今、いる世界。壱





『…以上が僕が調べて来た今回の一件について分かったことっス』

『うん…ねぇ、喜助…』

『あ、ハイ。何か分からないこととかありました?』

『いや、ないんだけどね。その…』

『なら良かった。また何かありましたら随時無線で連絡を…』

『喜助』

『なんスか?』

『何で、そんなに一生懸命なの?』

『ヤダなぁ〜僕は常に一生懸命っスよォ』

『いや、今回異常だから。情報収集のスピードが。特に、刀の名前が分かった辺りから』

『…い、いやァ〜そんなことは…』

『まぁ、いいんだけどね。早いに越したことはないし。紅姫の機嫌も損ねないし』

『ハイ。……あ』

『あ、じゃない』

『ま、まぁ、しょうがないじゃないっスか…まさか名前が、』

『うん、そうね。まさかの一文字違いだからね』…



「…紅"桜"」


そりゃあ紅姫の機嫌も悪くなるわ。一昨日の喜助との会話を思い出しながらそう呟くと懐の懐中時計に手を伸ばした。時間は夜中の一時過ぎ。今迄の被害者の死亡推定時刻から約一時間前という時刻だ。


{名前か?}

《リサ?どうしたの?》

{万事屋連中が桂が死んだ言うて騒いどるで}

《…どういうこと?》


退と喜助と集めた情報の答え合わせをした翌日の昨日の午前中、神楽と一緒にいたリサからこんな電話を貰った。聞けば、その朝、エリザベスが大泣きをしながら桂の遺品を銀時除く万事屋に見せて訴えたらしい。ちなみに銀時は同時に来た電話の依頼の為にどっかへ行ったようで。家主を除いた子供達だけでは危なそうだと事情を聞いたリサと真子が判断して同行したらしい。しかし、桂が死んだのかも生きているのかも手掛かりが掴めず、霊圧を探ろうにも二人は桂に会ったことがなく不可能。そんな感じでどん詰まりになったリサが掛けて来たのだ。


{まぁアンタの都合と事情は分かっとる。やから今分かってることとウチと真子の推測を話すから、後は好きにしやぁ}

《うん》

{それと、分かってると思うけどウチら今夜は出られへんからな。……気ィ付けや}

《…うん。ありがと》


確かに私にも立場と言うモノがある。それを考慮してくれたリサにお礼を言うと、その夜、全ての業務が終わってから屯所を静かに出てかぶき町へと向かった。ちなみに服装はリサと同じタイプの裾の短い死覇装に膝丈フード付きの黒い羽織のようなモノを羽織っている。コレはいざと言う時フードを被れば霊圧を完全に遮断してくれる優れもので、勿論喜助の創作品だ。


「…さてと。神楽の方に行きましょうかね」


そんな感じで屯所を出てから数時間。虚退治と見回りをしながら二人の霊圧を探って大体の行動を測り、動こうとしたその時だった。


「…銀時?」


そもそも神楽の方へ行こうとしたのは、新八の近くに何故か銀時の霊圧もあったからそっちは大丈夫だろうという考えの下だった。だけど、その銀時の霊圧が急に乱れたのだ。命の危機に瀕しているワケではない。戦闘に入ったのだが、銀時の霊圧の上げ方が異常なのだ。相当、相手が強いと伺える。


「……いや。危ない、か…?」


これが死神だったら明確に分かっただろう。だけど、人間である銀時の霊圧はかなり弱い。読み取るにも立ち止まってかなり耳をすまさなければならない。本当は、かなりやばいのかもしれない。そうやって最悪な考えも頭に過ぎらせながら私は焦るように瞬歩でその場から消えた。




………そして。そこで最悪なモノを目にした。





「銀さァァァアアアん!!!!!」


新八は無事だった。当たり前だ。上の叫び声は彼のモノだ。橋の上で驚愕の表情を浮かべながらもエリザベスに後ろから止められている。だが、一段下がり川壁にいる銀時は相手の何か得体の知れない武器を左側腹部に刺され、微動だにしていなかった。

それを把握した瞬間から、身体が無意識に動いていた。


「【六杖光牢】」


エリザベスの制止を振り払って橋から飛び降りようとしていた新八を無意識にでも止めたのは褒めて欲しい。何か彼に呼ばれたような気がしたが、最早耳にも目にも入らない。自分の視界に入るは銀時の敵…岡田仁蔵のみ。新八の不自然な動きを察知したのか、私の匂いがしたのか、仁蔵がふと左の方を向いた。だが時もう既に遅し。


「【破道の三十三 蒼火墜】」

「!?」


瞬歩で歩み寄って仁蔵に片手を向けると迷いもなく撃った。普通の人間ならまずあり得ない攻撃に咄嗟に対処できるはずもなく、為すが侭に吹き飛ばされたのを見ると、更に追い討ちをかける為と斬魄刀を抜いた。


「【遊べ 風車】」


解放して薙刀となった風車を思い切り後ろに引いて力の限り仁蔵に振り下ろす。が、直後に響いた鈍い金属音でそれを止められたと分かり眉を潜めた。


「!?…何だ、それは…」


解放した斬魄刀での一振り。勿論殺すつもりで振ったし、人間に止められる筈もない。なのにそれを止められたことに疑問を覚えたが、収まり始めた水飛沫の中、見えた刀に思わず目を見開いてしまった。それは刀と呼んで良いのかも怪しい刀。柄がないどころか、刀と腕の境界線も分からない。更には刀から何やら色とりどりのコードのようなモノが出て、仁蔵の腕に食い込んでいる。…気味の悪い刀、紅姫が可哀想だ。


「久しぶりだねぇ、嬢ちゃん」

「…今迄の辻斬りは全てお前か」

「嬉しいねぇ、俺の霊圧とやらを覚えてくれていたのかい?」

「誰に教わったか知らないが、現場にワザと残るようにしていただろ」

「流石だ。やっぱり危険を犯しても連日で斬った甲斐があったってもんだ」


やっと、本気でヤりあえる。
そう仁蔵が呟いた瞬間、私でも恐ろしいと思えるぐらいの殺気が辺りを埋め、堪らず彼から距離をとって銀時の側まで下がった。


「名前さん!そいつの刀、変なコードみたいなモノも攻撃して来ます!!」

「りょーかい。結界は一応貼っとくから、銀時頼んだよ。…エリザベスもね」

「わ、分かりました!」

[りょーかい]


新八の縛道は斬魄刀解放した時に解いた。銀時の手当に行かせる為だ。混乱しながらも、必要な情報を簡潔に伝えてくれる冷静さは大したモノだ。後ろ手に少年の頭にぽんと手を乗せると、瞬歩で消えた。そして、仁蔵の前に現れると、不敵に笑う彼へと霊圧を上げたまま風車を一気に振り下ろした。



























……だけど、私は気付いていなかった。この一部始終を"副長に"見られていたことを。

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