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好きで、いるんだから。




『例えば、貴方が敵と戦っていたとしましょう』

『喜助兄ちゃんと?』

『…アレ?僕、今敵って言いましたよね?』

『うん』

『……ま、まぁ、貴方が僕と戦っていたとしましょうか』

『うん。あ、みかんとって』

『ハイハイ…で、二人の力は拮抗しているともしましょう。…想像出来ますか?』

『出来た』

『暫く、打ち合いが続いていた。…ですが、ある小さなことをきっかけに名前さんが縛道で僕の動きを封じることが出来た。

…すると、どちらが勝ったと思いますか?』

『私、でしょ?兄ちゃんはもう動けない』

『いいえ。勝ったのは僕です』

『…へ?なんで?』

『勝ったと油断して気の抜けた名前さんの後ろから、夜一さんが現れて貴方の首を獲ったからです』

『……ズルい。しかも、"僕"じゃなくて"僕ら"じゃん』

『でも僕は、最初から一人で戦ってるなんて言ってないっスよ?』

『……こじつけ』

『あはは。…でもね、これが我々の世界っスよ』

『我々…死神の、ってこと?』

『ハイ。我々死神が戦闘の中に身を置いた時に、常に考えていることっス。特に何年も生きている虚は直接戦うまで何の能力を持っているか、はっきりとは分かりませんからね』

『…定石は定石ではない』

『そういうことっス』


だから、何があっても常に最悪のパターンを思い描いてなきゃダメっスよ?

確か、百二十年前だったと思う。
四楓院家に引き取られて二十年が経ち、今より遥かに幼い容貌だった私が二番隊の第十席に就任する一日前のことだった。勿論、これを忘れたことはなかった。戦闘を教えてくれた喜助や夜一の教えは全て頭に叩き込んでいたからだ。特に、二番隊にいる時は喜助の直属の部下としてずっと後ろを着いて歩いていたから、上司の言葉を忘れるなど言語道断と夜一からキツく言われていた所為もあって、彼の言葉が一番記憶に多い。そう。忘れる筈もないのだ。

但し、死神としての戦いであるならば。

風間との打ち合いはほぼ互角。経験に勝る私の方が圧しているようにも思えたが、慣れていない小太刀と風間のやたらと強い力によって互角まで持ち込まれていた。そんな中、見付けた一つの隙。奴にとっては慣れない庭だった所為か、私が鍔迫り合いから一歩踏み込んで薙ぎ払ったのと同時に後ろへ飛んだ風間が着地の拍子に僅かによろめいた。そんな絶好の機会を逃す筈もなく、詠唱詠番破棄の六杖光牢で動きを止めた。あとニ歩前へ出て、白伏で意識を飛ばせば完了だ。そう思いながら私は風間に近付いた。彼の顔を見れば思い切り顰め面をしていて余程悔しいのだな、と内心ご愁傷様と笑っていた。そんな時。


『…天霧、不知火』


その顰め面から不意に声が絞り出された。その単語を聞く限り、どうやら人の名前らしい。恐らくは仲間の名前なのだろう、と大して気にも止めずに歩みを進めた、のだが。

一瞬、何が起きたか理解出来なかった。

風間の表情に勝手な解釈を付けながら一歩を踏み出した私の足は地面に届くことはなかった。風間の呟きの直後に現れた見知らぬ大男。そいつの登場に驚いたのも束の間、何の躊躇いもなく私は蹴り飛ばされたのだ。しかも、先程風間に斬られた所を。
激痛、なんてモンじゃない。
過去に経験したことのないような痛みが私を襲った。少なくともここ百五十年近くはなかった痛みだった。呼吸も上手くいかない。元々の傷が肺ギリギリだったのかもしれない。荒くなる息だけでもどうにか落ち着けようとしながら、目を無理矢理こじ開けて漸く自分の状態を確認出来た。先程いた場所からは10メートル以上飛ばされ、最初に千鶴が隠れていた部屋の中へ襖ごと吹き飛ばされていた。副長達からはかなり離れてしまった。それにしても、仲間がいたなんて予想外だ。

…『常に最悪のパターンを思い描いてなきゃダメっスよ?』

何時の間に来たのか。倒れ込んでいる私を見下ろすように赤毛の男が立っているのを、自分の迂闊さに唇を噛み締めながら見ていると頭をよぎったのが、冒頭の喜助との会話だ。


「今のを食らってもまだ意識がありますか」

「…っ、だれ…あん、た…」

「申し遅れました。私、天霧九寿と申す者です」


この天霧とか言う男の様子に、これはマズイなと内心毒を吐いた。私をこれだけ吹き飛ばすだけの力と立ち振る舞いを見れば分かる。剣よりも体術を好む夜一タイプだ。加えて、この落ち着き様。風間の様な短気は持ち合わせていないのは一目瞭然。それどころか敵でも味方でも常に相手の下手に出るような態度を崩さないのだろう。だってこの状況であんな丁寧な自己紹介があるか?


