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苺の季節。





「今日から真選組に入隊することとなりました。四楓院名前です。宜しくお願い致します」


そう言って頭を下げた名前を見て、向かいで胡座をかいていた男は険しい顔をした。
季節は春。決して苺パフェの時期ではない。世の中では新入社員やらを迎え入れる時期だ。勿論、真選組だとて例外ではない。毎年10人程、新入隊員として迎え入れている。体力がモノを言う組織だけあって、若い隊員が入ってくるなら大歓迎だし男だ女だととやかく言うつもりはない。

…だが、《これ》は話が別だ。


と、でも思っているのだろう。この男は。まぁ…わからないこともないけど。


「あの…局長。私、何かまずいことでも申したのでしょうか?」


目の前の男の表情を見て、そう適当に表情を読み取った名前は、心にもないことを言って隣に座る近藤を見た。


「いや、心配することはないぞ!トシは結構シャイな奴でなぁ。女の子と話すのがちと苦手なんだよ!!」


ガハハと、豪快に笑いながらそう言う近藤を見て名前はそうなんですかと言って、視線を再び前に戻した。




『…真選組副長、土方十四郎。攘夷浪士からは鬼の副長と呼ばれ、恐れられてるらしいっス』

『十四郎、ねぇ…』

『……違いますよ。"とうしろう"っス』


…まぁ《じゅうしろう》か《とうしろう》かはともかく、いかにもって感じの渾名だな。
だって見てみなよ、あの目。蛇どころかメデューサ並だよ、あの目。蛙も動きが止まるんじゃなくて、石になっちゃうから、あの目。と思いつつも、名前自身は彼の前で欠伸が出来るぐらいの余裕があり、今彼女の頭の中を8割方支配してることは庭にいた霊、後で魂葬してあげなきゃなぁ、という土方に全く関係ないことこの上ない話題だ。


「……オイ」


時間にして約5分。近藤が名前を連れて副長室に入ってからずっと沈黙てていた土方が漸く重い口を開いた。


「…四楓院名前っつったか?」

「はぁ…」


煙草を加え手元の資料を見ながら今更名前を聞いてきた土方に、馬鹿なのかなこの人さっき自己紹介したじゃんと内心呟きながら態と間の抜けた返事を返した。


「お前、何で真選組の…しかも《こんな役職》を希望したんだ?」

「…理由が必要ですか?特別枠の試験が通った時点で私の意思は伝わったようなものだと思うのですが」


勝手に入隊試験に応募されたんです、と言うわけにもいかず、かと言って熱のこもった嘘演説をする気もない彼女が適当に論点をズラして答えると土方は今までで一番睨んだ。


「…お前、やる気あんのか?」

「じゃなきゃこんな男の溜まり場みたいな処、来ませんよ」


すいません、全くないです。だって理由って言えば、ぶっちゃけ《夜中に刀引っさげて歩いてても廃刀令に引っ掛からないから》だしねぇ。それに……まぁ喜助達に頼まれたならやるしかない。
そんなことを考えている名前とは別に、また土方もこう考えていた。
…いつの間にか作られていた副長護衛兼補佐という役職は、とっつぁんだけならまだしも、近藤さんからもということで仕方なく飲むことにしたくだらねぇ案だ。
なんだか最近巨大な《化け物》による被害が後を絶たず、真選組も危ねぇんじゃねぇか、という理由からだとも聞いたが……その事件すらどうも胡散臭せェ。
まぁ、それはそのうち山崎を走らせりゃいいから、ひとまず置いといて…

と、心の中で一旦言葉を切り、煙草を新しいものに換える。

つまり何が言いてェか、って…
まさか俺の護衛補佐に志願する奴はいねぇと思ってたんだよ、俺は。だがまさかの事態が起きた。しかもまさかの新入隊員な上、まさかの女だ。そうやって言いたいことをひとしきり頭の中で言った後、険しい顔のまま煙草の煙と共に言葉を吐き出す。


「俺ァ、……女になんざ守られんのは御免だ」


少し黙りこくっていた土方がそう呟いたのを見て名前は軽く眉を潜めた。
…そりゃ、奇遇だ。あたしだってあんたみたいな瞳孔野郎の為にお側にお控えするなんざ御免だよ。なんて、口が避けても言えないよねぇ……


「……オイ」

「何でしょう、副長」

「何が奇遇なんだ?」

「………」


ふと、隣の局長を見ると目線は土方の方を向きその顔には冷や汗がいっぱいあった。

…あぁ。


「すいません、思わず本音が飛び出ました」
















「上等だァ!!刀を抜けェ!!」

「トシィィ!!落ち着いてェェ!!てか名前ちゃんまで刀抜かないでェェェ!!」

「いえ、でも副長命令ですので」

「違うゥゥゥ!!なんか違うからそれェェ!!」


副長は割と簡単に鬼と化すらしい。…ちなみに鬼のレベルは大虚でいうならアジューカス、いやヴァストローデ級だったと思う。





















(やっちゃった)
(やっちゃったじゃないっスよ…クビ切られたらどうするんスか)
(ないない。大丈夫)
(その自信はどこから)
(マヨネーズ1ダースあげた)

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