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案の定。




私が屯所の上でやらかした喧嘩に副長が下した罰は何ら重くはなかった。ただ、その日一日は部屋から出るなと怒られた。多分、私の怪我の療養も兼ねての処分だと思う。大抵現世で人間から受けた怪我の類は私は一日もあれば完治する。それを考えての処断だろうが、今回ばかりは少し事情が違う。二人の夜一を相手に殺し合いをしたら恐らく完治に一週間はかかる。私の身体はそんな状態にあるのだ。信女はそれを私の僅かな動作で見抜いたが、副長に悟られたら最後、絶対に面倒臭い。無駄に一緒にいる時間が長かったせいか、いらない所で副長は私の異変に気付く。全く迷惑な事だ。


「…何か、言ったか?」

「いえ、何も」


だから、私は今、自室ではなく異世界組の仮住まいである離れにいる。この時点で既に命令違反なのだが、不用意に異世界組と接触という点でも命令違反で、この調子で行けば一年近い休暇が貰えそうだ。


「ところでお前は何で此処にいるんだ?」

「そりゃあ、洋服に苦戦している歳三さんを見に来る為ですよ」

「…テメェ…なめてんのか」


しかも、だ。
選りに選って私は歳三さんの部屋を選んだ。千鶴でも良かったのだが彼女は女中として屯所の調理場に行っていて、他のメンバーは各隊の隊長達と仕事に出ていたので、そうなった。だけど行ってみれば洋服と悪戦苦闘している歳三さんがいて。笑って眺めているのが現状だ。いや、案外面白い。澄まし顔で無かったかの様に済ませようとしている所が更にそれを助長する。


「あなた方が普段着られている着物よりは倍動き易いと思うのですがね」

「な、ちょっ…お前何して、」

「なにって、いい加減着て貰わないと本当に私がただの変態になってしまいますからね」


彼らにとってはシャツのボタンが一番に留めにくいらしい。小さいので分かる気もする。というか私が実際そうだった。尸魂界という洋服とは全くの無縁の世界から来たのだ。ボタンだのシャツだの未知のモノを扱う気持ちは良く分かる。栗子に良く手伝って貰ったのが懐かしい。
粗方留めて、残りの二つでこのボタンはこうすれば留め易くなると説明すれば彼は納得したように頷いた。


「後は…上着ですね、っ!…と、危な」

「オ、オイ!何してんだ!」


ベストはチャックなので、最初の合わせさえコツを掴めばどうにかなる。その後スカーフの付け方も教えて何回かやらせ、最後に上着だ、と床に置いてあるのを取り上げた瞬間、視界が揺らいだ。こんな軽い上下運動で立ちくらみが起きる程に悪いのかと、畳との接触に諦めたが案外それは途中で阻止された。


「さて、上着ですが」

「待て待て。なかったかのようにするんじゃねぇ」

「コレは嬉しいことにボタンを留めなくて良いんです」

「マジか、ってオイ。逸らすんじゃねぇよ」

「痛い」


歳三さんが途中で咄嗟に手を伸ばして捕まえてくれたらしく、畳との激突は避けられた。だがその体勢のまま説明を続けようとすると頭を殴られた。案外痛い。


「…一昨日のがまだ残ってんのか」

「心外ですね。人間に付けられた傷なら半日もあれば治りますよ」

「会話になってねぇ。お前の相手は鬼だったじゃねぇか」

「鬼とは何なのですか」

「知るか。俺らだって知りてぇよ。それよりお前、会話を…」

「知らないワケがない。あなた方の組織が企てる計画は人外のモノ…鬼の類似品を創り出そうとしていたのだから」


その瞬間、背中は畳と接触した。
元々畳との距離ギリギリで支えられていたので大した衝撃はなかったが同時に組み敷かれ、掴まれた両腕に小さい痛みが走った。


「図星ですか」

「…お前…何を知っている」

「貴方が知っていることは全て」

「…聞き方を間違えたな。何故、知っている」

「質問が漠然とし過ぎではないですか」

「……いや。お前にはこの言葉で充分だ」


やはりこの人は賢い。新選組の頭を担っているだけあって頭は良く回る。恐らく今この瞬間も膨大な思考の過程が彼の中で出来ているのだろう。だが、評価出来るのはその過程までだ。結論に関しては残念としか言いようがない。