「…退け、天霧」


そんなことを思いながら、何とか動く首を動かし天霧を視界に捉えれば不意に増えたもう一つの顔。声を聞けば風間だと直ぐに分かったが、この状況下でそんなことが分かってもなんの役にも立たない。第一、起き上がることすら叶わないのだ。せめて斬魄刀でも手元にあったらどうにかなったのだろうが、生憎先程風間に飛ばされてしまった。ついさっき迄握っていた千鶴の小太刀も何処かへ飛ばされてしまった。
参ったな。
久々のピンチに残された方法は僅かに一つしかない。霊圧を全開にして離れた斬魄刀を卍解状態に持って行けばいいのだ。出来ないことはない。というか、過去にやったときは大成功だった。だがその霊圧に副長達人間が絶えられる筈がない。つまり、もう手立てはない。風間は恐らくこの数分間で私に相当な恨みが募った筈だ。特にあの六杖光牢の時には最高潮に達しただろう。この絶好な機会に殺さないワケがない。まぁ、ヤツに嬲る趣味がなかったらの話だが。


「…死ぬ覚悟は出来たか?」

「………」

「返事も出来ぬ、か。…が、醜く逃げることはしないようだ。…まぁ、潔良い奴は嫌いではない。せめて痛みもなく葬ってやろう」


その台詞の直後、刀が振り上げられたのを朦朧とする意識の中で何となく感じ取った。殺されるのは自分の驕りの所為。だから。風間に恨みとか感じなかった。ただ、副長を最後まで護り切れなかったことに物凄い後悔はしている。前にお望みとあらば地獄迄共に参りましょうと言ったことがあったのだが、覚えているだろうか。私的には結構本気だったのだけれど。
申し訳ありません、副長。
そう謝りながら、刀が体に突き刺さるのを待っていた。

が。


「…貴様…人間の分際で」


予想した時間に反応した五感は痛覚ではなく、辺り一帯に響き渡った鈍い音を拾った聴覚だった。しかも、誰かに抱き起こされる感覚もオマケ付きで。音から予想を立てる限り誰かが間に滑り込んで助けてくれたらしいが、状況的に最低三人は必要だ。一体誰が来たんだ、と閉じていた目をこじ開けて見れば見慣れた顔が視界に入った。


「名前!!」

「…と、うしろう…?」


大声で呼ばれたのでそう返事をすれば、やや安堵したような表情を浮かべたのは、先程私が謝った人だった。彼の両手は私を腕に抱え、私の頬を叩いているので塞がっている。では誰が風間の刀を?と思っていれば、答えるように総悟の声が聞こえた。


「その人間に邪魔された気分は如何なもんで?」


言葉だけを見れば最後にニヤリという効果音が付きそうだが、相手は夜兎に匹敵する力を持つ自称鬼。いくら総悟でもキツイのは明白だ。合わせている刀がギチギチと鳴っているのがそれを示している。


「どけ、人間」

「生憎とそんな名前で生きてきた記憶はないんで、ね!」


その言葉と同時に一気に刀を薙ぎ払った総悟。それと同時にひらりと後ろへ飛んだ風間の隣に天霧が立つ。そう言えばこの男は誰が牽制していたのがと思っていれば何時の間にか総悟の隣に一さんが立っていた。そうか。なんで私の言い付けに反してこっちに来たのか気になってはいたのだが、異世界組に千鶴を任せられたからか。


「…無様だな」

「なにを、」

「お前らではない。その女に言っている」


不意に風間が此方を見てそう呟いた。その目は蔑みの色を多いに含んでいる。そんな目を向けられる理由が全く以って分からない私は僅かに眉を潜めるだけ。


「…どういう意味だ」


そんな私の代わりに問うてくれたのは副長だ。


「成る程。口で伝えなくとも意志疎通を図れる程長いのか…」

「会話出来ねえのか、テメェは」

「その女、戦闘力は鬼に匹敵する。本来ならばそのような怪我を負う筈も無い。だが、今は地面に伏し、更には人間に庇われるという失態を晒して居る。

…何故だか分かるか、人間」

「だから、何が言いてェんだ!!」

「お前らが足で纏いになっている、と言っている」


この男は一体何を言おうとしているのか。言い方は悪いが、副長達が足で纏いというならそれは分かり切ったこと。今一掴めない私は更に眉を潜めたのだが、同時に私の肩を支える副長の右手に力が入ったのが分かった。総悟も僅かに肩をピクリと揺らした。


「なんだ。気付いていたのか。…というより分かっていながら今迄来た、と言った方が正しいか」


その僅かな反応をこの暗闇の中見逃さない彼は相当夜目が効くらしい。鼻で笑ってからそう言葉を続けた。


「我等鬼は人間何ぞよりも遥かに強く気高い。だが人間はそれを自己の欲望の為に使おうとし、己に従わぬと分かればそれを奪おうとする。まるで自分がこの世で一番偉いとでも言うように。脆弱な人間は強きモノを利用したがる。

…その女とてそうやってお前らの欲望の為に、」

「【白雷】」


分かった。あいつが何を言いたいか。私を利用してると言いたいのだ。だけど、それも含めそれは私が数年前にこの人達と散々話し合って解決したことだ。今更ほじくり返される筋合いも、意味もない。というよりやめて欲しい。こんなこと、会って一刻も経たないヤツに言われたくない。私と彼らで積み上げて来たモノを壊されたくない。だから、自分でも驚く程に素早く総悟の肩に縋りつくようにして立ち上がり鬼道で遮ったのだが、予想以上に体力を持って行かれたらしく、再び副長の腕の中へダイブしてしまった。


「馬鹿かお前は!!そんな状態で鬼道なんて…」

「…き、…で…」

「どうした!?」

「…きかない、で……聞いちゃ、ダメ…」


十四郎。
久しぶりに焦ったような顔をした副長の顔に手を伸ばし、その頬に右手を添えてそう呟いたのを最後に私の意識はぷっつりと途絶えた。



ああ、彼の右頬が赤くなってしまったなとぼんやりと思いながら。












ー好きで、いるんだから。ー

(そんな顔をさせるために私はいるんじゃない)

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