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見廻りは特に問題もなく終わった。千鶴はどうやって父親捜しをしているのかと思ったら、隊の一番後ろを歩き、ふと目の止まった店へと入り風貌を口頭で伝えて相手の記憶を探るというやり方だった。写真もないこの世界。似顔絵師でもない限りその人を表すものは言葉でしかない。本当に不便な世界だ。不規則に止まる千鶴の後をヒョコヒョコと着いて行きながらそんなことを考えていると、街の外れに辿り着いた。そこで十番組と合流してお互い異常がないことを確認。すぐに解散となったので、当初の予定に加え、俺も行くと原田左之助も加わり四人で総司さんオススメの蕎麦屋へと入った。そこで私は鴨葱蕎麦を頼んだ。葱に反応した総司さんが煩かったのはまた別の話だ。鴨は思っていた以上に入っていて案外食べ応えのある蕎麦だった。久しぶりに外に出ることが出来、この世界の文化を把握することも出来、嫌々ながらも見廻りについて行ったのは正解だったのかもしれない。こればっかりは総司さんに感謝してやろうか。


「名前、決まったか?」

「あ、はい。これらにしようかと」


昼食を済ませ、向かった先は呉服屋。真選組のミニスカ隊服はダメだと言われたので、二三着調達しに来たのだ。着物は濃紺、若草、白。袴は黒、焦茶、濃緑。今着ているのは一番背の低かった平助少年に借りたモノで、何処で買ったのかと聞いて今立ち寄っている。平助少年もちょくちょく来るのか会計の時に彼の名前を出すと、嬉しそうに割り引いてくれて、更に重いだろうから屯所まで届けるとも申し出てくれた。


「え、悪いですよ。そんな、七番組長さんならともかく初対面の私に」

「なに。遠慮なさるな。コレを機に私の様な年寄りにも良くしとくれってことで、任せちゃくれんかね」


確かにここから屯所までは距離があるし、今両手に持つのは鬱陶しい。それにこの呉服屋は珍しくデリバリー的なモノもやっている。こういうのは甘えとけという左之助さんの後押しもあり、今日の夕方にという約束をしてそこを出た。ちなみに千鶴は総司さんと斜向かいの履物屋にいる。自分の足袋と草履を調達ついでに私のも頼んでくれるらしい。サイズをどう伝えるか一瞬悩むと、僕知ってるからって言って千鶴ちゃん行くよと彼女を引っ張り中に入ってしまった。なんだあいつはストーカーか、と鳥肌が立ったが私のブーツをしげしげと眺めていたことがあるのを思い出して何とか自分を納得させた。


「名前さん!」


呉服屋を出て30秒もしないうちに出て来た千鶴と、包みを片手に呆れたような顔を浮かべる総司さん。目が合うなりそう言って駆け寄ってくる千鶴に私も原田さんも笑みを零した時だった。


「新選組の組長殿方とお見受けする」


という声と共に、わらわらと一体何処に隠れていたのかというぐらいにあっという間に私達を囲んだ。全員が腰の刀を抜いている。コッチなら全員銃刀法違反でしょっぴいてるんだがな、と思いながら原田さんに話しかける。


「どうなさるんですか、こういうのは」

「斬って捨てる」

「って言うのはやり過ぎだがな。ここは街の人間の目がありすぎる。走って撒きたいところだが…」

「えー斬っちゃおうよ、左之さん。名前もいるし、そっちのが早い」


敵は全部で20人弱。白打で叩いたら一瞬で終わる数だ。というかそうしないと夜一に殺される数だ。だけど、この場で使ったら間違いなくこの二人に警戒される数だ。となると喧嘩を買う方向になるが、原田さんの言う人の目云々は最もな話だと思う。こんな真昼間から人殺しを生で見て気持ち良くあと半日を過ごせる筈がない。千鶴も総司さんの提案にやや眉を潜めているので、原田さんの提案に肯定の意を示そうとすると先に彼が口を開いた。