彼は、やってはいけない決断を異世界で下した。

昨日、二時間に及ぶ夜一の説教の末に喜助と仲直りし、二人から教えられたのは銀時擬きについての全てだった。ちなみに喜助は夜一との組手が三時間プラスされた。ざまあみろ。そして私が予想した通り喜助は銀時擬きについて信女から聞いていて、その情報源は異三郎。何故異三郎が知っていたのかは今は置いておくとして、全てを知った今、どうせなら本人から直接聞いてやろうと思って此処に来た。勿論、他の隊士がいないことも分かった上であった。他の馬鹿に邪魔されることのない彼一人しかいない時を狙った。
人体実験を行うヤツがどんな心持ちなのかを聞いてやろうと。


「名前もきちんとあるんですよね。大層な」

「っ…テメェ…本当に、」

「確か、羅刹とか言いましたか。確かにあの死体を見る限りとても人間が成せる技でも行為でもありませんよね」

「………」

「あら、もう黙りですか。ダメですよ。私は、私らは知りたいんですから」


平気で人体実験をするあんたらの非情な精神を。
そう言った次の瞬間、歳三さんの手が動いた。


「どうなさるおつもりですか。このまま私の首を落としたって大量の血痕が残るだけですよ」

「俺がそんな愚かなことをする様に見えるか」

「いえ。…寧ろこのタイミングは最高ですね」


は?きっと歳三さんの口はそう動いていたと思う。だけど、その瞬間には彼の首に刀があってそれ以上は紡がれることはなかった。この刀の持ち主は、此処数年で本当に気配と霊圧の消し方が上手くなった。離れに入ったのも分からなかった。死神でもないと霊圧なんて消せないが、何としても消してやるから教えろと言われてから約五年。よくぞ此処まで辿り着いたと言うものだ。


「歳三、一応弁明は聞いてやる。こいつは人の気を逆撫でるのが病的に上手い」

「……十四郎…」

「だが。その刀を引き、そいつの上から退くのが条件だ」


そしてその頑張った刀の持ち主、我等が真選組副長様の口から出たのはそんなセリフだった。それにしても、なんかもうちょっといいのはなかったのだろうか。これでは全面的に私が悪い子だ。でもまぁ予想よりは早かったが、タイミング的にはバッチリだ。グッジョブ副長。
さぁ、どうする歳三さん。
真選組内で羅刹のことを知っているのは私だけだ。喜助から聞いた後、私はこのことを副長には話さなかった。別に信頼してないとかそういう訳ではない。出処が異三郎だと言うことと何故彼が知ってたのかが不明と言うことがネックで話兼ねていたのだ。それに事実ならばより確実にしてから伝えたかった。だから、今此処に来たのだが歳三さんの過剰反応で無理やり聞き出す手間が省けて少し余裕が出来たせいで、遊び過ぎた。押し倒される前に彼を止めることなんて造作もなかったのだが、どうしても聞きたくて状況に甘んじた。藍染の様に人体実験をする人の心持ちを聞きたくて。
話が逸れた。だけど歳三さんは副長が知っていると思っているのか中々上から退こうとしない。このまま本当に私を殺して話を有耶無耶にしようとしているのか。私が殺されれば副長は動揺し、多少の隙が出来て殺せると思っているのかもしれない。後は賊にでも入られたと言って知らぬ存ぜぬを決め込めば少しの間はバレないだろう。其の間に異世界組を連れて此処を出ればさらに事実は有耶無耶だ。だが、彼は気付くだろうか。喜助達がいる限りそれを実行するのは不可能だということに。


