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隠し子。





昼間出会った盲目の剣士が何故か気になっていた。居合の達人だからとか、人斬り仁蔵だからとかではない。何処か、覚えのある霊圧を纏っていたからだ。そして、その人斬りは今私の足元で座り込んで顔を顰めている。


「…アンタ。魂の色が見えるんだって?」

「おや、昼間の嬢ちゃんかぃ?悪いが今は相手してやれないんだけどねぇ」

「随分な余裕だな。今、斬られるとは更々思ってないようだが」

「だって本当のことだろう?お前さんには、俺を斬る気はない。…まぁ"今は"みたいだけどねぇ」


こいつ、本当に盲目か?
まるで自分の表情を読まれたかのような言葉に思わず顔を大きく歪めてしまった。
場所はとある路地裏。時刻は深夜零時を回った所。紆余曲折あったものの、橋田屋の主人と金時ー勘七郎の母は和解した。橋田屋賀兵衛は彼の亡き妻と交わした橋田屋を守るという約束に固執し過ぎ、病弱な息子亡き後跡取り探しに躍起になっていたらしい。最後迄粘っていたが、勘七郎の母の言葉に昔の自分の言葉を思い出し、泣き崩れた。と、いうところ迄は私も銀時の治療に当たりながら見ていた。だけど、彼の治療が終わった瞬間に私はその場から姿を消した。直前に私が瞬歩をすると分かったらしい銀時が何か叫んでいたが勿論無視した。


「あらら、図星のようで。いいのかィ?真選組なんだろ、アンタ」

「私がここにいるのは真選組、としてではないからね」

「俺の怪我でも治してくれんのかィ?」

「冗談。そんな自業自得の怪我に誰が同情するか」

「手厳しいねぇ」


そう言ってくつくつと笑うと仁蔵は刀を支えにゆっくりと立ち上がった。


「さてと。真選組の副長護衛殿…いや、"元死神"さん。"あの人"に貰ってた薬のお陰で傷も癒えて来たし俺はこれで失礼するよ」


…『…一番接触の可能性が高いのは人斬り仁蔵と呼ばれ、居合の腕は浪士共を震え上がらせる程の実力者。岡田仁蔵じゃ』

『へぇ…でもなんで?』

『あやつは真に仕える者が在りながら、自分の趣味の為に他の奴にも仕えることが出来るのじゃよ』

『趣味?』

『通り名通り、人斬りじゃ』

『…最悪だな』

『じゃが、問題はそこではない。恐らくヤツは信頼の置ける部下としてある程度の情報が与えられていると儂らは考えた』

『……どんな?』

『おぬしを死神だと認識し、"アイツ"が奴らのトップだという情報じゃ』

『…確率は』

『前者が六割四分、後者が八割七分』


仁蔵の台詞に夜一との会話がふと甦った。だがその会話の内容が今、訂正された。私を死神だと認識している確率が十割になった。そして、奴のセリフからアイツがトップだという可能性が高くなったが、更に確実なものとする為に確認しなければならない。


「……待て。一つ、質問に答えて行け」


やや霊圧を飛ばしながら聞けば、仁蔵の足がピタリと止まった。そしてそのまま振り返らずにいる彼に静かに問うた。


「…西園寺祥之助、という人物を知ってるか?」


夜一が風呂場に戯れに来てから一週間後の二日前。喜助に聞かれたことをそのまま仁蔵にぶつけた。彼の顔が見えないので正確には分からないが、人間、図星だとやや返答が遅れるもので、素直にその法則に則ってくれた仁蔵はゆっくりと振り返った。


「知らないねぇ、そんな人間は」

「……そう。」


そしてそのまま黙ること約5秒。
直後、生ぬるい風が少し強めに吹いたのを皮切りに仁蔵は再び足を進め、その場から姿を消した。


「…………ところで。あんたはいつ迄そんなところにいるつもり?」


斬魄刀の柄から手を離しため息を一つ吐くと、最初から気になっていた霊圧に向かって声を掛けた。すると、ガタンという音を立てて私の少し後ろにあった木造の物置から人影が出てきた。


「…やはり気付いていたか」

「当然でしょ。誰に言ってんのよ、"お兄さん"」

「お兄さんではない。桂だ」

「…変わらないねぇ」


彼と会ったのは今回が初めてではない。私が護廷十三隊十三番隊の第四席だった時に一度会っている。その時と同じような受け答えを今されて思わず苦笑してしまったが、そんな私を見て彼は眉をひそめている。その彼の表情には何処か悲しみのようなモノが入り混じっていて、そんな顔をされる理由が分からず私も眉をひそめると、桂がゆっくりと口を開いた。


「……何故、真選組なんぞに入った」


そういうことか。
まぁ、桂の気持ちは分からなくもない。何年ぶりかに会った友達が自分と敵対する立場にいれば誰だって驚くだろう。私だってきっと彼と同じ顔をする。だけど。今思ったのは単なる驚きだった。


「…驚いた。覚えてたんだ、私のこと」

「誤魔化すな。俺の質問に答えろ」

「やだねぇ、誤魔化したつもりは更々ないよ」

「では、何故…」

「目的の為」

「…目的?」

「そう。だけど、その目的は貴方が知らなくていいし、知る必要もない。久々に会えて覚えてくれてたことは嬉しいけど、これ以上の詮索は、」


死を招く。
はっきりと、そして冷たく言い放てば、桂の目が驚いたように見開かれた。
…が。
やがて意味が分かったように表情を戻すと、ふと笑った。


「そうか。ならば俺らは実質敵ではないのだな」

「まぁ、そうね」

「ならば、今度一緒に蕎麦でも…」

「アホ。実質違っても、表面上は敵だから。そんなことしてたら私が捕まるわ」


そう言えば彼は残念そうな顔をした。けれども、まさか死神時代の現世駐在任務の時に偶々会った人間に再開し、その人間が私を覚えていてくれてしかも旧友のように接してくれたことに私は素直に嬉しくて、そう言って笑った。今日は銀時の隠し子事件に完全に振り回されて散々な日だと思っていたが、コレで帳消しにされたと思う。

























(…残念だ。最近、幾松屋という美味しい蕎麦屋を見つけたというのに…)
(え、そこならこないだ喜助と行ったけど)
(本当か!?というか##NAME1##。浦原とどういう関係だ?)
(……は?)
(だから。浦原と…)
(違う、そうじゃない。私が聞きたいのはなんであんたが喜助を知ってるのかってところ)
(偶々その蕎麦屋のカウンターで隣になったのだ。そこで意気投合して、今では週二日は会う蕎麦友だ)
(…うん。ごめん。なんかどーでもいいや)

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