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うま


「………もう一度やってみろ」
「貴方の目は節穴ですか。どう見ても不可能でしょう」
「…だがな。これがないとお前は、」
「ですから。私は荷台に乗ると申し上げているでしょう」

馬舎に来て早五分。いくら私が無理だと言ってもリヴァイは諦めてくれず、なら百聞は一見に如かずだと馬に手を伸ばした。途端に暴れながら後退りをする馬にほらねと彼を振り向けば、思いっきり眉間にシワが寄っていた。その不信感満載の表情にもう一度手を伸ばせば更に興奮する馬。と、シワを深くするリヴァイ。そして冒頭の会話である。
馬は人の感情に非常に敏感な動物だ。別に私が馬に対して恐ろしいことを考えているという意味ではない。それだけ五感が優れているという意味だ。義骸に入っているとは言え、謂わば幽霊的存在。普通の人間とは異なるモノに違和感を示さない訳がない。非常に賢い動物である。ちなみに馬だけではなく他の動物も基本はダメだ。寄って来るのは黒猫夜一と定春ぐらいしかいない。
なのにリヴァイは私をどうしても馬に乗せたいらしい。恐らく技術的なことは問題ないのだろうと思う。だけど、根本的な所で無理なのだ。そもそも馬が私に触らせてくれないのにどうやって乗れというのか。

「荷台は荷物が乗る。お前が入るスペースはない」
「じゃあ私は壁外調査に出かけなくて良いということかな」

そう言うと急に黙り込むリヴァイ兵長。いや、別にそんな真剣に考える程本気で申し上げたのではないのですが。予想以上の反応に思わず私が焦りかけていると不意に彼は馬を引いて外に出した。

「ついてこい」

夕闇迫る時間帯、先に出た彼の表情がイマイチ読み取れない。やや目を細めながらリヴァイの近くに寄れば、急に彼は飛び上がって馬へ乗った。まぁ馬を引いて来たのならそういう行動に出るのも分かる。だが何をしたいのかはよく分からず、ただ見上げていると自分の後ろを指差して兵長様は宣った。

「乗れ」
「………は?」
「聞こえなかったか。ならばもう一度言おう。後ろに乗れっつったんだ」

どうやら聞き間違いではないらしい。暗順応によって見えるようになった私の目によれば、彼の眉間のシワはやや取れている。まさかこの案が最善だとお考えであるのだろうか。こうすれば私が馬に乗ることが出来ると本気で思っていらっしゃるのだろうか。とバカにしてみたが如何せん彼は本気らしい。自分の後ろを指差したまま微動だにせずに私を見つめている。それに不思議とこみ上げてくる笑いを噛み殺して、私もそこを指差した。

「…いやいや。ご冗談を。触れることも嫌がっている様子は貴方もご覧になったでしょう」
「ああ。だが手綱は俺が握っている。緩和はされるだろ」
「いや、そうかもしれませんが。そんな自信満々にドヤ顔されても困ります。下手をすれば貴方も一緒に振り落とされますよ」

俺は振り落とされねぇ。そういう返答を私は予想していたし確信があったからそれに対する更なる返答も用意していた。だが、彼の口からは全く斜め上をいく言葉が飛び出して来て。

「それはお前がどうにかしろ」

馬が尻尾を左右に振ったのはどういう意味だったのだろう。


























結局、リヴァイの目論見は見事に当たった。え、手綱を誰が握るかでこんなに落ち着くもんなの。ていうか私乗ってるっていうか貴方にべったり触ってるけどそれはいいの。さっき触らせてすらくれなかったよね。え、手綱の問題なの。と、混乱する中、後ろを振り返った兵長様のドヤ顔に異様に腹が立ったのを私は一生忘れない。

「へぇ……君たち、そういう仲なんだ」

そう言った直後に意図的な力によって激しく落馬したハンジを私は一生忘れない。
今日は昨日に引き続き壁外調査への連携確認の訓練だ。ちなみに昨日が森の中で立体機動を使った戦闘訓練をひたすらやっていたのだが、今日はそれを馬による移動という動作も組み込んでのより実践に近い訓練らしい。そう言われてみれば移動は馬、実践は木の上。馬から木へ、木から馬へ。これが基本動作になるのは少し考えれば当然のことと分かるし、そもそもこれが出来ないと戦闘に入れない。そして馬に触れないとか最早問題外。リヴァイがあんな顔になったのもあんなドヤ顔になったのも理解出来る。

「人と一緒に乗れば乗馬出来る?ウッソォ〜」

乗馬した状態で集合となった今日、二人乗り登場した私たちに相変わらずどストレートな感想を言って制裁を受けたハンジを助け起こすと、そう言って彼女は豪快に笑った。その顔は全く信じられないと言っているが、残念ながら事実だ。他の団員もちらほらとそんな表情が伺える。

「だったらお前もやってみろ」
「え、いいの!?」

何故そんなに嬉しがる。そして何故そんなに手を強く握る。笑みが怖い。

「え、マジで」
「やってやれ。それで変態が満足して訓練にやる気が出れば万々歳だ」

集合時間にはまだ少し早い。そもそも団長であるエルヴィンが来ていないので始まるはずもなく、渋々従ってハンジの後ろに飛び乗った。

「へ、?」
「っウソ、でしょ…」

瞬間、前足を高く上げて振り落とされた。いや、正確にはその直前に私がハンジを脇に抱えて飛び退いたので落馬は免れた。が、興奮してしまった馬は今にも逃げんばかりの体勢で、ミケやら他の班長達が揃って諌めている。地面に下ろした彼女が急いで自分の馬に向かう様子を茫然と見ていると、リヴァイが呼び掛けて来た。

「一応聞いておこう。何をした」
「何も。だから、分からない」

何が原因だ。そう考えて黙り込んでいると、手綱を引いて戻ってきたハンジがやや怒ったようにリヴァイへ噛み付いた。

「ウソじゃないか!」
「テメェの邪な感情に反応したんだろ」
「否定は出来ないけどさ!それとこれは別だろ!?」
「別じゃねぇ。…オイ、ナマエ!」
「あ、ハイ」
「乗れ。エルヴィンがもうじき来る」

一瞬さっきの嫌な場面を想像しながら飛び乗るも、振り落とされはせず。なんでェー!?ズルい!と叫びまくるハンジを宥めるのに少し面倒だと思ったのは、内緒である。

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