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「…以上が昨日起こったことです。捕縛まで至らず申し訳ございませんでした」

「……お前、本当に一人で奴ら三人を相手したのか」

「左之助さんから伺ったのではないのですか。一部ではありますが、彼はご覧になっている筈ですが」


昨日の昼過ぎのことだ。巡察ついでに昼飯と四楓院の着物やら小物やらを一緒に買いに行ってたはずの千鶴が俺の部屋に障子を蹴破らんばかりの勢いで入ってきた。一応入室の許可は取ったものの、普段だったら絶対にないその様子に何があったのかと俺も一瞬焦ったが、一先ず千鶴を落ち着かせる為に座らせて両肩を掴んで話を聞けば、段々と状況が見えてきた。原田と総司が浪士に喧嘩をふっかけられたらしい。結構な数ではあったがあいつらが負けるワケもねぇ。
だが、千鶴が焦って伝えたかったのはそこではなかった。

『名前さんが!名前さんも行ってしまわれました!』
『…お前をここに連れて来たのはその四楓院じゃなかったのか』
『あの、私をここに置いた瞬間に一瞬で消えてしまって…土方さんもご覧になってる筈です』

瞬歩とやらをして現場に戻った四楓院の身を案じた故の焦りらしいとここで漸く分かった。確かに原田や総司の心配もしていたのだろう。だが、四楓院は女だ。しかも怪我も治っちゃいねぇ。また酷い怪我でもしたら、と千鶴は思ったようだが俺は全く別のことを思った。
何故、その現場へ戻ったのか。
一応新選組の法度は教えてある。逃亡が切腹だとも知っている筈だし、何よりあの計算高い四楓院が迂闊に逃亡などする訳がない。だから余計に気になった。だとすると、何か帰る手段でも見つかったのか。
その確認も兼ねて屯所へ戻ってきたら問い詰めてやろうと思っていたのだが、当の本人は血だらけで帰って来て目を覚まさないと来やがる。しかも総司や平助をのした奴らを一人で相手をして負った傷だときた。確かにこいつの実力じゃありえないこともねぇが、総司とほぼ互角というのを考えるとどうも腑に落ちない。それに原田の様子も何だかおかしい。最初に現場に到着したのが原田だとは聞いたがその時に何かあったのか。問い詰める人物が増えていきそうなことに頭が痛くなりそうだ。と思っていたところで山崎から四楓院が目を覚ましたと報告が入り、俺の部屋へ呼び出した所で冒頭の会話へと戻る。
さも当たり前の事のように言う四楓院にこいつの実力を測り間違えているのではないかという考えが頭をよぎる。


「俺らもそいつらと相見えた時が二度程ある」

「何なんですか彼らは。単なる浪士ではないような感じがしますが」

「名も割れてる。風間千景、不知火匡、天霧九寿だそうだ」

「態々名乗ってくれた訳ですか。相当自信がおありのようで」

「そのうちの二人に総司と平助が過去にやられた」


ここで漸く四楓院の表情が変わった。焦燥、だろうか。だがそれも一瞬で、確信を得るより前に、笑みを浮かべると髪をかきあげた。


「お二人共お身体の調子が宜しくなかったのでは」

「寧ろ絶好調だったがな」

「ならば、場所は。狭い部屋の中であったとか」

「それは一理あるだろう。実際池田屋という建物の中だった。だが、俺らの物取りは基本室内が多い。お前らだってそうじゃないのか」

「ですが、室内と屋外では大きく刀が振れる範囲が異なります。天井と空。火を見るよりも明らかでしょう」


こいつは俺が何を疑っているのかを分かっているのだろう。相変わらずの読みの鋭さに嫌気が差すが、俺の思考回路がそれ程読みやすいということなのかと反省しかけたところでやめた。出会った時からそうだ。年齢に見合わず常に余裕のある態度には、最初から勝てる気がしなかった。というかやる気を削がれる。今もそうだ。さっき一瞬見せた表情は何だったのか、上手く交わしたことに満足気な感情さえ浮かべていない。それがさも当然だと言わんばかりの笑みだ。腹が立つ。
いっその事ここで攻め立ててしまおうか。
そう思って口を開いたらそれより先に言葉を止められた。


