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僕はまだ戦えるんだ。




『私、怖くないわ。だって、今から名前ちゃんの育った所に行くんだもの』

『……何を言ってるんですか、ミツバさん。私は京の生まれで…』

『さん、だなんてよしてちょうだいな。それに敬語も。“前みたいに”呼び捨てでいいのよ』

『…………』

『あら。だんまりしてたってダメよ。もう全部知ってるんだから』

『…どうして分かった。私が“あの時”の死神だって』

『昨日ね、親切な方に会ったのよ。しがない駄菓子屋の御店主さんって人に』

『…喜助、か。…記憶戻すて、アホかあいつは…』

『うふふ……ねぇ、名前ちゃん…

……いえ、名前さん。そーちゃんと、十四郎さんを…真選組のみんなを…よろしくお願いしますね…』

『…それは死神としての私に頼んでるの?それとも副長…十四郎の護衛としての私に?』

『いいえ。私の友達としての貴女に、よ。“名前ちゃん”』

『死神と人間は相容れないと前に教えた筈だけど?』

『それは嘘とも教わったわ』

『………分かったよ、約束する』

『ありがとう、名前ちゃん』






正直、かなり驚いた。

人間の死をこれ程までに悼んだのは後先にもミツバぐらいだろうと、当時から思っていたが、まさか五年も経っているのに一つの鍵で鮮明に思い出せる自分に。そして、そのことにミツバを重ねて動揺している自分に。
だが、それも一瞬で。
総司さんに駆け寄る異世界組を見てはっと我に返ると、隣の副長の腕を強めに掴んだ。私より遙かに動揺していて、僅かに震えていた彼の左腕を。


「副長」

「………」

「副長。あそこで倒れている人間は沖田総司です」

「…あ…あぁ、…救急車、呼ばねェとな…」


そう言って何かを振り払うかのように首を振って頭をぐしゃっとする副長。自分では正気に戻したつもりかもしれないが、頭の中が混乱しているのは隠しきれていない。彼のそんな様子に仕方がないかと思い携帯を手に取りながら口を開く。


「副長。何を仰いますか。保険証も戸籍もない彼を病院に連れていくことは出来ません。取り敢えずうちの医療班を呼びましょう」

「ああ、そうだな…悪ィ」

「私は総司さんを診つつ、緒方先生を呼びます。医療班の方は副長、お願い出来ますか」

「…分かった」

「……副長。大丈夫ですか?」

「…何の話だ」

「いえ。何でもございません」


ただ副長の腕を掴んでいた訳じゃない。軽く催眠系の鬼道をかけて落ち着かせていたのだが効果はあったようだ。任せたと部屋を足早に出て行く副長の顔に先程の動揺はなくなっていた。


「沖田さん!」

「…っもう、だいじょうぶだよ…千鶴ちゃんも心配症だなぁ…」


見た限り、ミツバと魂魄は似ていないから彼女のように先天的に肺が弱いということではないようだ。だとすると、総司さんの症状は見事肺結核に合致する。最初に刀を合わせた時からどうも体温の高い人だなと思っていたが、どうやら結核に因るものだったようだ。吐血してそのまま意識混濁という最悪な展開は避けられたが、末期一歩手前という最悪な状況だ。そんなことを考えながら部屋の真ん中で辛うじて座っている総司さんの方へ行くと、彼の側にいる千鶴に少し脇によけて貰うように言って、目線を合わせるように彼の前に片膝を付いた。


「総司さん」

「ああ、名前ちゃん。畳汚しちゃってごめんね。どうしようか、コレ」

「いえ。それは構いませんよ。畳業者にやってもらいますから。それより総司さん。貴方は肺結核…労咳を患ってらっしゃいますね?しかも末期に限りなく近い」


刹那。
目にも止まらぬ速さで抜刀された総司さんの刀は、私の隣で正座をする千鶴の首筋へと迷うことなく向かった。理由を考えている暇などないので、千鶴の後ろに立っていた歳三さんと一さんが刀を抜くより速く私は斬魄刀を抜き、千鶴の首が落とされる前にそれを防いだ。


「…どうして?君、この子と二人で勝手場に行ったよね?その時に聞いたんじゃないの?」


そういうことか。一瞬何が起こったか理解出来ていない様子だった千鶴も、総司さんの怒りの矛先が自分だということに気付いたらしい。そして、その怒りの原因も。目をいっぱいに見開いて首をぶんぶん振りながら私は、と言いかけた千鶴に手を出して言葉を制すと、先に口を開いた。


