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よしだ。


それは今から数十年前の話。
攘夷戦争前期から中期にかけての頃。生身の人間が天人達に敵わないと現実を突きつけられた幕府はあることを思い付いた。
そうだ。人間を強くすれば良いのだ、と。
侍は強いなど百も承知。鎖国中にも独自の文化の中で更なる飛躍を見せていた武道は世界からも恐れられる戦闘技術とされていた。だがそれも対人間に限ってのこと。未知なる生物には殆ど効かず、そいつらの驚異的な回復力や体力に苦しめられた。故に、の発想だったらしい。
戦争も中期となれば各星々の情報は大まかに集められる。その中で恐らく狙いを定めたのであろうが、幕府の手元には何処かの星の血液があり、その星の一族は驚異的回復力と身体能力を有するという正に今回の幕府のご希望に沿ったもので。国中から研究者が集められ、日々研究と実験の繰り返しが続けられた。正に人体実験である。しかし研究者も段々と戦争へ借り出され、数は減り、終いには知識があり頭が回ればと研究等とは無縁の寺子屋等の先生達にも招集がかかった。
それは勿論、吉田松陽にも。
当然松陽は断った。そんな人体実験も甚だしいことに手を貸せなどと言われ頷く人などいるものか。他をあたれ。それに彼は塾生を山程抱えていた。たとえ人体実験でなくとも子供達を置いて離れるなどしなかっただろう。
だが、何度も言うが人体実験である。一応は国の機密情報として扱われているもので、それに携わらない人が知ってていい筈はない。松陽はしつこく誘われた。その度に断った。最終的に力付くで連れて行かれそうになったが、彼に敵う訳もなく、それ以降は二度と来なかった。最後に覚えておけよ、と言葉を残して。
良くある捨て台詞だ。はいはいとにこやかに手を振って返答したらしいが、後に標的となった。あまりにも下らない理由で。あまりにもこじつけな理由で。そして、その教え子達は終盤となった攘夷戦争へとその身を投じることとなる。



吉田松陽について本腰を調べたら骨は折れたが粗方分かった。別に僕自身が興味があって自らそうした訳ではない。名前さんに頼まれたからだ。氷雨の子孫ってどういう人生送ったか知りたい、と。ちょうど氷雨さんの斬魄刀、雪月の卍解の修業中で少し手詰まりになっていたので、糸口を変えることにしたらしい。普通は斬魄刀のことを知るのが一番なのだが、雪月は名前さんに甘い。彼女が聞けば何でも答えるし、それに嘘偽りはない。心も十分通っているのにあと一歩が何故足りないのか。具象化した雪月と揃って首を捻っていたのは見てて思わず笑ってしまった。まぁ他人の霊圧に変換出来るというなんとも珍しい能力を持つ上に、その他人の斬魄刀を使いこなし、卍解まで手に付けようとしている正に異例中の異例だ。いくら信頼関係があろうとどこかで弊害は出るだろうと踏んでいたが、原因が分からないとは思っていなかった。そこで違う糸口を見つけようとする名前さんは僕らの教育が良かったんだろうと鼻が高いが、やや沈んでいる彼女の顔は見たくない。吉田松陽について僕ら総出で調べたのだが、出てきた副産物がデカすぎた。卍解も大事だが、彼女は真選組という警察に身を置いている。死神ではなく真選組の顔で険しい表情を浮かべていた。加えて、少し前から奇妙な連続殺人が起きていてそれにも頭を悩ませていたところでのコレ。更に異世界からの訪問者。一気に起きた三つの厄介ごとがよもや全て繋がるとは思うまい。その事実に気付いた時の衝撃は忘れられない。そして、哀しそうな顔をした名前さんの顔も。

