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監察。


歳三さん達新選組が羅刹という人体実験の失敗例を抱え込んでいようがいまいが、別にどうでも良かった。ただ、何故そこまで隠す必要があったのかという理由を知りたかっただけで。だが、それも特にこちらの損害になるようなことはなく、羅刹との関係を知られると元の世界へ帰ることが難しくなるやも知れないという単純極まりないものだった。
だから、羅刹が新選組の人体実験故のモノだと言うことは特に真選組側に伝えることもせず、今は彼らが元の世界へ戻る方法の模索に明け暮れる日々である。歳三さんの記憶もあの時飛ばしたままだ。


「と、いうコトなのだよ退くん」

「どういうコトかな。君の回想シーンだけじゃ何も伝わって来ないんだけど」

「まぁ二人を忘れてたというコトではないのだよ退くん」

「…どういうコトかな」


副長に一週間の外出禁止令を出されて三日目。珍しく守っていた私の元へ少し長めの任務に出ていた退が帰ってきた。隊服を着ることも禁止されていたので着物で迎えたことに驚いていたが、すぐに納得したような表情をしていた。で、布団へ押し戻された。


「そんな退達に練り切りのプレゼントがあるんだけどな」

「はいはい。取ってくるから、出ないの。どこ?」

「机の上」


わ、中村屋じゃん。と喜ぶ退に笑って、部屋の入り口で完全に気配を消して正座をしている丞くんに目を向けた。その視線の先を探せば案外私で、君にもあるよと言えば、発言許可を求められた。


「どうぞ」

「退くん…山崎監察官から伺っていたのですが、貴女は戦闘に非常に長けている。対人間においては負けることはない、と」

「否定はしないね」

「ですが、床に伏しておられる。…'何'と刃を交えられたのですか」


文明は遥かに劣るとは言えども組織の監察官。観察眼と洞察力はそれなりということだ。しかも退が与えた情報も事細かに記憶している。その頭の回転の速さに感心して笑みが溢れるも、反対にそれを見つめる退の表情は変わらない。丞くんの能力は把握した上で一緒にここへ連れて来たのだろう。私は二人で来いとは言わなかったが、二人で来るなとも言わなかった。


「何だったんだろうね」

「…人間でないことはお認めになる、と」

「ええ。だけど、断定し難いね」

「天人の類ではないのですか」

「丞くん順応早いねぇ。仰る通り、天人でもないと私は思ってるよ」

「……何処で相見えたのですか」

「ここよ」

「貴女お一人で?」

「最後には助けられた。総悟と十四郎さんと、一さんに」


それを聞いた丞くんの顔が少し驚いたようになった。
歳三さん達を隊長補佐役として入隊させた朝、山崎丞は真選組隊士に紹介しなかった。当然、理由はある。新選組が使えると判断し、更に退が丞の力量を一定以上だと見なした際、完全に副長の密偵になってもらう為だ。真選組内の、である。新入隊士の中には攘夷浪士側のスパイがいる時がよくある。私は桂小太郎という知り合いがいるので大抵は書類審査で落とせるのだが、偶にそこを掻い潜って入ってくる強者もいて。最終的には処分しているのだが、そこに至るまでの過程で隊士が何人か持ってかれてしまうので問題はある。だが顔が知れている監察に探らせるのは難しく、私も役職上、一人で動くのには限界がある。
そこで白羽の矢が立ったのがこの山崎丞だ。
顔も知られておらず、監察の仕事が出来る。正に内部調査にはうってつけの人物であろう。そしてそもそも、何故今こんな話をし始めたのかと言えば、現在この真選組の一つ屋根の下に攘夷浪士との内通者がいるからなのである。
私と喜助は新選組も風間達も屯所に現れたのはこのスパイが屯所に'印'を付けたからだろうと予想していて、更に羅刹もそれだろうと確信に近い予測を立てている。副長にも話してあるし、納得もして貰っている。
そんな面倒なことを任されそうになっているとは露知らず、驚いた顔のまま丞くんは口を開く。


