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あー。やっちゃったよ。

目の前の理解し難い状況に咄嗟に思った言葉はそれだった。
取り敢えず、事の発端は小一時間前を遡る。三月ももう終わろうかと言う頃。明日には真選組で花見でも行くかぁ、などと局長が呟いた翌日のことである。


『……副長』

『なんだ』

『目の前の利益より努力して手にいれた利益の方が良いです』

『残念だったな。俺らは目先の利益を追う組織なんだよ。てかんなくだらないこと言ってねェでさっさと片付けるぞ』

『はーい…』


花見用の弁当も拵えて貰い、クジでハズレを引いた可哀想な御留守番組の八番隊に手を振り屯所を出ようとした正にその時、監察の退から電話が掛かって来た。どうやら前々から様子を見ていたある過激派の浪士一派に動きがあるということだったのだが、ターミナルを狙った爆破テロと言うこともあっては無視をするわけにもいかず、泣く泣く茣蓙と酒を玄関に放り投げ、急遽現場に向かったっ言うわけだ。


『で?どうするんですかィ、土方さん?奴ら爆破スイッチ持ってやる気満々で面倒なんですが』


副長と意味のない会話をターミナルを見上げながらしていたら不意に割り込んで来た総悟の声。それに私と副長は揃って嫌な顔をした。


『え、なに?やる気なのか?あいつら』

『あれはどうにも止められない感じでさァ。まるで土方のマヨのように』

『あぁ、それは重症やな。警察でこと足りるんか?』

『だからここで同族の土方さんが役に立つんでさァ』

『あぁ、成る程』

『成る程じゃねぇよ。てめぇらいい加減にしろよ?俺此処にいるからな?全部聞こえてたからな?』


確かこの時に浪士の代表的な人が何か言ってたような気がしてたんだけど、うちら三人は漫才に夢中で何も聞いてなかった。そして、そのことを私は後で死ぬほど後悔することになる。


『 ちょっとォォオ!!あんたら何やってんのォオ!?』

『何って見て分かるでしょ』

『土方弄りでさァ』

『違うから!俺が言いたいのそれじゃなくって!』


今仕事中だからね!?
目の前の殺気立った浪士達を更に煽るような行動をとっている私達に流石にまずいと思ったのだろう。盛大なツッコミと共に、物凄い正論を言ってくれたのは爆破テロの危険性をこちらに連絡した退だ。私達は警察だ。警察だから市民の安全を守るのは当然だし、こういうテロの阻止をするのは当然の行いである。それは重々承知だ。なのに、何故かこのとき花見の直前に電話を寄越しやがっ…して下さった退に殺意を覚えたのは、未だに謎だ。永遠に。いや、本当に。


『…さて。おふざけはここまでにして、副長』

『ああ。取り敢えず一番隊を、』

『私が様子を見て来ます』


そう言って刀の柄に手を掛ければ、人の話を遮るなと言わんばかりの目で私を見た副長。だが彼だって分かっていた筈だ。既にターミナル内を占拠され、爆破スイッチを今にも押さんとしている気違いが犯行グループである限り、より素早い対処が必要だと言うことを。そしてその素早さは"人間以上"のスピードを要されると言うことも。


『…夜桜は綺麗だろうな』


数秒間私の顔を見て、恐らく今のようなことを考えてたであろう副長の口から出たのはそんな一言。
特に私の身を案じる訳でもなく、私を止める訳でもなく。ただ世間話でもするような口調に見えていたのは"信頼"の一言に尽きる。そしてそれに私が返すべき言葉は決まっている。


『翌日のお仕事に響きますよ。特に貴方は』

『んな弱くねぇよ』

『はいはい。では、その酔いが醒めるぐらいの睡眠時間が取れるようにしましょうかね』

『だから、』


俺は弱くねぇ。そういう副長に笑みを浮かべると、腰に差さっている二本の斬魄刀のうち鞘が真っ白な方を彼に渡した。


『…何のフラグだ』

『失礼な。死にませんよ』


手渡された斬魄刀を手に持ち、副長は胡散臭そうな目を向けた。隣にいる総悟も同じような目でやっちゃったなと言っている。彼らには私が死神だとカミングアウトして暫く経ってから氷雨のことを話しているので、この斬魄刀がどれ程大切な物なのかを知っている。だから、帰って来るから預かっててねなんてセリフがぴったりのことをしてしまうと、そう取られる。だが、違う。


