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山崎はミタ。参







事が大きく動いたのは、今日の昼過ぎだった。

《緊急連絡。土方十四朗より出動要請。一番隊、五番隊、十番隊は至急煉獄関へ。繰り返します。一、五、十番隊は至急煉獄関へ。沖田隊長はもう既に向かってます。刀を所持していれば服装などどうでもいいので、兎に角、急いで!!》


名前ちゃんから、全員が隊服に付けている無線機へ突然そんな連絡が入った。彼女らしくない焦りが最後に入ってたからだと思う。煉獄関であるというツッコミは置いておき、出動要請がかかった隊士だけでなくそれ以外の隊士も、少しでも早く出られるようにとパトカーを出したり刀を貸したりと協力していた。そりゃもう、素晴らしい程に早く。


『…もしもし?』

{退も出てくれる?副長が、闘技場がごった返してるうちに怪しそうな辺りを調べてくれって}

『分かった。名前ちゃんも気を付けて』

{退も。気を付けてね}


呼ばれるとは思ってたけど、こんなアバウトすぎる場所を調べろなんて言われるとは思ってなかった。ていうか、え?なに?怪しそうな場所って。俺にとっちゃ副長の部屋の押し入れが怪しそ……


{山崎ィィイ!!下らねー事考えてねェでとっとと行きやがれェェエ!!}

『は、はいィィィイ!!』


ェ、エスパァァァァアア!?いや、後で聞いたらまだ名前ちゃんの携帯と繋がってて。耳に携帯を当てたまま考えてたんだけど、副長と代わったのを知らずに口から言葉が出ていたらしい。まぁ、そんなこともありながら取り敢えず原田の運転する車に乗って煉獄関へ向かった。


『この辺、かなぁ…』


以前忍び込んだ時に、なんとなく目星は付けていたのでその辺りを探っていた。


『……―がみなるものと戦っていたのは貴様らだな』


暫くして、目星をつけていた所より少し離れた場所から声が聞こえて来たので、足音と気配を完全に消して移動した。此処から数歩進んで角を曲がれば男が直ぐそこにいる所まで。
天導衆だろう。
なんの疑いもなく俺はそう思った。一週間前に死ぬ思いをして掴んできた情報通りだ。


『…―――…――――――』

『ああ…力量の判断材料にして欲しいと言って映像を送ってきたからな。リアルタイムで見させて貰ったぞ』


だがそいつと喋っている人物の声が全くと言って良い程聞こえない。危険を承知で角ギリギリまで近づいてみて、俺は自分の耳を疑った。


『…で、ご感想は?鬼道丸、いや、鬼獅子に勝てそうだったか?』


……名前、ちゃん?
しかし、彼女の声は普段とは全く違うどころか聞いたこともない声色だった。なんていうか、威圧的で…言葉が重い。それに、まるで高い処にいる者、所謂貴族の人が話している時と同じような印象を受けた。

『退も。気を付けてね。』

とても数十分前に聞いた人物の声と同一とは思えない。


『私には遊び心の強い義母上がいるからな』

『忍び込んだというのか!?我らの住処に!?絶対にあり得ん!!』

『信じるも信じないもお前の勝手だが…マズいんじゃないのか?コレ、が世に流れたら』


コレの指し示す物。忍び込んだという台詞からおおよその推測を立てると、天導衆が関わっているという映像か写真かの“決定的”な証拠。俺が掴んだ情報は俺の目で見たことだ。いざそれを突き付けてみても相手にシラを切られたら問い詰めきれない。だが、彼女は何らかの方法で手に入れたのだろう。…彼女のお母さんの遊び心によって。