「歳三、退け」

「……それは、出来、」

「歳三さん。何か勘違いをなさっている様ならば申し上げておきますが、この体勢、いつでも逆に出来るんですよ」

「…何を…!まさか、お前…」

「ええ」


ワザと、ですよ。
その言葉が聞こえたかは分からない。目を見開いて刀を持つ手に力が篭ったのを見て、私は記換神機を爆発させて彼の記憶と意識を飛ばした。ぐらりと歳三さんの身体が傾いて横に倒れ、抑え付ける物がなくなったので起き上がると首を何か生暖かいものが伝った。


「…あ、切れた」


きっと彼が倒れる時に若干掠めたのだろうが、触れただけで斬れるとは余程斬れ味が良いのだろうなと感心していると、急に首を抑えていた右手を取られた。


「あ、切れた。じゃねぇよバカ野郎!一歩間違えればお前死んでたんだぞ!?」

「そうだねぇ、危なかった危なかった」

「ふざけるな。自分は不死身だとでも言いたいのか」

「それは違うよ、十四郎。死神も死ぬ。人間と同じくね」

「…だったら少しは考えろ。見てるコッチの心臓が保たねぇ」


未だに私の右手を掴んだままの十四郎の言葉に首を傾げた。


「あれ?いつからご覧に」

「『いえ、何も』」

「覗きか」

「なんでそうなる。大体お前が部屋を出たのが……?お前、気付いてなかったのか?」

「全く。だから、成長したなぁって」

「母ちゃんか」


呆れた様にそう言うと、私の右手から手を離し、歳三さんの刀を仕舞って彼の腰に差し直して、倒れた彼の頭の下に座布団を敷いて、あたかも昼寝だと言う様にカモフラージュを施した十四郎。それに上手いなと感心していると、再び私の右手を掴んで来た。


「何故話さなかった」


何を、なんて聞き返す程私はバカではない。最初から覗いていたのなら羅刹のことは確りと聞いていた筈だ。大半はその話題だったし、歳三さんの取り乱し方からも分かる様にそれは事実だと言うことが分かっただろう。私に疑問を投げた十四郎、副長は特段怒る事もなくただ、本当に聞きたいと言う様に私を見ている。ならば此方も感情的になる必要はないかとその目を真っ直ぐ見て答えた。


「かなりの私情を挟みましたので」

「……人体実験の下りか」

「流石。御名答です」

「…それで。何か分かったか」

「表情から察するに実験は歳三さんも不本意である、と言うことが」

「お上からの命に逆らえない」

「きっとそうでしょう。かなり挑発したのですが、終始悔しそうな顔をしてらしたので」


副長も恐らく歳三の声色と雰囲気で概ね分かっていたのだろう。成る程なと呟くと、少しは握っていた手を緩めた。


「この事はまだ黙っておけ」

「退にもですか」

「…いや、あいつには話せ。暫く偵察させる。こんだけコッチが手を焼いてると言ったんだ。きっとこいつらだけの時には話題に上がるだろう。それから、」

「総悟と涼、終にもですね」

「ああ」


承知致しました。
そう言って頭を下げて瞬歩をしようとしたのだが、何故か急に右手を掴む力が強まった。


「…副長、ご一緒に行かれるおつもりですか」

「いや、お前はまず行く所がある」


そう言って私の腕を思いっきり引いてひょいと自分の背中に乗せた十四郎に思わず目を瞬かせてしまった。


「医務室行くぞ」

「え、なんで」

「お前は風呂に入りに医務室行くか?」

「は?まさかそんなこと…」

「じゃあなんの為に行くかなんて明白だろ」


おんぶなんて一体何百年ぶりだ。一旦は無理矢理降りようとしたのだが、そうすると副長を蹴り飛ばす形になってしまうと諦めて渋々彼の背中に収まった。






ああ、やっぱりバレていたんだな、と思いながら。














ー案の定ー

(座ってるのもキツくて、こんなちっさな出血も止まらない程)
(霊圧が殆どないってことも)
(とっくに気付いてたんだろう)

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