『……銀時は、巻き込みたくない』
『気持ちは分かります。ですが、あまりにも中心に近過ぎる。それに彼には』
『…うん。分かってる…事実を知る、権利がある』

私だって知りたいもん。
何故あの場に虚が現れたのか。何故霊圧を消せたのか。何故吉田副隊長が気付かなかったのか。何故彼らが狙われたのか。
名前さんの誕生日でもあったあの日、吉田副隊長は亡くなった。未だにあの状況になった理由は分かっていない。ただ、孤軍奮闘している名前さんの元に本当にぎりぎりで駆けつけた夜一さんも、少し遅れて到着した僕らもその虚の大きさに愕然とした。あれはなんだ。どうして誰も気付かなかった。レーダーにも映っておらず、本当に突然現れた虚。後の僕の研究課題になったのは言うまでもない。
ああ、思い出させてしまったか、と名前さんの頭をぐしゃぐしゃとして取り敢えず歳三さんを問い詰めましょうかと話をした。
そして昨日見事に色々と情報を引き出した名前さんだったが、体調は最悪。十四郎さんにふざけんなと怒られてしまった。そんな十四郎さん監視の下、名前さんは医務室に軟禁されているらしく、今日こっそり会いに行ったら簡単に逃げ出せるのにねと苦笑いしていた。
話を戻しましょう。
僕が彼女に会いに行ったのは今回の事の顛末を銀時さんに話す、と言いに行くため。少し前に彼女の許可を取らず一部を話したらご存知の様に大喧嘩となった。でもあれは僕の心配も考えて欲しい。いつまでも子供扱いするなと言うが、ふとした瞬間の頼らない部分とタイミングが少しおかしいのでどうにも目が離せない。それに一生埋まる事のない年齢差。子供扱いしないなんて無理だ。第一、僕らは死際の吉田副隊長に頼まれている。

『…名前を……お願いします…』

可哀想に彼女が独り立ちする日は恐らく一生ない。
そんな可哀想な名前さんの渋々の許可を確認し、銀時さんを僕らの家に呼び出してから一時間。縁側に腰掛けて、取り敢えず呼び付けられたことにつらつらと文句を言うことから始めたその彼の口は今、堅く閉ざされている。鉄裁さんが冷めたお茶を入れ替えてくれたのにも気付いていないのだろう。庭に咲く曼珠沙華を一瞥してから目を伏せた。


「……それで。'羅刹'共はどうして歳三の世界にいるんだ」

「いえ。逆っス」

「…は?」

「元々歳三さん達の世界にいた羅刹は攘夷戦争中の混乱の最中、天人達の膨大なエネルギーを貯留している武器によって歪められた時空間を経てこちらの世界に来たんス。幕府はそれを天人と勘違いした」

「…ちょっと待て。それだと時間が経ちすぎてんだろ。十年ぐらいの誤差があるぞ」

「銀時サン。アタシは先程歪められた'時空間'と言いました」

「ああ…そうか。時間軸がズレたのか」

「御名答っス。入り口は開きましたが、世界の狭間で時間軸に歪みが生じた。結果、偶々やって来てしまった羅刹は人間の様相に近く、幕府は目を付けた」

「で、戦争も終わってそいつらが来るのはなくなったが、最近になって当時あったソレを馬鹿な浪士共がプラモ感覚で作ったから、再び来たってところか」

「そういうことっス」


なんて安易な考えだろう。なんて愚かな行動だろう。だが、いつの時代、どこの世界にも権力や勝敗にこだわり本来の'人'の倫理や道徳から外れたことをする輩はいる。そしてそれを追求は出来ても理解出来ることは恐らく一生、ない。


「……喜助」


この弱々しく僕の名前を呼ぶ人間はそれを受け止めるには魂が小さすぎる。今にも消えてしまいそうな壊れてしまいそうな彼を見ながら返事をしようと口を開けば、彼はこれまた今にも崩れてしまいそうな笑みを僕に向けて。思わず口を噤んでしまった。



「…ありがとな」






























―よしだ―

(悲運なのは血筋か)
(無理やりに見せる笑みが)
(あの頃の名前と重なって、)
(痛い)

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