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今、いる世界。参





「ダメッ!もう落ちる!神楽ちゃん、助けに来といてなんだけど助けてェェェェエ!!」

「そりゃねーぜ、ぱっつぁん」

「のん気でいいな、てめーはよう!!」


昨夜の一件から一夜明けた今朝。名前が一晩かけた治療の甲斐あって、なんとか持ち直した銀時を姉に任せ新八は一人、神楽を探しに情報を集めつつ、最後はエリザベスの大きな協力あって鬼兵隊と見られる船に忍び込むことに成功した。その直後、不意に船体が傾き、離陸したのだと頭の何処かで納得しながらも神楽を探せば何やら甲板辺りが騒がしく。もしやと思って出て見れば、今や砲撃が当たらんとしている場面に遭遇。それを見た新八は珍しく半ば反射のように習慣化していたツッコミを放棄して見事、神楽を助け出した。しかし、その後も船体は離陸の為に上を向いたままで、突っ立っていると容赦無く船の外へ落とされる状態であり、新八は何故か丸太に磔にされている神楽を抱えたまま必死の形相で走り続けているのだ。でもまぁ、冗談を言う余裕がある辺り、流石とも言えるが。そんな新八をじっと見ていた神楽だったが、ふと寂しさが混じった声色で呟いた。


「新八。私、こんな所までヅラ捜しに来たけど見つからなかったネ。ヅラは…どうなったアルか?銀ちゃんは…なんで銀ちゃんいないの」

「………」

「…新八」


桂は見つからず、遺品の血痕を見る限り死んだ可能性が高い。そればかりか銀時は数時間前まで生死を彷徨っていた。そんなのを神楽に言える筈もなく、色んな感情を押し込んで口を噤んでいると、突如、砲撃が近くに落ちた。


「!か、神楽ちゃ……」


その衝撃で思わず神楽を離してしまった新八。しかも運の悪いことに煙幕の中、目を凝らすと神楽が船から放り出されていて。彼女の名前を最後まで叫ぶより先に飛びつく様に手を伸ばせば、何とか届いた。しかし、バランスの悪い船の上、ほぼ同じ体格であり体力もそこまである訳ではない新八の腕力では限界がある。


「うぎぎ…」

「新八…」


ズルズルと重力に従って下がっていく状況に本格的にマズイと新八の頭を過ったその時だった。


「え、…?…」


急に後ろ襟を掴まれ、グイッと後ろに引っ張られたのだ。驚いて後ろを向けばそこには、


「え、エリザベス!!こんな所まで来てくれたんだね!!」

[いろいろ用があってな]


エリザベスがいた。先程は自分を船に乗せてくれて、今度はギリギリの所を救出してくれて。エリザベス様々だと再会を喜んで新八が立ち上がたのだが、不意にエリザベスの後ろに何かが写った。


「「!?」」


しかし、その顔が高杉だと認識して子供二人が目を見開いた時にはもう遅く、バサリと言う音と共に、エリザベスの体は真っ二つになってしまい。新八の叫びも虚しく、高杉の冷たい声がその場に静かに響いた。


「オイオイ。いつの間に仮装パーティー会場になったんだ、ここは。がきが来て良い所じゃねーよ」


悪意の篭った笑みを浮かべる高杉。昔、銀時と桂と共に仲間として戦ったと聞いてはいるが、神楽すらも危うい奴と察して冷や汗が流れる相手に勝気でいける筈もなく。エリザベスがやられた今、次は自分達だと二人が息を飲んだその時だった。


「…ガキじゃない」

「!?…っ、…」


真っ二つになったエリザベス。しかしそこから出て来たのは、肉片でも血飛沫でもなく、


「…桂だ」


死んだかと思われていた桂だった。髪は失恋かと思われるぐらいに短くなっているが、その他は五体満足であるし、目立って怪我をしている訳でもなさそうである。だったらあの遺品についていた血痕は何だったのか、と思うが今の子供2人の頭にはそんな事はない。桂の姿にただ驚いている。


