。
いつもより楽しそうな晋助を見て、私も口角を上げる。

「お前のその禁煙計画とやら、付き合ってやるよ」

その言葉に、私は晋助の真似をしてニヤリと笑うと、彼の部屋を出た。晋助はまだ小さく笑っている。
その笑い声を背に廊下を歩く私は、自分の部屋にある本当のプレゼントを思い浮かべて頬を緩ませた。

さて、いつものように窓から侵入してきた晋助は本物のプレゼントを見てどんな顔をするのだろうか。今からわくわくして仕方ない。
だって、彼の誕生日はこれからなのだから。








(100810)
title by,カカリア
高杉 Happy Birthday!
企画「誰かが、」様に提出

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