×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

山崎はミタ。壱







副長の指示を受けた直後、自分の部屋へと戻って死覇装に着替える瞬歩でそこを発った。
向かった先は、“煉獄関”。
地下闘技場とも言われるそこは謂わば賭け試合の為に殺し合いが黙認されている。本来ならばそんな所は真選組によって御用改めされるべき場所だが、ここに限ってはそう上手くいかない。
幕府が絡んでいるかもしれないのだ。賭け試合で動くのは一般人ではまず手の届かないとんでもない程の大金。加えて、天人がうようよといる。だが、完全に幕府がクロと言い切れる証拠もないこの状況で、迂闊に調べ出して下手にバレてしまったら真選組が潰されかねない。でも煉獄関を黙認し続けるのも少々腹が立つ。だから調査も極秘扱いで、かなり慎重に進めていたのである。
屯所から人間の足では60分弱車では20分かかるところを5分で到着すると誰にも気付かれることなく内部へと侵入し、退に密かに付けていた自分の霊圧の痕跡を頼りに足を進めていたのだが、なんら変哲もない所で途切れていた。


『…ここか』


周りを見ても特に何も無い。だけど、こういう場所にはからくり的な感じで部屋がある場合が多い。霊圧の痕跡が不自然に途切れているその壁を押してみると、案の定隠し扉のように壁が回転し、中へと入ることが出来た。広さは大体六畳ぐらい。窓もなく灯りもついていない。…僅かに漂う鉄の匂いは壁に掛かる斧や鋸義のものなのか、はたまた血か。そんなことを考えながら懐中電灯を片手に中へ一歩踏み出すと、そこの隅に手足を縛られている人が横たわっているのが目に入り、急いで駆け寄った。


『退』


肩を叩いて意識確認をするも反応はない。首に手を当てると脈が触れたので、ひとまず安心していたのも束の間。縄を解こうと何気なく触った彼の右足に何か違和感を覚え、灯りを照らすとクナイが刺さっているのが見えた。しかもよくよくその場全体を照らしてみれば、赤いものが点々と床を汚している。クナイで刺されてはいるが出血は少ない。なのに彼の意識はなく呼吸も少し荒い。


『…何らかの神経麻痺毒、か。痺れ薬…呼吸系じゃ、ないよな…』


そう言いながら退の足からクナイを抜くと鬼道で応急処置を開始。念の為と退の血液を小さい瓶に入れると携帯を出した。


{まいどーこちら浦原商店}

『あ、ひよ里?』

{なんや珍しいやんけ。どないした?}

『今からサンプル“送る”から、喜助と解析頼める?』

{構へんでー今日は馬鹿もちゃんとおるし}

『ありがと』


取り敢えず早よしぃや。最後にそう言われながら電話を切り、小瓶を床に置くと転送の鬼道をかける。直後、ひよ里から[受け取ったで]とメールが届いたのを見ていると、不意に声が聞こえた。


『…名前…ちゃ、ん?…』

『おはよー退。どっか痛いとこある?』

『…全、身…?かな…』


あははと薄く笑う退を見て私も笑い返す。冗談が言えるぐらいなら大丈夫だろう。そう思いながら退を起こし背中に乗せようとしていると、彼は戸惑ったような声を上げた。


『え?お姫様抱っこの方がいいの?』

『違うから!!そ、そうじゃなくて…無理でしょ?俺を背負っ…!』


彼の言葉の最中に突如、後ろから放たれた何か。それを振り返ることはせず、斬魄刀を抜いて叩き落とすと後ろを振り返った。


『鼠は一匹かと思ってたんだが二匹目もいるとはな。…しかもただの鼠じゃあなさそうだ』


考えていなかったことはなかったがこの部屋に監視カメラが仕掛けてあったらしい。それを常にチェックしていたとなると、退の正体がバレていたことも考慮しなければならないか。
忍装束を身に纏い、薄茶色の髪は全体的に短髪ではあるが前髪は目にかかるぐらい長い。前が見えてるのかどうかは別として、クナイを放たれるまでその殺気に気付かなかった身のこなしはただ者ではないだろう。
少し気合いを入れる為に、退の意識を飛ばすと、肩に担いで立ち上がった。


