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目と眉毛が近くなりました。





先月の"報告"。

これが何を意味するのか、簡単に言えば、先月一ヶ月の間に江戸に出た虚の数の報告のことだ。
名前は真選組に入るにあたって、警察庁の長官にだけは自分自身のことを嘘偽りなく全て話した。何故かというと、江戸に出る虚の対策について考えあぐねているというのを耳に挟み、どうせうちらも狩るんだったら協力体制を敷いた方が良いだろうと言う喜助の考えが所以だ。というのが表向きの理由で。実際の所、死神も見えない薄い霊圧を持つ人間にうろちょろされても迷惑だ、というのが本音のようだ。
そんな彼女達の本音に気付いてくれたのが松平で、


『全てお前らがやれ。上は俺が黙らせる』


あ、だけど月一で報告はしろよ。
こんな一言で虚退治の一件は本来の理通り、名前達死神に任されたのだ。尸魂界追放組ではあるが。で、今回の松平のお呼び出しはこの報告に関わる。先月ので十一回目となる報告はいつも通りに虚の出現数と場所、またその場所ごとによる出現率など、データ化に長ける元十二番隊コンビが纏めたものだ。だが、その内容が何故か気に食わなかったらしく、こうして朝から名前は不機嫌な声で呼び出されたワケだ。


「…何か、ご不満な点でも?」


そう。だから、自然と名前の声も不機嫌になっていた。なんだか喜助とひよ里を否定された気がしてならない、と彼女は不服に思っているからである。


「不満なら一杯あるんだよォ〜?」

「先月の報告は、先々月と同様にキチンとあなた方人間にも分かり易いように書かれていますが」

「俺だってなぁ、分かりたいんだよ」

「なのに貴方は先月の報告に限って不備だと仰った」

「でもよ?困ったことに難しい年頃なワケよ、栗子は。決して俺に不備があるわけじゃねぇんだ」

「ですから、なにか理由がおありであるならば、」

「だからよ。パパと口きいてくれない理由があるんならよ、」

「「是非(とも)、御教え(教えて)願いたい(欲しい)のですが(んだよォ)」」


最早どちらも言いたいことを言ってるだけで互いの尊重は一切なされておらず、並行どころか捻れの関係にある二つのベクトルのようになっている。勿論、一次独立ではないから同じ平面上にはない。
つまり、根本から違うと言いたいのだ。松平に至っては本題からズレにズレまくっているのがその証拠で。でも、そんな松平の受け答えはどうやら彼女の予想範囲内らしく、呆れたように頭へ手をやると、大きな溜息を吐いた。


「人間の女の子は思春期と呼ばれる時期があるんです。栗子の年齢からすれば丁度その時期に当てはまる、と何度も御教えした筈ですが」

「でもよ?つい二、三年前までは『パパァ〜』ってよく抱き付いてたワケよ」

「ですから。その二、三年の間に栗子はお父さんの嫌な部分がやたらと目に入る時期に入ったんです」

「…例えば?」

「お父さんの目がイヤらしい、お父さんの脇汗が臭い、お父さんがうっとおしい、お父さんの目がイヤらしい、お父さんがウザい、お父さんの自慢話にうんざりしている、お父さんの…」

「…お前、なんかお父さんに恨みでもあんの?」

「ありません」

「いーや、ウソだな。オジサン分かっちゃったぞ?大体なんの恨みもなしで…」

「…長官」


確実に不毛となりつつある会話に段々と嫌気が差し始めていた名前。上司であり、尚且つある意味恩人という人に辛辣な態度は無礼かと、呆れながらも対応していたのだが、限界が来たらしい。静かに、だが僅かに威圧感を込めた声色で呼び掛ければ、人間ではとても出せないような雰囲気に松平も流石に口を噤んだ。


