山崎はミタ。弍
【天パ】
正式名称は天然パーマ、と言う。元来日本にあった言葉ではなく、癖っ毛などと呼ばれていたものが外来文化が浸透すると共に、こういう呼ばれ方に変化して行ったと思われる。
「へぇー…そうなんだ。じゃねェェエ!!会って早々何なの!?嫌がらせか!?単なる嫌がらせなのかコノヤロー!!」
「嫌がらせじゃないっスよ〜ほら、“せんか”と“てんぱ”。なんか似てるじゃないっスか〜ほんの遊び心っスよ、銀時さん」
「残念だったな!!現世ではそれを嫌がらせっつーんだよバカヤロー!!ていうか“ん”しか合ってないから!!似てるどころか共通点探すのに一苦労だからね
!?」
近藤が出張に行ってから一週間程経った頃。ある団子屋で二人の男が団子を食べていた。別にデートという訳ではない。喜助が銀時に呼び出されたという形だ。
「まぁその話は置いといて、だな……で?」
「はい。この際、はっきりと申し上げましょう。
アタシはそれ以上深入りすることをオススメしません。神楽さんや新八さんがいるならなおのことっス」
「…何でだよ。つーかお前やっぱ知ってんのか」
「そりゃ、まぁ…僕は雑用もこなす神様っスから」
「……名前の奴、喋りやがったな」
天パの件で立ち上がっていた銀時が再び腰を下ろしながら顔をしかめた。そんな銀時に軽く笑いながら喜助は団子の皿を差し出す。
「今、二人はどちらに?」
「昨日の帰りから鬼の家を見張らせてる」
「ああ、やっぱり」
「…どういう意味だよ」
「電話で最初に聞いた時から何となく予想出来てましてね。白さんとリサさんに行って貰いました」
だから神楽さん達の心配は無用っスよ、お父さん。そう言ってお茶を啜る喜助に銀時はまた顔をしかめた。
浦原喜助という人物は恐ろしく頭が回る。夏前にあった祭ん時が一番驚いた。真選組に名前がいんのに、何であの中2病野郎にわざわざ会おうとするのか意味が分からず、聞いてみれば、
『高杉晋助は藍染と恐らく何らかの形で接触していると僕は考えてます。そして藍染は、それを僕らが予想していると分かって、更に僕らがそれも予想していると分かって接触して来ると踏んだんです』
…やたらややこしい言葉が返ってきた。確か、もっと分かりやすいように喋れと殴った記憶がある。
『いてて…何だかひよ里さんにも同じこと言われたことあるっスよ。
まぁ、要するにィ、お互いの考えがバレちゃってるけど気付かないフリして普通に振る舞ってるってことっス』
コレ聞いて一個前のややこしい会話を思い出した時、余りの頭の回転の速さに驚きを通り越して寒気すら覚えた。一瞬、人の心が読めるんじゃないのかと焦ったぐらいだ。でもその反面、死神ってなんて面倒くさいヤツらなんだとも思った。分かってんなら先回りすればいい。それを分かってんなら更に裏をかけばいい。それも分かってんなら更に裏の裏をかけばいい。わざわざ待つ意味が分からない。そう言えば、アタシにも分からないっスねェとか言われたからもう一発殴っといた。
「あらら。余計なことでしたか?」
顰めっ面していつかの会話を思い出していると湯飲みを置いた喜助がやや不安そうな表情で尋ねてきた。
「いや、そんなこたァねェよ。悪ィな……助かった」
そう言うと彼はお安い御用っスよ〜と手をひらひらと振った。そんな喜助に銀時は湯飲みへと手を伸ばしながらふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「…つーか、どこでこんな情報掴んだんだ?」
「僕の恋人…名前さんからっスよ」
喜助の爆弾発言に銀時は盛大にお茶を噴き出した。店内ではなく店先にいたとは言え、汚いものは汚い。偶々店を出てきた子連れの親が子供の目を隠すように足早に去って行くのを見て喜助が忍び笑いを漏らす。
「マジでェェエエ!?」
「ウソっス」
「はァァァア!?」
「冗談に決まってるじゃないっスか〜いやーそれにしてもまさかそんな綺麗に噴き出せる人がいるとは…っ…」
