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風の中。参








今なんて言った、コイツ。
尸魂界の判決?
あの事件の判決は翌日、四十六室が大した調査をしないまま喜助を犯人だと決めつけて下された筈だ。それを今更何だって言うんだ。


「藍染の話じゃ、お前等んトコの裁判官達がこの間の判決を軽く変えたらしくってなァ。ちょっとした付け足しらしい。…まァ気持ちは分からないでもないが、“今更なんだ”とでも言いたげな顔だな」

「……当然だろ。あの一件からは約一年経った。四十六室は…あの老いぼれ達は、たった一人の隊長格の一瞬の目撃証言だけで藍染の言い分を完全に信じ、喜助を…浦原隊長を犯人だと決めつけた。平子隊長達は虚として殺すとも言ってきた。一晩で隊長格を、鬼道衆の大鬼道長副鬼道長も含めて一気に十人も捨てたんだぞ。普通ならまず有り得ないお達しだった。なのにまだ加えるっていうのか。口だけで実戦など縁もなく、毎日偉そうに椅子にふんぞり返っているだけのアイツらに何が、分かるっていうんだ!!」


そう怒鳴った瞬間、辺り一帯を風が一気に舞い上がった。風の勢いに耐え切れず、銀時の手から血濡れた手拭いが離れて行くのが見える。ああ、まずい。銀時も高杉も、近くには他の人間もいるのに。なに餓鬼みたいなことやってんだと風車に怒られたのもあり、飛ばされそうな銀時の腕を掴み、なんとか風を止める。空き缶がカランと音を立てて落ちたのを最後に辺りは再び静けさを取り戻した。と、同時に銀時が羽織りの裾を直しているのが目に入った。


「…ごめん」

「なんともねェよ。お前は?」

「え?いや、だって自分の風だし…」

「関係ねェよ。怪我、してねェか?その耳以外」


その言葉に無言で首を振ると銀時は頭にポンと手を置いてきた。不思議なことにそれだけで随分心が落ち着いた。何故だろうと思ったが今はそんなこと考えてる暇はない。銀時に向けていた視線を高杉に戻すと、刀の柄を握り直しながら口を開いた。


「悪かったな、高杉。耳のお礼だ」

「…倍返しにも程がある」


高杉が地面に刀を突き立てて膝立ちでいるところを見ると、何となく勝ったような気分になるのは気のせいではないと思う。でも何だかあの時の背中の傷が痛い、ような気がするのも気のせいではないと思う。自分で思ってる以上にちょっとマズいのかもしれない。


「…よく人間の中で生活してられるな」

「うるさい。そうせざるを得ない状況にあるんだ、私達は。それに現世も慣れてみれば案外居心地が良い」


分かってる。一歩間違えれば人間なんて消し飛ぶってぐらい。それに四席の私でコレだ。一緒に下りてきた隊長副隊長レベルだと目も当てられない惨状になりそうだ。加えて虚化という厄介なものまで抱え込んでいる。いつ不安定な均衡が崩れるか分からないこの現状。高杉が感心するのは最もだ。


「オイオイ。お前ら完全銀さんの存在無視してない?ていうか高杉。話があんならさっさと済ませて帰れや」


そんなに無視してたとは思えないが、今の彼の言葉は有り難い。副長とも退とも、通信が不自然な形で途切れてしまった。心配はしてないだろうが、彼らも警察だから何となく事件性を考えるだろう。退には居場所を伝えてある。副長の運転するパトカーが此処に来るのは時間の問題だ。そしたら高杉と呑気に話などしてはいられまい。尸魂界の判決とやらを聞き逃してしまう。


「そうだな…攘夷浪士と真選組が会うワケにはいかねェしなァ」

「そーいうこと」


ほら、早くしろ。と急かす銀時に、ちったぁ待てねェのかよと呆れたように言いながら高杉が立ち上がった。
何故だろう。老いぼれ共が下した判決など気にするに値しないし、何よりそれを人間の口から聞くのだ。しかも一回惣右介を通して。なのに、何て言うか嫌な感じ、いや何となく気持ち悪い、気がする。立ち上がった高杉が私を真っ直ぐ見て口を開こうとしているのを見て、吐き気と同時に背中の痛みがより一層強まった。


