苺の季節。
『今、この世の中で刀を持てる唯一の組織は?』
『…真選組?』
『ご名答っス♪』
……思えば、
この会話が全ての始まりだった。
―わざと口を滑らせてでも言いたいことってあるよね―
「春はイイよねぇ〜」
そんなことを言いながら口に運ばれるスプーンの上には大量の生クリームと一粒の苺が乗っている。
「ちょうど苺がウマい時期なんだよなぁ〜やっぱ、パフェには苺だよなぁ」
どうやらこの男。苺パフェを食べているらしい……一人で。この世のどこぞにパフェを一人で食べに来る男がいるのか、と笑いたくもなるが現にここにいる。
…そう。銀髪の侍、坂田銀時だ。
甘いモノに目がない彼は、期間限定で始まった苺パフェを食べに来たらしい。勿論、神楽と新八には内緒で。もし口を滑らせた暁には家計の火の車が目に見える。神楽の胃袋なんて、ブラックホール並みだ。下手すれば店一つ潰しかねない。
「んー…どうすっかなー…」
銀時がそう呟きながら真剣に2杯目のパフェを食べようか食べまいか悩んでいると、彼の耳に後ろの席に座る若い女の声が入って来た。
「…あー!!それ知ってるー!!巨大な《化け物》の話でしょ!?」
「そうそう。噂かと思ってたらホントらしいよ。あたしの弟の友達のお兄ちゃんの知り合いが実際に会ったことあるんだって。なんか結構重傷らしくて、入院してるんだって」
「うわぁ…」
またくだらねぇ噂が流れてるもんだ。なにが巨大な《化け物》だ。どうせ、ただのデッカい天人のことに決まってる。つーか、弟の友達のお兄ちゃんの知り合いってお前全く接点ねぇじゃん。自慢出来ねぇよ。むしろ苺パフェ2杯食べた方が自慢出来るから。
そう考える銀時の表情は酷く険しい。端から見れば今の話に憤っている様にも見えるのだが、そんなことは全然なくて。ただ自分の財布と睨めっこしているだけ。情けないことにこの男の不摂生具合がよく示されている。
「てかその人良く生きてたね。噂じゃその姿を見たが最後って言われてんじゃん」
結局男は顔なんだよ、顔。「ん〜わたしィ、性格良いなら顔どうでもいいっていうかぁ〜」って言う奴程、大抵顔重視なんだよ。面食いなんだよ。
銀時の心はどんどん荒んで行き、その矛先はリア充に向かおうとしている。財布と相談していた筈なのに、今や世論と取っ組み合いの喧嘩をしそうだ。だが、その喧嘩も思いも寄らない形で収まることとなる。
「あ、てかさ。その《化け物》って見れる人と見れない人がいるって知ってた?」
「知ってる知ってる〜」
なになに?勇者の剣でも引き抜けば見えるわけ?それ引き抜けば銀さんもイケメンに見える?パフェも2杯目食え…
「幽霊が見える人は見れるんでしょ?」
「お姉ちゃーん!?お勘定お願い!!今、すぐ!!イケメンに見えなくてもイイから!!ツケメンでイイから!!お願いだからその先、口滑らせないでェ!?」
その後、泣きながら万事屋に帰った銀時が神楽に殴られたのは言うまでもない。
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