「…お前、珍しくマジで笑ったの見たなとか思ったら俺?俺を騙してなの?銀さんだって傷付くんだぞコノヤロー」
喜助から渡された手拭いで口を拭き、漸く落ち着いたところで再び話は戻った。
「お前…名前に調べさせたのか?」
「いーえ。煉獄関っスよ?寧ろアタシが調べる側っス」
「じゃあ…」
「土方さんがね、極秘にと調べさせてたみたいなんス。まぁ、実際煉獄関に潜入したのは山崎さんで、捕虜予備軍になってた彼を救出したのは名前さんらしいっスけど」
あれ?待てよ。
と、銀時の頭の中の何かがストップをかける。それは顔に出ていたらしく、喜助がどうぞと頷いた。
「俺は、今回沖田君から依頼を受けた。煉獄関について」
「らしいっスね」
「沖田君の話じゃ、お上が絡んでて幕府の犬である真選組は手出し出来ない」
「そうっス」
「だけど、マヨと名前とジミーの3人は全て分かってる。ジミーの密偵によって」
「はい」
「………俺ら、いらなくね?」
「ヤダなァ〜アタシは入れないで下さいよ」
「あ、悪ィ……ってオイ」
「ぶへッ!…は、鼻が痛い…」
口では勝てないと悟った銀時は手を出すことにしたらしい。隣で呻いている喜助にざまぁみろと言いながら団子を頬張る様子は、まるで餓鬼だ。
「つーか極秘って言われてんのに名前は何でお前に喋ってんだよ」
「煉獄関絡みで彼女にあることを調べてくれって頼まれましてね」
「…あること、ってなんだよ」
「それは……」
「天導衆」
「え?」
「そいつらについて調べてくれって頼んだの」
突然耳に入った第三者の声。と、背中の違和感。驚いた銀時がバッと後ろを振り返れば、いつの間にいたのか彼の背中に寄り掛かって団子をくわえる名前の姿。
「おま、マジでびっくりするから。マジで心臓に悪ィから。急に現れるのだけは止めて」
「そうっスか?アタシは気付いてたっスけど」
「ちょっと黙れや、神様。つーか知ってたんなら言いやがれコノヤロー」
「とても神様に対する口のきき方とは思えないよね」
ていうかまだ神様ネタ引きずってたんだ、と笑いながら銀時の前に立つ名前は黒い隊服を身に纏っている。総一郎君の悪い癖でも移ったかと思いながら口を開こうとすると先に名前の口から声が出てきた。
「銀時」
「ん?」
「副長が奢ってくれるって」
「……はい?」
なんだか良く分からないという表情をする銀時の顔を悪戯っぽい風が掠める。そんな顔をしている銀時の腕を笑いながら引っ張ると、名前は携帯を耳に当てた。
「四楓院です。…はい。総悟が吐いた通りでしたよ。午後1時8分、逮捕致しました」
「…は、はァ!?」
「……はい。そうです。じゃ、今から連れて行きますんで、カツ丼頼んどいて下さい。…え?何を仰ってるんですか。取り調べと言えばカツ丼でしょう」
「オ、オイ、名前…」
「さぁて。洗いざらい吐いて貰うからねー」
「え!?俺なんかしたっけェ!?」
「罪状ならいくらでも偽造してやるよ」
「……」
「……」
「き、喜助ェェエ!!オメーの躾が悪ィんだぞォオ!?」
「やだなァ〜アタシは躾係りじゃなかったっスよ〜」
「ぇえ!?係りなんて決まってんの!?名前の教育に!?」
「ハイ。氷雨さんの御意向を汲みましてね。ちなみにアタシはあちこちに連れ回す係りでした」
「先生のご先祖様なら間違いはねェだろうが…その係りだけはぜってーいらねェだろ」
(………名前。なにコレ)
(なにって……数分前まではカツ丼と呼ばれていたモノ)
(いやいや。そうじゃなくって、なにコレ。マヨネーズにでも恨みあんの?オタクの副長さんは)
(恨みはないね。寧ろ間逆をいってる。愛してる領域に入ってる)
(うげっ…あり得ねェ量のマヨネーズと相まって吐けそう)
(ね?あらざらい吐けそうでしょ?)
(吐くってそっちィィイ!?)
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