「…ご用件は?」

「…そんな怒るな。俺の所為じゃねぇんだからよ」


漸く本題に入れたと安堵の溜息を吐いていると、耳に入った彼の言葉。それにまた話題が逸れそうだとでも思ったのだろう。彼女が思い切り眉を潜めると、何故か今度は松平の方が溜息を吐いた。


「お前、何かやらかしてねぇか?」

「特に御座いませぬが」

「ふざけんな。コッチは死にそうだったんだぞ」

「ドーナツ作り、と誤魔化しになったのはどなたで?」

「…分かってんじゃねぇか」

「当然ですよ」


私がそう仕向けたんですから。名前がそう言うと、部屋の後ろにいた秘書二人から半笑いの溜息が漏れた。別に彼女の言葉に呆れ笑ったわけではない。勿論それもあるのだが、松平の手を見てというのが大半を占める。その手には鈍く光る黒い拳銃が握られていたからだ。


「…お前、俺との約束覚えてるか?」

「勿論です」

「ならオジサン、撃っちゃってもいいよなぁ?」

「ご冗談を。それに、貴方が引き金をお引きになって私が死んだらそれこそ、貴方の言う約束が護られぬことになりますよ」


先にも触れたが名前は入隊試験に合格してから直ぐ、真選組に入ったわけではない。補佐としての仕事内容を覚える為に一ヶ月の準備期間を設けていたのだ。と言っても実際、仕事内容については最初の数日だけで、後は現世の常識について松平とその奥方から教わっていたのだが。まぁ、取り敢えずその一ヶ月間の彼女の奮闘は追い追い話すとして、今二人が揚げ足の取り合いをしているのはちょうど一ヶ月経ち、翌日に真選組の入隊を控えた最終日に松平が言った一言についてだ。


『自分の命を投げ捨てるような真似はするな。こまめに連絡は入れるようにしろ。人間にとって違和感ないかは俺が判断してやる』

『…この現世において、死神が死ぬなんて状況はないと思うのですが。ていうかそんな七面倒臭いこと誰がやるん…って、なんで銃口がコッチ向いてんですか?』

『アレレ〜?オジサンちょーっと耳遠くなっちゃったなァ。浦原達の帯刀許可証、煙草の火で燃えちゃいそうだなぁ』

『ごめんなさいィィイ!!…って、ちょ、待ってって!!』

『返事は?』

『わ、分かった!!分かったから!!』


私は死にません!!
何回目のプロポーズかのように叫んだ名前の声は松平邸の人間が慌てて全員集まって来る程、響き渡ったという。


「あん時はでっけぇ声だったよなァ」

「誰の所為ですか」


そんな、軽い感じでなされた約束だが名前は案外きちんと守っているようで。しばしば栗子などとメールのやり取りをして近況報告的なものをしているらしい。まぁ、殆どは栗子から送り、それに対して名前が必要最低限の内容を返すというものなのだが。しかし今回の一連の騒動によりメールを見ても返す暇がなく、且つ携帯も高杉に斬られて買い替えていたので、名前からの連絡がぷっつりと途絶えた形になってしまった。それに大騒ぎをした栗子がパパが名前を働かせ過ぎてるからだと文句を言い、つまり今回の栗子が全く松平と口をきいてくれない原因にも繋がるのである。そして、それが名前を呼び出した一つの理由になるのだ。