「総司、二手に分かれるぞ」

「二手って…名前は?」

「名前。お前は千鶴を連れて屯所に戻れ。で、土方さんにこの事を伝えてくれ」


明らかに総司さんは不満そうな顔をした。多分、自分に割り振られた仕事が気に入らなかったんじゃない。私の役割が気に食わなかったのだろう。ただ千鶴の手を引っ張るだけで敵との戦闘は入っていない。だが、彼も流石に千鶴を一人で返そうとする気はないようで渋々と頷いて荷物を千鶴に渡した。


「りょーかい」

「はい」

「よし…行くぞ」


その合図で同時にそれぞれ反対の路地へと駆け込んだ組長二人。唐突な行動に一瞬敵さん達も止まったが直ぐに動き出し、辺りは一気に騒がしくなった。そんなどさくさに紛れて千鶴が斬られない様に手を引いて近くに寄せると彼女が不安そうな目を向けて来たので、微笑むと頭をぽんと叩いた。


「口、閉じてて」

「…へ?」

「アレで屯所まで戻るから。下手にすると舌、噛むよ」


千鶴は案外理解の早い子らしい。目を見開いて急いで口を閉じた。その様子に少し笑うと、喧騒で舞い上がる砂埃の中、彼女を肩に担ぎ上げて瞬歩でその場から消えた。

























『え!?戻る!?』

『ああ、戻るよ。ちょっと心配だからね』

『た、確かにお二人はお強いですが万一ということもあるでしょうけど……名前さんが行かれるのは、』

『違うよ』

『え?』

『あれは誰だ』


千鶴を下ろし土方への言伝を頼んで、自分は二人の方へと戻ると言うと案の定止めてきた。だが、屯所への道中で一瞬尾けられている様な気配がして少し探りたかったので、深く突っ込まれる前にさっさと瞬歩で姿を消し、住民にバレない程度に時々瞬歩を使いながら屋根を駆けていた。
その時だ。
お目当てというか、その妙な気配を感じて足を止めた。さっきも思ったがやはり何処か身に覚えのある気配だ。虚とも整とも異なるが人間ではなく、殺気を纏ってる訳でも…いや。今は殺気が若干ある。それも恐らく私に向けて。屋根からひと気のなさそうな路地に降り立つと、声をかけた。


「私に、何か用でも」


私の呼びかけに少し間を開けて、背後五メートル程の民家の影から気配が現れた。正直、振り向くかやや悩んだ。気づかぬふりをして立ち去るという選択肢もあるが、気配を自在に操れる奴が私が気付いていることに気付いてないわけがない。ので、渋々振り返った。

で、後悔した。


「っ、うわ、」

「ほう…これを防ぐか」


振り向いて眼前に待っていたのは刀の切っ先。勿論こちらも刀を抜いて止めたのだが。私が振り返るという動作に移った瞬間にこいつは殺気を物凄い勢いで飛ばして来た。つまりだ。私が振り向かなければ刀は向けられなかった可能性もあるということで。だから、後悔したとさっき言ったのだ。


「その身のこなし、剣術、力。何処で身に付けた」

「…それを聞いてどうする」

「我が同胞に近い者かを見定める」


我が、同胞?
確かにこいつはなんか霊圧が変だ。上手く人間に溶け込めてはいるがよくよく目を凝らすとそれは異質。私に剣を向けて来た腕を見れば分かる。正直ここまで押されるとは思っていなかった。今だって、内心結構焦ってる。何処ぞの軍団長閣下かと思う程にやけに力が強いのだ。出来る限り穏便に逃げたいと思っていたが、これは鬼道の一二個を使わないと無理か。


「…これを聞いても顔色を変えぬとは、見当違いだったか」

「ならばこの剣、お納め願えませんかねぇ」


すると案外簡単に引かれた刀。それに驚きつつも五メートル程距離を取って臨戦態勢に入るかこのまま瞬歩で消えるか悩みながら斬魄刀を握り直していると、やや後ろの方からカチャリという独特であるがどこか聞き慣れた金属音がした。瞬間、何の音かを思い出すより早く身体が動き、というか口と手が動いた。