「土方さん。貴方は一つ、勘違いなさっています」

「…どういう意味だ」

「私が先程申し上げました"二人"とは総司さんと平助君のことを指しているのではありません」

「…は、?」

「その人間らのお相手"二人"のことですよ」


ちょっと待て。最初に四楓院の口から二人という単語が出てきたのは確か体調が宜しくなかっただなんだと言ってた時だ。その後は屋外と室内の話だったと思う。俺は、平助と総司の"二人"が負け、自分は更に上回る人数を相手にしても負けなかった理由を四楓院が言ってるものだと思っていた。いや、誰だってそうだろう。一体誰が敵側の二人に主語をおいて喋るか。
だが、そうすると大分意味合いが変わって来る。


「そうですよ、流石にお気付きでしょう。あんなのを相手にしてよく今まで生き延びて来ましたね」


人間風情が。
そう言った四楓院の表情にヒヤリとしたのは勘違いではないと思う。それにどこか見覚えがある。
なんてことを思ってる場合ではない。こいつが言いたいことはつまり風間達が常に手を抜いて戦っていたということだ。確かに思い当たる節はある。刀は常に片手で、一人は銃を難なく使いこなし、もう一人に至っては刃物すら持っていない。だが、それは俺らを相当下に見てるってことだ。自分の中でもずっと燻っていたものではあるが、こうもはっきりと言われると憤りを覚えないと言えば嘘になる。


「テメェは俺らがあいつらより遥かに劣ってると言いてェようだが、だからどうだってんだ。次対峙した時は潔く逃げろってか?出来るわけねぇだろ。敵前逃亡は切腹だ」

「ええ、そうでしょう。此方もそのような法度がございます」

「……じゃあ何が言いてェ」

「彼らはあなた方に毛程の興味もない」


刀を抜いたのは必然だ。それでも微動だにせずに、いつの間に抜いたのか刀を片手で構える四楓院に何故か風間の姿が被る。室内で膝立ちだからと言えども俺は男だ。なのにどうして正座で片腕で俺の刀を止められる。どうしてそんな涼しい顔をしていられる。


「…お前…総司とやった時、手抜いただろ」

「あれは私の全力ですよ」

「その時の体力的に、か?」

「これはまた…ご明察ですねぇ」


純粋に驚いたという顔に腹が立つ。力を込めた刀はぎちぎちと音が鳴り、そろそろ音を上げても良い頃の筈だ。なのに未だに片腕で支えているのも余計に助長する。ならばもう一方向から攻撃を加えてやろうと柄から右手を離して、脇差を抜こうとした。
のが、間違いだった。
俺の手が柄から離れるか離れないかぐらいで突如刀が一気に押し戻されて。それに一切逆らえなかった俺は押されるがままに手を上に挙げてしまい、次の瞬間には綺麗に刀を吹っ飛ばされていた。直後、四楓院の右手は俺の左手を捉え、空いている左手はご丁寧に俺の右手とまとめて脇差を抑えている。更に自分の刀は確りと鞘へ仕舞われているときた。それを一瞬でやってのけた四楓院の顔には、余裕でも笑いでもなく、何故か呆れの表情が浮かんでいた。


「何故、刀から片手をお離しになったのですか」


裏を返せば、何故片腕で勝てると思ったのか、だ。俺としては離した方の手で脇差を抜くという動作を最大限の速さで行うつもりだった。だが四楓院にとっては蠅も止まる速さだったのだろう。私が敵なら死んでますよと言ってため息を吐いている。その言葉に何だか漠然とした引っ掛かりを覚えて、正座をし直した四楓院に鸚鵡返しをしてしまった。


「…敵、なら?」

「あら。そこに気付きますか」


どうやら良い質問だったらしい。襟元を整え、半纏の袂を払って驚いた顔をした彼女に、俺も姿勢を正してその先を待った。


「貴方は私の敵ではない、という意味ですよ」

「馬鹿にしてんのかお前は」

「まぁ、無駄話はこれぐらいにして」


私がどうやってこの世界に来たか、分かったことをお話ししようと思います。

あっさりとそう言った四楓院の顔は、ついさっき俺の脇差を止めた時となんら変わりはなかった。


























少しは驚け。
(反応薄いですよ、土方さん)
(それは俺の台詞だ)

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