「貴方がどんな約束を千鶴としたかは存じ上げませんが、彼女は関係ありません。貴方の症状は誰に聞くまでもなく、一目瞭然ですから」

「一目、瞭然…?」

「はい」


直後、射殺せるんじゃないかって程鋭く冷たかった総司さんの目が、何故かふっと緩まったのが分かった。彼の世界では肺結核がどういう病気に位置付けられているか分からないが、簡単には治らないと思われていることは確かだ。千鶴を脅してまで黙らせていたのだから。


「…ごめんね、千鶴ちゃん。僕の早とちりだったみたい」

「い、いえ!!誤解されるような行動をしていた私にも責任が…」


僕が悪いんだよ。
慌てふためく千鶴にそう言いながら総司さんが刀を下ろしたので、此方も刀を収める。


「千鶴」

「は、はい!」

「総司さんも口の中血だらけじゃ気持ち悪いだろうから勝手場に連れてってあげて。水道の使い方は教えたから分かるよね?」

「あ、はい!分かります!
さぁ、沖田さん行きましょう!」


此方の勝手場は凄いんですよ!背中をぐいぐい押す千鶴に困ったような顔をするも、先程剣先を向けた手前強気には出れないらしい。分かったよと言いながら大人しく千鶴に付いて部屋から出て行った。と、直後に私の首筋へと向けられる刀。千鶴と総司さんが立ったのと同時に私も腰を上げていたので、自然と歳三さんの前に立つような形になっていた。


「…どうかなさいましたか、土方さん」

「千鶴を庇ってくれたのには礼を言う。それに一目瞭然、と言われれば否定は出来ねぇ。…が、気になるのはお前の言葉だ」

「…と、言いますと?」

「労咳は死病だ。それを末期だなんだとはっきりと言い切りやがって…」


やはりそうか。この人達のいた世界は完全に天人が来る前の現世と同じなんだと改めて実感した。肺結核を死病と恐れ、小さな刀傷一つでも感染症にかかり死んでしまう。医療に非常に劣る時代。死神である私が唯一理解出来ない時代だ。鬼道や卯ノ花隊長の存在など、尸魂界の医療は常に最先端を行っていた。ミツバと同じように肺を患っている浮竹隊長が隊長業務に勤しむことが出来るのもそのお陰だ。この現世も天人の技術によって医療技術は格段に上がった。だが彼らはそれすらもない時代で戦闘を、命のやりとりをしている。私から見れば、自殺行為としか思えない。


「死病、ですか」

「そうだ。俺らの世界ではかかったら治らないものをそう呼んでいる。お前らの世界でも…」

「じゃあ違いますね」

「…は?」

「現世でも昔は難病と恐れられていましたが、持ち込まれた天人の医療技術によって労咳は、肺結核は、治る病となりました」


その瞬間、部屋にいる全員が息を飲んだのが分かった。歳三さんの刀も全く殺気がなくなっていて、素手でそれを押し戻しながら後ろを振り返ると、本当に全員が驚いている。平助なんか口も目も真ん丸に開いていて、新八さんは口をパクパクさせている。私達と対面してから恐らく一度も言葉を発していない烝も目を見開いて固まっていた。そんな彼らに信じられませんかと苦笑しながら尋ねた時だった。後ろの方の襖からガタンという音がしたかと思うと、次の瞬間には物凄い勢いで両肩を掴まれた。その突然すぎる衝撃に思わずバランスを崩し、尻餅を着いてしまったが、尚両肩の重みは外れることはない。目を何度か瞬かせて目の前に迫る顔を見ると、つい先程見た翡翠色の目が私の姿を必死に捉えていた。


「ほんとなの?今の話。コレは、労咳は…」

「本当です。労咳は治ります」


死病なんかではありませんよ。
総司さんの翡翠色の目を見て微笑みながらそう伝えると、彼は一瞬泣きそうな顔になってから私を思い切り抱き締めた。

小さく何かを呟きながら。





















―僕はまだ戦えるんだ―


(彼の喜びに素直に嬉しく思えない私は、)
(死神だからか。)
(人間に感化されつつあるからか。)

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