「【廃炎】」


ほぼ同時に鳴り響いた乾いた音に自分の判断は間違っていなかったと分かる。跳ね返してはこの民家に銃弾が入る可能性が高い。かと言って受け止め切るには少々時間が足りない。なので、自分の周りに薄く霊子を張りそこを貫通して来たモノの方向に向かって廃炎を掛けた。苦手な縛道が多い中、割りと得意なそれは詠番詠唱破棄でも可能で。目の前の奇妙な男から注意を逸らさずに防御が出来た。代わりに大分霊力を消費したが。


「…貴様、今のはなんだ」

「お前にはちょっと高度な技だ」

「……不知火」


それが発砲したヤツの名前らしいと思った時には銃撃の嵐だった。だがその存在を捉えた瞬間からヤツの気配には注意を払っていたので、さっきのように鬼道を使って防ぐことはない。目の前の男と距離を取る様に後ろへと下がりながら避け、大通りへと出てしまえばこちらの勝ちだなと思った瞬間。


「、あれ」

「申し訳ありませんが、これ以上外に出て貰っては困ります」


第三者にまるで瞬歩の様に一瞬で後ろを取られ、蹴りというオプションまで貰った。あんまりに予想外だったので綺麗に横っ腹に食らったが、本気の蹴りではなかったらしくそんなに衝撃はなかったが動きを止める要因にはなり得る。未だ止まぬ銃撃は容赦無く降って来て、避けきれずき二発ぐらい掠めたところでふと全ての攻撃が止まった。


「中々いいお友達をお持ちのようで」

「もう一度問う。貴様、何者だ」

「そんなに私に興味を持ってくれるか。嬉しいが、しつこい男は嫌われるで」

「死にたくはないだろう」


今の私は単独行動も甚だしい。いくら千鶴に二人が心配だから戻ると伝えてあったとしても、いい加減総司さん達と合流しないと逃亡と取られかねない。確かうちの真選組と同じく逃亡は切腹だったと思われる。


「………誰に、言ってるんだ」


こうなったら解放して消すかと霊圧を滲ませると三人の顔が揃って変わった。


「貴様、…やはり人間ではないな」

「その言葉、そっくり返そう」


そして、この短い間に判明したことがある。こいつらと全く同じ霊圧を持つ者が私の近くにいる。


「さて。お互い人外だと認識したところで一つ確認を」


雪村千鶴とはどういう関係だ。
斬魄刀を解放しながらそう言おうとして、どちらもやめた。


「名前!!」


恐らく銃声が聞こえて駆けつけたのだろう。これで言い訳をする手間は省けたが肝心な部分が聞けなかった。霊圧を収めて、声の方を見ると、よっぽど焦ったのか左之助さんが息を切らして立っていた。


「あん?原田じゃねぇか」

「お前は、不知火匡!」


なんだ、知り合いか。思わず拍子抜けしてしまった。一度合間見えているのか。だが左之助さんの雰囲気からとても同士とは言い難い仲なようで。槍を構えて迷わず飛び込んで来た。その瞬間に散る三人。軽く屋根に飛び乗る様子は人間ではない。彼には悪いがとても敵うような相手ではないと思う。それでも迷いのない剣先に感心はするが賢明とは言えない行動だ。早死にしたいのか。


「逃げるのか!?」

「何言ってんだ。手引いてやんだよ、コッチが」

「何だと!?」


実力差が分かっていないはずはないのに何故こんなにも強気に出る。しかも私を庇うかの様に私の前に陣取って。正直、邪魔だ。もし万一不知火の言葉が覆ったら彼を押しのけるという余分な動作が入る。面倒だ。そんなことを考えて若干眉が寄ると、偉そうな男がオイ女と身も蓋もない呼びかけをして来た。


「何か」

「俺は風間千景だ」

「……四楓院名前」


そうかと言って何とも言えない笑みを浮かべる風間に不気味だと思っていると、視線を左之助さんに戻してそれからと言う。


「足手纏いは貴様だ」


その意味を理解出来ない程彼も馬鹿ではない。目を見開いて何かを言おうと口を開いたが、その時には既に三人の姿はなかった。



























どうしてくれんだ、この空気。

(沖田早く来い)

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