『預かっといて下さい。刑ぐ…じゃなかった、隠密行動は軽装が基本なんで』


本当のことだ。いつもなら二本ぶら下げたって、大して困らないが、今回はあの大量の浪士の中を周り全員を白打でのして来なければならない。刀一本あるだけで総重量は大分変わるし、速さにも支障が出る。虚化を抑える為に持っているが、まぁ数分なら構わないだろう。実際、二ヶ月ぐらいならなくたって大丈夫という調査結果は出ている。私の呆れ顔でどうやらフラグではないことを分かってくれたらしい。早くしろよと刀を預かってくれた。


『死ぬなよ』

『え、そこで貴方が立てちゃうの』

『絶対生きて、帰って来い』

『おいコラ。殺すな、私を』


そう言って笑いながらその場から消え、先程からターミナルの入り口を封鎖するように立って声高々に倒幕だなんだと演説を抜かしている恐らく組のリーダー的な奴の背後に一秒とかからず周り、首に刀を突き付けた。ちなみに自分がいた場所からは約三十メートルぐらいだ。


『…い、何時の間に…』

『それが知りたいなら後でうんざりする程説明してやる。取り敢えずその物騒なスイッチを渡して…』

『…なんて、言うと思ったか』

『?なにを、』


言ってるんだ?
その言葉が私の口から出るより先にそいつは逆に銃口をこちらに向けて来た。それに私は鼻で笑った。普通の人間なら良くて相討ち、最悪自分だけ死ぬだろうが生憎私は瞬歩が使える死神だ。そんなことは絶対にない。寧ろ首を掻っ切ってから髪を結ぶ余裕すらある。そんな余裕さに気付いたのかそいつは少し驚いたような声を上げた。但し、その驚きは別の方に向いていたが。


『…上司が銃口向けられてるってのに、お仲間は随分落ち着いてるんだな』

『私が撃たれる分けない、と分かってるからだよ。それに私は上司でも何でもない、ただの護衛兼補佐だ』

『…成る程。噂通り、と言う訳か』


その噂というのが若干気になったが、兎に角今はこいつを止めて花見に行くのが先決。何を訳の分からないことを、と言うだけに留めて副長の方にチラリと目を向けた。案の定その目は早く片付けろと仰っている。


『お前、俺らの話は聞いていたか?』


と、副長の目の催促に頷こうと思っていたそんな時。唐突に聞こえたのはそんな言葉だった。俺の話とは恐らく先程までやっていた演説ことだろう。だが生憎、私は総悟と副長弄りに徹していたので全くと言って良い程聞いていなかった。


『その様子だと聞いてなかったな?』

『幕府の城に乗り込まず、ターミナルを封鎖しただけで倒幕だと満足している口だけの奴らの話など、聞く価値もないからな』

『…言ってくれるなァ…』

『本当のことだろ』


だがそれは話を聞いてなかったことへの言い訳に過ぎないな。そう紡がれた言葉の意味が今一理解出来ずに眉を潜めていると、彼は再び言葉を繋いだ。


『俺は今回打倒幕府を望むためにジャックした訳ではない』

『じゃあ一体なんの為に…』

『決まっている。お前を、』


始末するためだ。
その言葉が聞こえた直後、私の視界を途轍もない光が覆い尽くした。咄嗟のことに目を覆いながらもなんとか副長の方へ目を走らせると、こちらに駆け寄る副長の姿が見えた。


『名前!!』

『と、十四ろ…っ、【縛道の八十一 断空】!!』


差し出された手に無意識に手を伸ばす。が、それも一瞬で。本来護るべき人物に縋りつくとは何事か、と自分を叱責しつつ副長へ被害が及ばぬようにと縛道を彼の方へ座軸転移させた。


『お、オイ!!名前、…』

『…氷雨の斬魄刀、頼みます』

『?!おま、何言って…名前!!』


目を見開き必死の形相で叫びながら此方へと手を伸ばす副長。だがその手も断空に拒まれる。そのもどかしさに舌打ちをした副長。そんな彼にすいませんと微笑んだのを最後に、私の視界は暗転した。


























取り敢えず、恨むぞ退。

(結局、フラグだった)

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