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平行世界って知ってますか。




中庭に着いた途端目に入ったのは、ミディアムショートぐらいの長さの茶色い髪の人物が副長に斬りかかろうとしている光景だった。それに迷わず斬魄刀へ手を伸ばして地面を蹴ると、二人がぶつかるより先に間へと入り込み、正面は右手の刀で茶髪のお兄さんを、背後は左手の鞘で副長の刀を後ろ手に受け止めた。ちなみに銀時は着ていた羽織りと共にその場に放った。痛いだ酷いだ言われたような気がしたが、無視だ無視。茶髪は一瞬副長の刀とぶつかった音だと思ったらしく、突然現れしかも間に入っていた私を見て落ちるんじゃないかという程目を見開いる。そんな彼ににっこりと笑いかけてやると、はっとしたように顔を引き締めた。と同時に後ろから副長の声がした。


「四楓院、か」

「流石です」

「そりゃあ、こんだけ長けりゃな。私服だって後ろ姿でも分かる」

「ご冗談を。私が間に入るのを分かって手を緩めたでしょう」

「……なんだ今週は褒めるキャラでいくのか」

「で、実践練習かなにかですか?」

「んなわけあるか」

「なら刀をお牽き下さい。こんな敵対心剥き出しの刀に片腕じゃ辛いかな」


私女子なんで。
そう言えば、馬鹿言うなと言いながらも刀を収めた副長。すると何故か正面の男はまるで信じられないとでも言いたげに再び目を見開いた。そして私も改めて男の顔を見てちょっと驚いた。


「うわ…イケメン、…」

「オイオイ、俺はこいつよりブサイクってことか」


副長の問い掛けを聞かなかったことにして、鞘から左手を離すと刀の柄に添え直し、力を込めて一気に茶髪の刀を薙払う。その拍子に両腕が上に上がり、ガラ空きになったお兄さんの腹へ迷わず蹴りを入れた。


「そ、総司!!」


あ、総司って言うんだ。
後ろの壁まで吹き飛んだ茶髪に駆け寄った黒髪ポニーテールのお兄さんが焦ったように呼びかけていた。隣にいる女の子も心配そうな顔をして大丈夫ですかと聞いている。そこで漸く他の侵入者の顔を確認出来た。茶髪を含め全部で九人。一人は槍だが後の八人は全員刀。小柄な女の子もいるが霊圧が妙に高くて不気味だ。あの脇差がギンの神槍に見えてくるのは私だけか?……私だけか。


「ていうか多串さん、あれ浪士ですか?」

「じゃなきゃ多串君に斬りかかってこないでしょ」

「だよねぇ…」

「にしても女子供含めた九人で討ち入りなんて随分腕っぷしに自信あんだな」

「まぁ殺気丸出しの多串さんに斬りかかったぐらいだから自信はあるんでしょ」

「そろそろいい加減にしろよテメェら。ていうかなんでテメェがいんだ万事屋」

「名前ちゃんとデートしてたからですぅー」

「見え透いた嘘吐くんじゃねェ。誰がテメェみてェな天パとデートなんていくか」

「だから名前だってば」

「オイ、四楓院。お前、浦原と団子屋に行ったんじゃなかったのか」

「はい、行きましたよ。ちゃんとお土産も買ってきましたからドSバカとゴリラも呼んで食べましょう」

「ああ、サンキュ」

「アレ?なんで銀さん無視されてんの?なにこの疎外感。泣いていい?」


なんて感じでいつも通りの緊張感のないコントを繰り広げていると、不意に殺気を感じた。


「…っと、何やねん。ホンマに」

「お前こそ何者だ。総司は、組内でも一二を争う剣の使い手だ。それを片手で止めただけでなく、一振りで弾き飛ばし、今も俺の剣を簪一本で止める程の力を持つなど…到底女とは思えん」

「うわ、失礼やなアンタ。お聞きになりましたか多串さん。貴方より失礼な人がここにいましたよ」

「本当のことじゃねぇか」

「マヨネーズ、煙草…明日から気ィ付けやァ」

「ごめんなさい」


今急に斬りかかってきた人は黒髪ポニーテールのお兄さん。別に斬魄刀で受け止めても良かったのだが、あの女の子の霊圧が気になって【風車】に調べて貰ってる最中だから簪にした。危ないって副長には怒られたが一応霊圧で強化したから全然大丈夫。

ていうかそろそろ気になる。コイツら誰だよ、って。

恐らくこの九人の纏め役或いは司令塔は黒髪ポニーテールで間違いない。総司って人が斬りかかってきた時にチラっとその他八人の集団を見ていたが、なにやら黒髪ポニーテールは集団より一歩前に出ていた。動くなという指示を後ろに出しながら。しかも、なんか雰囲気が副長に似てる。つまりこの人に聞くのが一番いいと思ったワケで。だが、刀まで抜いてきたなら戦闘になるのは必至。それでは話どころではなくなってしまうので、意表を突くことをして動きを止めさせたという話。現に止まってくれたし、後ろの集団も刀に手をかけちゃいるが斬りかかってくる様子はない。
聞くなら今がベストだ。
そう思っていると、後ろの副長は私の意図を分かってくれたらしく、黒髪ポニーテールに向かってオイと呼びかけていた。


「…なんだ」

「テメェは何モンだ?」


その瞬間、黒髪お兄さんの力がふっと緩まった。どうやら驚いているらしい。なんとなく後ろの集団もざわめき立っている。嘘だろ、とか冗談だろ、とか聞こえた。なんだかこいつら驚いてばかりだな。それにしてもどういう意味だ。銀時もそう思ったらしく、私が放り投げた紺色の羽織りを頭に被ったまま首を捻っているのが目の端に映った。

だが。

直後にお兄さんの口から出た言葉に私達三人はあちらさん以上に驚くこととなる。


「俺は、真選組副長土方歳三だ」




「「「…………………ハィ?」」」







この時、何故か喜助の声が頭をよぎった。


















―平行世界って知ってますか?―




(もしもの世界…)
(彼らはきっと“あの夜”がない世界を考える)
(私は、どんな世界を考えるのだろう)

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