「…つまり、私が原因だと?」

「あったりめぇだ」


それに栗子は本気で心配したんだ。ちゃんと謝っとけ。そうやってぶつぶつと名前に向かって文句を言っていたのだが、一つ溜息を吐くと、ふと真剣な目になった。


「…本題は此処からだ」

「……」


流石は警察庁長官。普段はちゃらんぽらんな面しか出さないが、伊達に真選組を下に置いてはいない。人間にしては威圧感のある声に名前は内心感心しながら頷いた。


「先月の虚の出現数が多い、と文句を言われた」

「…どなたにですか?」

「お前がケンカを売った相手だよ」

「あら。人聞きの悪いこと言わんといて下さい。私は売られる前に和解させただけですよ。ほら、示談みたいなもんです」


そう言って勘弁して下さいよ、と苦笑した名前に松平は呆れたような顔をした。


「和解?ふざけたこと言ってんじゃねぇ。だったらこんなクレーマーババアみてェなこと言うかってんだ。先月に比べてたった二体多いだけじゃねぇか」

「…うちら人にとっては少なくても、彼ら天導衆にとっては多いのかもしれませんよ?」


彼女も分かっている。こないだの一件においては、有利に立ったと思っていた天導衆を嘲笑うかのように名前がその主導を奪ったものだから、いずれ何かあるだろうとは考えていた。しかし、こんな小さいことだとは思っていなかったのだろう。彼女の声色には明らかに落胆の色が混ざっていた。


「名前」

「…はい」

「頼むから死に急ぐようなことはするな」

「…御言葉ですが、長官。私は死に急ぐような真似をしたつもりは…」

「栗子だけじゃねぇんだよ」

「……え…?」

「御笠や春日井、俺だって心配なんだよ。いくらお前が人間とかけ離れた戦闘力を持っていたとしてもな」

「…でも、私は貴方がたを護る為に此処にいるのであって…」

「それでもだ。お前も真選組に来て一年近く経つから分かるだろ。例え腕は立とうとな、仲間なら心配するのが当たり前なんだよ。それが護衛する側であってもされる側であっても関係ねぇ。一回でも共に飯を食い共に戦場に立った仲間なら、そんなくだらねぇ関係なんざお飾りでしかねぇんだよ」


お飾りは少し言い過ぎだろ。普段ならそんなツッコミが入るのだが、思う処があった名前は松平をじっと見たままだ。実は今の彼の言葉は以前、山崎が俄死神の一件で隠し事をしていた彼女に言った内容と寸分違わぬもので。やはり何処の世界であっても隊の上の意思は部下にも引き継がれるものなのか、と名前はぼんやりと思っていた。


「…山崎にも同じようなことを言われました」

「だろうな。ザキはそういうことにはすぐ気付く。大方死神のことだってあいつには隠し通せないと踏んで話したんだろ」

「…仰る通りで」

「それとな。当然だが、真選組の奴らだって同じようなこと、いやそれ以上のことを思ってるってことを忘れんなよ。アイツらはもうお前ナシじゃやってけねぇよ」

「…たった、十一ヶ月で…そんなもんなんですか」

「そんなもんなんだよ。
…まぁ、今お前が意識出来てんのは万事屋の店主の方だけみてぇだがな」


一体、いつ見ていたのだろうか。
滅多に会うことがなくとも自分の少しの変化も見逃さなかったことに名前は驚く。そんな彼女に松平はふっと笑うと銃を懐にしまいながら言った。


「んで?今その"お友達"は大変なのか?」

「え?どうしてそれを…」

「お前のその無線。スピーカーホンがオンになってるぞ。さっきからだだ漏れだ」

「あ…すいません」

「早く行け」


それにありがとうございますと返事をして、秘書二人に無線のスピーカーホンをオフにした方が宜しいのではと言われながら斬魄刀を御笠から貰い消えようとしていると、再び松平が呼び止めた。


「なんでしょう」

「自分から切るんじゃねぇぞ、糸を」


ここで素直に頷けるようになったのも一つの進歩だろう。
分かっています、と返事をした名前が部屋から消えると松平は満足そうにふん、と言って携帯に手を伸ばした。














(退)
(名前ちゃん!?今まで何してたの!?)
(んー説教?)
(なんで疑問系?)
(ま、それは置いといて。今の状況は?ていうかなんであのおっさん日記読んでんの?…あ、破った)
(説明すると長いんだけど…兎に角、あのマムシZがヤバイ)
(…名前のセンス悪)
(だよね…じゃなくて!!あれをどうにかしないと、局長もそれにやられて…)
(分かった分かった。なんとかしましょ)

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