『お兄さんだってかなりのやり手なんじゃないの?』

『どうだかな。単なるジャンプ好きなオッさんかもしんないぜ』

『私の知り合いにもそういうオヤジがいるけど、そいつかなりのやり手だよ』

『そりゃあ会って見てェなぁ』


そう言ってお互いにニヤリと笑った直後。先手必勝ということでその場から瞬歩で消え、次の瞬間には部屋の入り口付近に現れた。忍のオッさんが立っている目の前だ。そのまま勢いを殺すことなく斬魄刀を彼の首に向かって振るが、返って来たのは肌が斬れた感触ではなく防がれた感覚で。それに逆にコッチが驚いてしまった。コレについてくるとかコイツ目どうなってんの。


『扉、二人通るには狭いんだが…どいてくれないかな』

『そりゃあ無理な相談だ。俺も雇われてる身なんでね』

『相談じゃない。命令だ』

『!』


速さで驚いてくれないのなら力でごり押しだろう。しかも今忍さんの片手は私の斬魄刀を防いでいる。お義母様直伝の白打、蹴りで忍さんの腹を狙った。彼も咄嗟に出した手で攻撃を防ごうとしてはいたが、部屋の外の壁まで吹っ飛んでいた。こんな好機会を逃す筈もなく。狭い部屋を飛び出すと、一瞬チラリと忍を見やってから瞬歩でその場から消えた。

で、今に至る。

時間にすれば私が副長の部屋を出てから約1時間後。せめて襖は開けるべきだったと思いながらも、副長の部屋に現れることにした。彼は重たい物がドサッと落ちる音に弾かれたように振り返ってくれはしたが、右手は刀の柄に伸びていた。部屋が明るかったのが幸いして斬りかかられるのは免れたが、瞳孔の開き具合はハンパない。そして今私はその瞳孔に絶賛睨まれ中。怖いから。なんかむしろ吸い込まれそうだから。そう思っているのだが、退を担いでの瞬歩の連用の所為で息も絶え絶えなので会話は不可能。


「…ふ、ふくちょ、」

「何があった!?」


漸く言葉に出来たと思えば、同じく漸く我に返った副長の怒鳴り声に遮られる始末。もう少し待って欲しかったが、これ以上待たせると彼の大声が屯所内に響いてしまい、内密の調査が意味をなさなくなる。退の努力が水の泡だ。


「…副長。落ち着いて、下さい。他の、隊士に気付かれます」

「わ、悪ィ…」

「取り敢えず、退を医務室に連れていきましょう。ここに来る途中で医療班に連絡を入れてあります。口止めはしておきましたのでご安心下さい」

「分かった。俺が連れて行こう。ここからだったら裏庭を通れば他の奴らに見つかんねェしな。お前はちょっと休んでろ」

「申し訳ありません。お願いします」


そう言えば副長は何か言いたげな顔をしながらも、急いで退を背負って医療班に届けに行った。
さっきの副長の声で総悟がなにか勘づいてなけりゃいいけどなぁと思いながらメールを打って箪笥に寄りかかっていれば、副長が帰って来た。意外にもお早いお帰りだ。


「…見張りに腕のいい忍がいたもんで、ちょっと本気で逃げちゃいました」

「忍?…随分とまぁ念の入れようだな」

「退はその忍の痺れ薬付きクナイでやられたみたいです」

「そうか……お前は大丈夫か?」

「大丈夫です。ただ単に、走りすぎて息切れしてただけですから」


ご心配おかけしましたと付け足せば、お前のお陰で腹切らなくてすみそうだと言って煙草をくわえた副長。そんな彼に軽く笑ってから、死覇装の懐から取り出した紙を差し出すと、なんだと目で問われた。


「退がやりました。完全なる“クロ”です」


そう言って今度はニヤリと笑うと、副長も漸く安堵したように笑みを零した。























(なんだかんだ言って副長サンと仲良くやってるんスね)
(…あの土方とか言うヤツも喜助みたいに過保護そうやけどな)
(ヤダなぁ〜僕のは過保護って言わないっスよ、ひよ里さん)
(過保護なヤツは自覚ないから皆そう言うで。真子もリサも…)
(そういうひよ里さんだって)
(黙っとき。ウチは自覚ありや)
(自信満々に言えることでもないっスよ…)

prev/next

31/129


▼list
▽main
▼Top