「…これは意外な人とお会いする。こんな所で死者と対面出来るとは…」

「この世に未練があったものでな、黄泉帰ってきたのさ。かつての仲間に斬られたとあっては死んでも死に切れぬと言うもの。
……なァ、高杉。お前もそうだろう」

「クク…仲間ねェ…まだそう思ってくれていたとはありがた迷惑な話だ」


そんな中、頭が斬られたと言う事で即座に駆けつけて来た幹部二人。その内の自称フェミニストの言葉に桂が返せば、また子に抱き起こされた高杉は懐から何やら本を取り出してそう答えた。だが、それは桂と高杉、恐らくは銀時との関係を示すものらしく。知った顔で桂も同じモノを懐から取り出していた。


「…で?わざわざ復讐に来たわけかィ?奴を、仁蔵を差し向けたのは俺だと?」

「アレが貴様の差し金だろうが奴の独断だろうが関係ない。だが、お前のやろうとしている事、黙って見過ごすワケにもいくまい」


お互いの思い出に触れたのはほんの少しの間。すぐに時を現在へと戻し、桂がそう言い切った瞬間、まるで図ったかのように船内の一部が爆発した。


「!?」

「貴様の野望、悪いが海に消えてもらおう」


船員が騒ぐのを聞く限りどうやら紅桜の工場が爆発したらしい。余程苦労した結果の産物だったのだろう。鬼平隊の輩は全員で怒号を桂に飛ばしている。
だが、そんな中。
一人眉根を寄せるだけに留めていた高杉が不意に口角を上げた。


「クク…桂よォ…お前、紅桜を消しに来ただけじゃァ、ねぇだろ」

「……その察しの良さ。何処か既視感を覚える」

「……浦原喜助、か」

「!な、何故分かって…」

「へェ…奴とは接触済み、か。ついでに聞くが、"他の逃亡者"とは会ったことあるのか?」


ただ察しが良いと言っただけの桂に対し、ピンポイントで名前を当てる高杉。確かにその察しの良さは直前のも含めると喜助に近い。そして、今まで黙って目を見開いていた神楽と新八が喜助の名に我に返り、漸くリアクションを現した。


「き、喜助さん!?」

「ヅラァ!どういうことネ!なんでお前喜助と知り合ってるネ!」


ちなみに神楽の身体は桂が手足の枷を斬った為、既に自由だ。図星を差されて大きく目を見開いている桂に二人は飛びつくように詰め寄った。


「俺が喜助殿と知り合ったのは偶然だ。しかし、今はそんなことを話している暇もない」

「?どういうことですか?」


少し興奮気味の二人の頭に宥めるように手をポンと置いた桂がそう言うと、再び高杉の方へ目線を戻して口を開いた。


「名前は何処にいる」


今までよりも明らかに強めの口調。加えて僅かに込められた感情に、その場の空気は一気に冷えた。子供二人は真子とリサが桂捜しを手伝ってくれた時点で名前が関わっているだろうと考えてはいたが、まさかあの彼女が囚われの身になっている事までは想像出来ている筈もなく、見開らかれた目はそのままに、今度は桂ではなく、目前の敵へと神楽は怒鳴り散らした。


「どういうことネ!!名前に何したアルか!!」

「ちょ、神楽ちゃん!落ち着いて!!」


流石というか、名前を捕らえることが出来る程の実力者がいるということに気付いたのだろう。新八はやや冷静に神楽を宥めている。そんな二人を見て高杉はニヤリと笑うと、口を開く。


「さァな。俺は知らねぇ」

「…何だと?此処まで来てしらばっくれるとは…」

「ヅラァ、人の話は最後まで聞け」

「どういうことだ」

「俺は、知らねぇ。が、ヤツと一緒にいることは確実だ」

「……ヤツ、だと?」

「ああ。四楓院名前と同じく、」


死神だ。

そう高杉が言った瞬間だった。



「【遊べ 風車】!!」



二回目の爆音と共に船内から何かが空へ飛び出し、その方向を三人が見上げると、黒い着物を纏った名前が声を張り上げていた。


「名前!!」

「名前さん!!」


そう、それは正に今話題に上がっていた名前と、



「【咲き誇れ 紅桜】!!」



「…アレが、喜助殿が言っていた死神…」


西園寺祥之助だった。

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