「…斎藤さんが?」

「私の方を手伝ってくれたのは彼だけど、歳三さん達もいたよ」


彼は賢い子だ。恐らく私が接触した相手が予測出来たのだろう。
屯所への侵入者。
天人ではなく、人間でもないモノ。
私と五分の実力。
新選組が進んで関わるモノ。
そんなの一つしかない。


「風間千景…」

「ご名答ですよ、山崎監察官」

「アレと渡り合っ、」

「そう。ご名答だ。だからお伺いしたい」


何故、羅刹なんてモノを造り上げた。
瞬間、殺気混じりの目で私を見る彼の手が動いたが、途中で止まった。


「懸命な判断だよ。丞くんじゃ私には勝てない。それに退もいるしね。まず生きてはこの部屋から出られない」

「…っ、…どなたからそれを伺ったのですか」

「冗談は止めようか。歳三さんの様な人が簡単に教えてくれるとでも」

「…特別監察組」

「君は本当に順応が早いねぇ。助かるよ」


丞くんの手が動き始めた時点で退は私の側に音もなく移動していた。退とて一応熟練の監察官。前線で戦うことはなくとも、敵地に潜り込み生還してくるだけの力量はある。それにここは室内。ある意味彼の得意分野でもある。
にこりと笑って最初の質問を促すと、観念したように丞くんは話し始めた。


新選組の歪み始めた道の始まりを。








































「つまり、だ。イケメントッシー達は否応なしにやらされた、と」

「そういうこと」


ある意味脅迫して丞くんから聞き出した日の夜。銀時さんがお話したいことがあるそうです、と喜助が銀時を連れてきた。幸いにも今夜副長は総悟と夜間見廻りの為に自室にはいない。アホみたいな子供の様な小競り合いを見なくて済む。偶々縁側へ出て夜桜を眺めていたので、そのままそこで話した。
銀時の目から、事の次第全てを聞いたのは明らかだった。そしてそのことを'話しに来たのではない'ことも分かっていた。
だから、彼が何か言う前に今日の昼間仕入れた情報を伝えれば、何となく納得したような顔をしてそう言った。


「で、今丞くんはどーしてんの?」

「その話した記憶だけ置換して、歳三さん達の所へ返した」

「お前最近記憶消し過ぎじゃねぇ?」

「まだ二人だよ」

「あれ?そんなもんだっけ」


そう言って、当然のように元々私が呑むために出していた徳利を傾けて煽る銀時。その頭を叩くと彼は呻いた。


「今回の一件。きっちり片付けるよ」

「…黒幕分かってんのか」

「目星はね。後は丞くんの監察次第」

「その印付けてる奴は単独じゃねぇだろ」

「銀時。私前に言ったよね」

「確信持った疑問は答え合わせにしかならない」

「なんかちょっと違う」


それに反論するように向けられた不満げな銀時の顔を見て内心安堵した自分に、罪悪感がじわじわと滲むのが分かった。別に私が悪い訳ではない。大元の原因は現幕府の非倫理的思考によるものだし、今回の一件に巻き込んだのは喜助だ。だが、私は結局銀時をどこかで頼りにしてしまっている。どこかで必ず自分の味方になってくれると信じてしまっている。そんな無条件降伏みたいな感情をぶつけられれば銀時は素直に喜ぶしかない。しかも私らは銀時が大好きだし、絶対彼に有利になるように事態をコントロールするだろうし、彼がよっぽどの無茶をしない限り死ぬこともない。つまり、銀時には逆に逃げ道がない。貴方を護ってあげるよと言いながらうちらの都合の良い方向に振り回している状態だ。いつも。そしてとっくに彼はそれに気付いているだろう。
だけど、銀時は私達に反旗を翻したことはない。いつも全部に付き合ってくれる。そして、今回も。


「…なんて顔してんだよ」

「死神は楽しいときこんな表情するんだよ、勉強になったね」

「そんなこと覚えるんならお前の笑顔を覚えた方がマシだ」


笑えよ。そう言って両頬を抓られて、自然と浮かんだ涙の原因は分からない。































―監察―

(苺大福食べる?中村屋の)

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