『…違法賭闘技場の存在、その闘技場と天導衆の繋がり、ひいては“死者の国”との交信というオカルトめいたもの…これだけでかなりの…』

『黙れ』


死者の国?なんだそりゃ。ていうか、今のこのシリアスムードでなんでいきなりそんなふざけた話題を入れたんだ?脈絡なさすぎでしょ。そうやって呆れながらも、普段の名前ちゃんが見えたようで何だか安堵した時、辺り一帯を刺すような殺気が覆った。
もしかしたら戦闘になるのかもしれない。そう思い、いざとなったら自分も加勢に行けるようにと身は乗り出さずに手鏡を調節して彼女達を見た時。
かなり驚いた。
名前ちゃんの後ろ姿が映ったのだが、その背中に回されていた手がまるで俺を牽制するかのように軽く払うような仕草をしていたのだ。危うく鏡を落とすところだった。単なる偶然と言われるかもしれないが、こればかりは違うと言える。真選組内で取り決められた《出るな》という仕草だったのだから。


『………よかろう。今回、真選組には灸を据えるだけにしてやる』

『察しが良くて助かります』

『その代わり…』

『…はい。近藤と松平が無事真選組屯所に帰ってきた暁には私、真選組副長護衛兼補佐四楓院名前が此を持って馳せ参じましょう』

『…ふん。呼び出す猿の名までお見通しか。やはり、貴様ら“死神”は気に食わん』


何だって?
局長と長官の首は繋がって、真選組は潰れなくてすんで、俺らの抹殺の危険もなくなって、切腹もしなさそうですんで、ただお叱りを受けるだけで…
“死神”?
え、どういうこと?って思った時には鏡から名前ちゃんの姿が消えていて、舌打ちをしながら此方に向かって歩いてくる天導衆の男に焦ってると急に後ろから口を塞がれた。


(!?)

(…静かに。名前です。一旦外に出ましょうか)


近くても聞き取りづらい小声で囁かれた次の瞬間には、暗い室内から真っ赤な夕焼けへと景色が変わっていた。

そして今に至る。


「ちょ、ちょ、ちょ…?ま、…は?…」

「流石、退だね。ナイスリアクション。爆笑もんだよ。あっはっはっはっはー」

「どこがァァア!?全然笑ってねーじゃん!!爆笑どころか微笑もしてねーじゃん!!」


まぁ、落ち着けって言われたって俺の頭は大混乱だ。百歩譲って誰かに証拠を掴んで貰っていたとしても、あそこからここまでのまるで瞬間移動のようなものはわけ分からない。あれ、自分なに言ってんの。


「退」

「う、うん?」

「瞬間移動じゃないよ。瞬歩って言うんだ」


エスパー?
普段なら盛大にそうツッコんでいただろう。だが今は出来ない。…やらないんじゃない。出来ないんだ。今の空気はとてもじゃないが、そんなことを言える雰囲気じゃない。名前ちゃんの雰囲気があまりにも普段と違いすぎる。…人間じゃないみたいに。


「…名前ちゃん。君は一体何者なんだい?」


前々から何処か普通じゃない感じはしていた。瞬き程の間にありえない距離を移動してたり、副長には言ってなかったが毎晩夜中に抜け出してたし(今は思い出したが、翌朝になるとすっかり忘れていたのだ)、所謂幽霊なるものが見えるみたいだし、さっき聞いた天導衆の取引のこともあるし、何よりあの“特別枠”の入隊試験で入ってきている。
ただ剣術と体術がずば抜けてる人間、ってだけじゃあもう済まされない。


「退は鋭いね。誤魔化しきれないかもって喜助が言ってた意味が漸く分かったよ」


笑っている。名前ちゃんのあんな微笑み方を俺は知らない。見た目より遙かに超えた年月を思わせるあの不思議な微笑みを。そして、その笑みを浮かべる彼女の口
が動いた。


「さっき聞いた通りだよ。私は、人間でも天人でもない。

…“死神”だ」



























(銀ちゃん…名前、ジミーに言っちゃったアル)
(あいつは馬鹿じゃねェ。なんか考えがあってのことだろうよ)
(でも山崎さんってある意味土方さんの直属の部下ですよね?…大丈夫なんでしょうか)
(…ま、ジミーも言っていいことと悪いことの区別はつくだろ…っと、メールだ)
(誰アルか?)
(…名前からだ。明日万事屋貸せって…げ、見てるのバレてる)
(……流石ですね)

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