「もし生きて尸魂界に帰ってくるようなら平子真子以下8名は虚として処分ではなく、復職させる。が、四楓院夜一は刑軍を永久除籍。浦原喜助と塚菱鉄裁の刑は変わらず、だ」

「…永久、除籍…」


喜助の逃亡を幇助した時点で何らかの処罰があるとは思ってたが、それ程までに重い罰とは思っていなかった。それで、高杉を促してはいるが、知らずのうちに刀の柄を握り締める手に力が籠もる。


「それとお前だが、尸魂界に帰還次第、十番隊隊長へ昇進、だとよ」

「………は?」


ちょっと待て。意味が分からない。百歩譲って昇進の部分は尸魂界にいた時から度々話題に上がっていたから分かるとしよう。だが、問題はその役職だ。隊長だ、と高杉は言った。
意味が分からない。
今朝の夢から始まり、1日で色んなことがいっぺんに起こって頭の混乱は限界に近い。最早冷静な判断が下せなくなっていた私は、兎に角一番の疑問を高杉にぶつけようと口を開いて声の限り叫んでいた。


「何故だ!?何故私が卍解を習得してると、」


「名前!!」


知ってるんだ。そう続くはずだったセリフは不意に辺りに響いた声で遮られた。その声は、目の前で怪しげに微笑む高杉のものでも、私が縋りつくように腕を握り締めている銀時のものでもなく、


「…ひじ、かた…さん…?」

「名前!」


僅か数十分前に連絡が途絶えた真選組副長のものだった。


「…じゃあ俺は退散させて貰うぜ?」


パトカーから降りる副長をぼんやりと見ていると、高杉がそう言ってきた。刀をしまいあっさりと引き上げようとする辺り、彼は本当に私への伝言の為だけに来たらしい。
そうだ。私はまだ奴に聞かなければならないことがある。そう思って高杉を追いかけようと足に霊圧を込める直前、不意に両腕を掴まれた。


「ちょ、何や!?離し…」

「……落ち着け、名前。お前、今高杉を“なにで”追いかけようとした?」

「なにって、瞬…」

「名前。お前今、“誰”だ?」

「ふざけんといて!護挺十三た…っ!…」

「気付いたか。今お前は、現世の対テロ組織特別チンピラ税金泥棒組副長護衛兼補佐、四楓院名前だ」


両腕を掴まれ、腰を屈めて目線を合わされ、まるで幼子に言い聞かせるように話されて、漸く自分がかなり取り乱していることに気付いた。息も上がっているし、銀時の瞳に映る自分の顔が酷く情けないのも直ぐに分かる。


「……チンピラ税金泥棒組じゃない。特別警察真選組」

「変わんねェよ、ほとんど」


私が落ち着いたのが分かったのか、腕の力を緩めながら何処か安堵したような表情を浮かべる銀時。そんなに酷い顔をしていたのだろうか。気付けば高杉はとっくにいなくなっていて、脇を一番隊の隊士達が走り去って行くのが見えた。同時に鬼のような形相の副長が迫ってきているのも見えた。良く見れば、その後ろに総悟と退もいる。一体どんなお叱りの言葉が出て来るのだろうかと考えていると、いつの間にか真横に副長がいて思わず後退った。


「……何してやがったんだテメェは!!」


直後、路地一帯に響き渡る副長の怒鳴り声。煩そうに銀時と総悟が耳を塞ぐのが見えた。だけど、私は何だか副長の声が遠くに聞こえていて、顔を下にして小さく謝罪の言葉を呟いた。


「……申し訳、ありません…」

「…………治療が終わったら俺の部屋に来い」


やりかけの書類が大量に待ってるからな。そう言って現場の指示に戻った副長の顔を私は最後まで見れなかった。

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